2020年は日本における教育の節目の年、中学受験にも大きな影響はある?

中学受験に関する数字を森上教育研究所の高橋真実さん(タカさん)と森上展安さん(モリさん)に解説いただく本連載。

2020年は"新指導要領元年"、日本の教育が大きく変わる年になりそうです。

ニュースでも度々報じられた新たな大学入学共通テストの導入は知っている方も多いと思いますが、その他にも小学校ではプログラミング教育と英語が必修科目となります。

中学受験では小学校で学んだことが出題されるため、これらの影響が反映されるのも時間の問題でしょう。どのような点が変わる予定なのでしょうか、それとも今のままの学習で充分なのでしょうか。

今回の中学受験に関する数字…2020


現在の中学1年生から新たな英語試験が導入予定

<タカの目>(高橋真実)

あけましておめでとうございます。新年最初のテーマは"2020"。2020年は日本の教育の大きな節目の年となります。

高大接続改革の目玉の1つである大学入学共通テストが2020年度からスタートします。新たな共通テストの新たな試みであったはずの思考力・表現力を評価するための国語・数学の記述式問題の導入は、ご存知のとおり見送りとなりました。

また、英語4技能を評価するための民間試験の活用も見送り、新たな英語試験については2024年度からの導入を目指すと文部科学省は発表しています。

なぜ2024年を目指すのか。これには学習指導要領の改訂が関係しています。学習指導要領はおよそ10年ごとに見直しが図られています。新たな指導要領は先行実施期間を経て幼稚園、小学校、中学校の順に全面実施となり、高校も1年生から順次実施となっていきます。

今回は、幼稚園が2018年度、小学校が2020年度、中学校が2021年度、高校が2022年度から新指導要領が実施となります。

いよいよ2020年度から英語とプログラミングが必修化

入学時から新指導要領で学ぶ高校生が3年になるのが2024年度。4技能を育成して"英語を使う力"を身に着ける新しいカリキュラムを反映した大学入学共通テストにおいて新しい英語試験もスタートさせるということになります。

小学校では2020年度から新指導要領が全面実施となりますが、ここで注目されるのはプログラミング教育のスタートと、英語の教科化です。

プログラミング教育といっても、新たな教科「プログラミング」が登場するわけではありません。各教科学習の中にプログラミング的思考の育成、プログラミングの要素を取り入れていくというものです。

国の来年度予算編成で児童・生徒が学校で1人1台パソコンが使える環境を整えるための環境整備が決定しましたので、プログラミング教育の環境整備も一層進んで行くと考えられます。

英語教育については、小学校5,6年生で教科化し、これまでコミュニケーションを中心に行われていた外国語活動に加え、「読む」「書く」の要素も入ってきます。

学習指導要領の改訂は中学受験にどう影響する?

中学受験において注目すべき点も実はこの2つにあります。

中学入試は小学校で学んできた内容を問うものですから、こうしたカリキュラムの変化は当然いずれ反映されることとなります。

英語入試については、既に英語を使った入試を行っている学校も増えています。また、現在は英語入試を行っていない学校も、小学校での学習内容を踏まえ、いずれ導入の是非を検討していくとしている学校が少なくありません。

こうした学習指導要領の改訂、今後、中学受験にどのような影響が表れてくるのでしょうか。

中学入試と高校入試は待ったなし

<モリの目>(森上展安)

タカの目さん、あけましておめでとうございます。読者の皆様、今年もよろしくお願いいたします。

さて、新年のテーマは、2020ということで、令和元年にちなんで話せばさしずめ今年は新指導要領元年、というに相応しい年ですね。

理由はタカの目さんのご指摘通りで、10年ごとに改訂されるナショナル・カリキュラムがその年を境に完全に実施されるからですね。もともとはこれと同時に大学受験の仕組みも変える予定にしていましたが、ナショナル・カリキュラムが高校まで完全に実施される2024年度入試からにしよう、と政策の大転換(?)が昨年末にあったのは衆知の事実です。

