日本ガイシ、メンテナンスフリーIoTを実現する「EnerCera」 -CES2020レポート6

IoTの仕組みを実際に展開する場合にボトルネックとなる領域が通信と電源だ。

データを取得して送信するための電源と、送信するための通信手段をどのように実現していくかが課題になることが多い。中でも電源は機器の用途はもちろん、設置場所やデバイスの形状に応じて最適化する必要がある。

例えば玄関の外に監視カメラを設置する場合、カメラ自体は簡単に設置できたとしても電源供給をしようとすると電気工事が必要なるケースが多い。

ドアにスマートロックを付ける場合も家庭用の場合は乾電池タイプが多く、定期的に電池交換が必要だ。また再び利用拡大が期待されるウェアラブルデバイスも日々の充電は面倒だという声が多い。

このような課題が顕在化する中、日本ガイシは2018年に超小型リチウムイオン二次電池「EnerCera(エナセラ)」を発表した。そのEnerCeraは2019年春に量産体制に入り、今回のCES2020においてもLVCC Southにブースを構え、協業パートナーを積極的に開拓していた。

2019年12月から量産が始まったコイン型
すでに量産化され、スマートカードメーカーなどに出荷しているパウチ型

EnerCeraはIoTデバイスの利用を前提として開発された小型電池であるため、大きく3つの特徴がある。

1つは一般的なオンボードに対応するコイン型だけでなく薄さ0.45mmのパウチ型があること。

2つ目はBLE、LPWAだけでなく、セルラー通信にも対応するために最大500mAの電流が流せるタイプも用意されていること。

3つ目は定電圧充電が可能なため様々な充電方法でメンテナンスフリーIoTが実現できることだ。特に薄さと、セルラー通信が可能なための500mAという大電流への対応は大きなポイントだ。

驚異的な薄さで500mAを実現するEnerCera Pauch EC382504P-P
店頭における電子POP、スマートキー、カード型への搭載に取り組んでいる

パウチ型のユースケースとしてプラスチックカードへの搭載が展示されていた。

キャッシュカードやクレジットカードに指紋センサーが搭載されていて、カード単体で生体認証が実現可能となるという。

またATMや決済デバイスとの接触による充電、さらには非接触式での充電も可能となるため、認証のためにセンサーが動作した電力を利用者は意識せず補うことができる。車などのスマートキーなどもEnerCeraのメリットが活かせる領域だ。車に乗車後に非接触充電をする仕組みを車内に標準装備すると電池交換は不要になるだろう。

スマート農業を支援する環境モニタリングシステム

他社とコラボレーションした事例として、ルネサス社とは土の表面と地中の温度差を活用した発電によるメンテナンスフリーの土壌監視のデモが展示されていた。

温度差に加えて太陽光も採用していたがセンシングや通信の頻度をコントロールすることで温度差発電だけでも稼働できるという。また、振動発電などエナジーハーベストから得られる電力を倍増するリコー社の回路に、EnerCeraを組み合わせたシンプルで高効率な電源ソリューションも展示していた。

EnerCeraとリコー社の利用電力増倍化回路によるIoT用電源システム

CES2020では洗練されたウェアラブルデバイスが多様に展示されていた。

特に話題となったのは、メディロム社の「Mother」だ。

体温による温度差発電と太陽光発電というエナジーハーベストを活用したメンテナンスフリーウェアラブルで、今後、このような充電不要のウェアラブルデバイスの増加が期待される。形状だけでなく、多様な充電方法や幅広い電流に対応するEnerCeraは間違いなくメンテナンスフリーウェアラブル市場の拡大を後押しするだろう。特にこれまでのエナジーハーベストでは実現できなかったセルラー通信に対応している電池があることは大きな魅力だ。

EnerCeraによるメンテナンスフリーIoTデバイスの登場に期待が膨らむ

既に一部の百貨店で取り扱っているベルトバックルにセンサーが搭載されたWELTなどもEnerCeraが入ると面白そうだ。歩いている時の振動などで充電できる仕組みが導入されれば、バックルを充電する必要がなくなり、いつものベルトと全く同じ使い方をしながら、体形変化や生体データの収集ができるようになる。

充電の方法もエナジーハーベストの進化による実用性向上は引き続き期待をしたい領域だが、実用性が見えてきた無線充電も注目しておきたい。

Sandsに展示されていたWiPowerは既に1m以上離れていても電力供給が可能であることを実証している。また5Gのネットワークスライシング対応などによる進化で、セルラー通信に必要な電力自体の低下も期待できる。

エナジーハーベストやワイヤレス給電など多様な充電方法、小電流から大電流まで対応する電池の超小型かつ超薄型化を実現したEnerCeraの登場に加え、今後期待されるさらなる通信の省電力化によってウェアラブル市場含め2020年代はIoT市場が一気に拡大するだろう。

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