メクル第429号 絵本作家・西平(にしひら)あかねさん(51)=佐世保市= 失敗しても開き直って

「回り道することでチャンスが巡ってくることだってあるんですよ」と語る西平さん=佐世保市内の自宅

 おばけが主人公の絵本などを手がける西平(にしひら)あかねさんに、作品に込(こ)める思いや創作(そうさく)のきっかけなどを聞きました。

 東京生まれ。小学生のころは病弱で学校を休みがちでした。勉強やスポーツなどでクラスメートに遅(おく)れぎみでしたが、たくさん本を読むことで「学校がすべてじゃない」と思うようになり、気持ちが楽になりました。
 大好きな絵本を自分で描(か)いてみたくて、小学2年から毎年夏休みに作品づくりに取り組むようになりました。完成したり、しなかったり。アイデアが底をつき、高校3年のときに「才能(さいのう)がない」とやめてしまいました。
 でも、絵しか得意なものがなく、芸術家(げいじゅつか)になろうと筑波(つくば)大芸術専門学群(せんもんがくぐん)に入学。大学院でも油絵の描き方などを学んだ後、長崎市で美術教諭(びじゅつきょうゆ)をしていた夫と結婚(けっこん)して一緒(いっしょ)に暮(く)らし始めました。大学で出会った人でした。
 夫の転勤(てんきん)で住むことになった南島原市で転機が訪(おとず)れます。当時32歳(さい)の主婦(しゅふ)。5歳の長女と3歳の長男に「早く寝(ね)ないとおばけが出るよ」と言ったら、本当に怖(こわ)がりました。この2人のために姉弟の分身のようなかわいいおばけたちが登場する絵本を作りました。
 内容(ないよう)は、おばけが真夜中に遊んだり、保育園(ほいくえん)に通ったり。これを福音館(ふくいんかん)書店主催(しゅさい)の手づくり絵本コンクールに出品。結果は落選でしたが、後日、編集者(へんしゅうしゃ)が自宅(じたく)に訪(たず)ねて来て、作品が面白いから絵本作家にならないかと薦(すす)められました。
 3年後の2003年、その作品を手直しした「おばけかぞくのいちにち」が絵本「こどものとも 年中向き」8月号に掲載(けいさい)され、絵本作家として歩き出しました。
 これまでに手がけた絵本は、おばけを主人公にしたシリーズ6作を含(ふく)む計11作品。自分が面白いと提案(ていあん)した作品がぼつになるのはつらいことです。
 より面白く、分かりやすい内容にするため、編集者と電話でやりとりをするだけでなく、長崎空港で会って文や絵、構成(こうせい)などを修正(しゅうせい)していきます。一作品30ページくらい。20枚(まい)くらいの絵が必要で、納得(なっとく)いくまで描き直します。
 絵は、淡(あわ)い色を使った水彩画(すいさいが)で、幻想的(げんそうてき)な雰囲気(ふんいき)にこだわっています。登場する風景は、昔住んでいた南島原市加津佐(かづさ)町の海岸や長崎市の眼鏡橋(めがねばし)など。なじみのある場所ばかりで、楽しみながら描いています。
 絵本は子どもが楽しむもの。「面白かった。おやすみなさい」と気持ち良く眠(ねむ)りにつけるように、どの作品もハッピーエンドにしています。
 人生山あり谷あり。病気をしたり、失敗したり、チャンスを逃(のが)すこともあります。つまずいたり、ずっこけたりしたら開き直り、ひっくり返って本を読んでほしい。そして心が落ち着き、充電(じゅうでん)できたら、また歩き出せばいい。遅れたり、回り道したことでチャンスが回ってくることだってあるんですよ。

 【プロフィル】西平あかね(にしひらあかね)1968年東京生まれ。94年、筑波(つくば)大大学院修士課程芸術(しゅうしかていげいじゅつ)研究科を修了(しゅうりょう)し、結婚(けっこん)して長崎市に移住(いじゅう)。96年に南島原市に移(うつ)り、2000年から絵本の制作(せいさく)を始める。主な作品に「おばけのおつかい」(福音館書店)「ぶんかいきょうだい」(アリス館)など。

作品は水彩絵の具を使って描いている

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