古川さん芥川賞受賞

 植物の繁殖力にはいつも驚かされる。特に春から夏にかけて自宅や実家の狭い庭は毎年、いつの間にか雑草に占領され、途方に暮れる▲うっそうと繁茂するイメージが印象的な小説「背高泡立草」(すばる10月号)は、横浜市在住の古川真人さん=福岡市出身=の著。第162回芥川賞に決まった。母は平戸市の的山大島出身。祖母は同島で暮らしている。本県ゆかりの作家であり心から祝福したい▲同島とみられる本県の小島が舞台。主人公である娘の母の実家で、納屋周辺の草刈りをするため島外から親族が集まる。世間話や祖母の思い出の断片からさかのぼり、江戸期や戦中戦後の一族に関わる物語を現代と交互に挿入。島の記憶を立体的に描き出した▲私たちにはそれぞれ先祖がいて、歴史には残らない一族の歩みがあるが、世代が変わっていく中で忘れ去られていく。納屋を覆い尽くし、のみ込もうとする植物群の草刈りは、薄れゆく一族の来歴をつなぎ留めようとする行為なのかもしれない▲一文が長い個性的文体。方言が飛び交い、娘の親族関係も複雑なため読みにくさを感じるかもしれないが、次第に慣れてくるから不思議だ▲掲載誌を閉じ、本県離島の先人や、先祖に思いをはせた。そして、まずは実家の空気の入れ替えと草刈りをしようと決めた。(貴)

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