「支払わないとブラック登録」はウソ、「Paidy悪用詐欺」の根本的問題

成人の日の3連休明け辺りから、後払いサービス「Paidy」を悪用した詐欺事件が話題になっています。

フリマアプリで買い物をしたら、同じ商品の請求書がPaidyからも届き、二重払いをさせられるのではないかと不安に駆られた人たちが、ネット上で被害を報告。一気に情報が拡散し、テレビのワイドショーでも大きく取り上げられました。

しかし、取り上げ方が中途半端で、請求書を受け取った人たちの不安を煽るような書き込みも散見されます。そこで、もう少し詳細に問題を整理してみたいと思います。


フリマアプリと後払いサービスを悪用

まず、何が起きているのかをおさらいしておきます。

フリマアプリで買い物をする場合、商品を受け取ったことをフリマアプリの運営会社に通知すると、運営会社側でクレジットカードでの決済処理をし、出品者に代金を支払います。本来なら出品者は手元に商品がある状態で出品すべきですが、売れてから仕入れるということも現実には可能です。

本件の出品者も、売れてから家電量販店で商品を買い、家電量販店にはフリマアプリで落札してくれた落札者の住所・氏名宛てに商品を送るよう指示しました。そして、代金の決済方法として選んだのが、後払いサービスのPaidyです。

家電量販店は商品の代金をPaidyに請求し、Paidyが先に代金を家電量販店に立て替え払いし、後からPaidyの利用者に立て替えた代金を請求します。家電量販店としては、1人1人の個人よりは資金力も信用力もあるPaidyに一括で払ってもらうほうが安心ですし、代金回収の手間も省けます。

一方のPaidyは、家電量販店に立て替え払いをし、1人1人のユーザーから代金を回収する手間を請け負うことで、家電量販店から手数料をもらえます。つまり、仕組みはクレジットカードと同じです。

出品者は身銭を切らずに代金を詐取

Paidyから利用者への請求は、メールとSMS(ショートメッセージサービス)で行います。いくらをいつまでに振り込んでください、というメールを受け取った利用者が、Paidyに支払いをすれば取引は完了します。

ところが、本件では、請求メールが来ても出品者が無視して支払わずに放置したため、Paidyは商品の送付先である落札者に請求書を送しました。一方で、出品者は自身が一銭も払わずに、落札者から商品代金を受け取ることができた、というのが一連の流れです。

それでは、なぜPaidyは落札者に請求書を送ったのか。送付先の住所・氏名は注文した人のものだと信じたからでしょう。

本件について、Paidyは1月14日付で謝罪のリリースを出し、謝罪の言葉と、警察に全面協力する予定であること、対策を立てるまでの間サービスを停止することを表明。また、自社ホームページに「フリマアプリの不正利用による二重請求はいたしません」と掲載し、被害にあった人は同社に連絡してほしいとしています。

模倣犯が出る懸念があるとして、Paidyはこのリリース以外に個別の取材には応じないとしているので、ここから先は、後払いサービス業界関係者への取材を踏まえた、推測を含めたものになることをお含みおきください。

クレカのような本人確認はナシ

Paidyは、お金の流れこそクレジットカードと同じですが、利用者にとっての利便性は全然違います。

クレジットカードを作るには、さまざまな手続が必要です。クレジットカード会社は、自社が立て替えたお金を後から回収できないような人にカードを持たせません。個人の信用情報を登録している機関に情報照会をするのはもちろん、本人だということを証明する身分証明書、場合によっては収入があることを証明する書類を求められることもあります。

しかし、Paidyは携帯電話の番号とメールアドレスをPaidyに伝えるだけで利用できます。ここが肝心な点なので、もう一度繰り返します。電話番号とメールアドレスさえ伝えればいい。つまり、名前も住所も生年月日も伝えずに済み、身分証明書の提示も不要なのです。

Paidyは後払い事業者としては後発組なので、ユーザーの利便性で差別化を図りたかったのかもしれません。しかし、何度メールを送っても払ってもらえず、電話をかけても出てくれなかった場合、名前も住所もわからず、どうやって督促するつもりだったのでしょうか。

おそらく、商品の送付先はPaidyが使える加盟店から情報提供を受ければわかるので、商品を受け取った人が利用者本人、受け取った場所が利用者の住所地だろう、というロジックだったと考えられます。しかし、何しろ身分証明書を提示する義務がないのですから、それこそ架空の名前で空き家を指定することも可能です。

本人特定には3つの情報が不可欠

一方、加盟店に対して支払い義務を負っているのはPaidyであって、利用者ではありません。落札者はPaidyとは何の契約も結んでいませんから、もちろん支払う義務は一切ありません。

ネット上には、落札者はPaidyからの請求書を無視すると、個人信用情報機関にブラック登録されて、5年間カードが使えなくなるなどという、とんでもないウソが書き込まれています。

クレジットカード会社などが個人の信用情報を登録しているシー・アイ・シー(CIC)という会社があるのですが、ここにPaidyが加盟していることがPaidyのホームページ上の会社概要に載っています。

だからこんなニセ情報を思いつくのかもしれませんが、個人の信用情報を登録するには、間違いなくその人の情報である必要があります。本人を特定するものは名前・住所・生年月日です。世の中には同姓同名の人がたくさんいるのですから、当然です。

しかも、これらは身分証明書に記載されているものと一致しなければなりません。Paidyは送付先としての落札者の住所と名前は把握していますが、それが身分証明書と一致するかどうかを確認しているはずもなく、第一、生年月日は把握できません。

そもそも契約関係もないような人の情報を、PaidyがCIC登録することなどできません。CICに個人情報の照会をするには、照会したい人物を特定する情報として、身分証明書と一致する住所・氏名・生年月日が必要です。利用者に名前すら聞かないビジネスなのに、CICに加盟している理由も不明です。

新手の詐欺に見えるが古典的な犯罪

加盟店に対しては支払い義務を履行しなければならないのに、利用者には逃げられ、名前すら知らないから追うこともできず、利用者だと思っていた相手は別人で請求する権利すらない――。今回の場合、Paidyは踏んだり蹴ったりなのです。

金融事業は何かと手間暇のかかるビジネスなので、その非効率性を効率化すれば格段に儲かると考えがちです。しかし金融、特にお金を回収することで完結するビジネスは、回収に最も労力がかかります。

入口での面倒な手続きは、すべては確実に回収するために必要な手続きなのです。貸すのは簡単だけれど、回収にはノウハウが必要になります。

今回はフリマアプリという舞台を使ったので、新手の詐欺のようなイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、他人になりすまして商品やお金をせしめる不正は、昔からある古典的な犯罪です。

二重請求を受けた人は警察に相談を

後払いサービス自体は誕生から20年近くが経過していて、特に新しいビジネスというわけではありません。

家電量販店のような、転売価値があって高額な商品を扱う小売店を加盟店に加えることは、非常にリスクが高いということも業界の常識です。犯罪を犯す側の“業務効率”を考えると、転売が効きにくい小額の商品、たとえば低価格の衣類や化粧品、健康食品などは、不正のターゲットにはまずなりません。

二重請求を受けた人は、決してすぐに支払うことなく、二重請求であることの証拠を持って、警察に相談していただきたいと思います。支払わずに放置しても何の損害もありませんが、警察に相談することが犯人特定につながります。何しろPaidyは不正を働いた利用者の名前すら知らない可能性もあるのですから。

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