大学入試はさておいて、中学入試と高校入試は待ったなし。教えられることが変わってしまうのですから入試もこれに添わなければフェアではありません。

小学校完全実施が2020「年度」です。「年度」とありますから実際の新課程を学習した小6生が中学受験を迎えるのは2021年2月になります。だから2020年2月にある中学入試はその1年前。今入試は旧課程で逃げ切りできる世代なわけです。

また、高校入試ですが、中学完全実施が2021年度、つまり2022年2月~3月の入試から対応となります。つまり今の中1生の高校入試から新要項入試となります。

東京都は独自で英語試験の準備を進めている

英語入試4技能化で大学入試は迷走しているのを傍らにみて、高校入試では東京都が着々とスピーキング・テスト実施に向けて準備を重ねています。

今のところの計画によれば、11月に大学等の施設で中3生対象に都立高入試に活用すべくCBT(コンピューターによるテスト)で各人がコンピューターと応答をしてスピーチしていくテストが実現しそうです。

検定のようなテスト(つまり基準準拠の絶対評価)に設計されている、とのことで内容も学習指導要領に沿った内容に作成されているようです(つまり既存の民間検定は使用せず、都教育庁が民間に発注して高校入学用にスピーキングの絶対評価が可能なものに開発されたもの)。

東京都はこれを私立高校の入試に利用してもよいし、他府県の公立・私立高校が利用してもらってもよいとしています(開発費がかかっていますからなるべく多くの利用が見込めればその足しになりますし、何よりデータが多く集まり次年度以降より良い評価にもつながることでしょう)。

つまり高校入試における英語の4技能評価は可能な状況になっている、といってよいと思います。―ここから先はモリの目の勝手な推測ですが、都立高には都立中高一貫校もあり、そこでは入学に際して適性検査が行われています。

現状では英語の検査はありませんが、同じ公立一貫校で言えば、さいたま市立大宮国際中等教育学校が英語試験を実施していますから、このようなスピーキングテストの延長上に都立中高一貫校のスピーキングが開発されるのは、それほど難しくないかもしれません。

さて、英語はこのようにペーパーテストになじまないスピーキングテストも対応できる―つまり新課程の4技能評価に対応できる状況になりつつあります。

中学受験ではすでに記述式は定着している

一方、プログラミングについては、現場の教育が全くといってよいくらい追いついていないため、しばらくは先進的なプログラミング教育実施校から徐々に広がっていくことだろう、と思われます。

しかし、何といっても新課程の目玉は、大学入試で見送られた「記述式」です。またそれは教科横断的なスキルとしてのものですね。

中学入試で記述式は「両極」で実現しています。「両極」とは私立難関上位校であり、一方は、公立一貫校と私立の「適性検査型入試」です。特に適性検査型では教科横断型での記述ですからそこでは新課程が実現(?)しています。

習熟問題から問題解決力を問う試験へと変換なるか

さて、タカの目さんのご質問にはこれで回答になっている、とはいえませんね。

というのも、私立中学、国立中学の主要入試は、一部難関校をのぞいてその多くは習熟問題といわれるかなり応用的な文章題が大半だからです。
そこで聞かれていることは知識・技能であり、それまでの評価観として当然の観点です。しかし、新課程は、そこを転換して思考力・表現力・判断力を新しい観点としました。当然ながらそこで用いられるスキルは違ってきます。

極めて大胆に言うならば、新しい観点に沿うならば知識・技能は基礎がしっかりしていれば、あとは問題ごとに必要な知識・技能は現場調達でよいと考えていることです。

もっとも分かり易くいうなら連載第14回で話題にした東京女子学園の「スマホ持ち込みOK入試」のように、問題解決に必要な応用的な知識・技能は現場でコンピューターから調達する、というテストのあり方です。

目下の中学入試問題の大半であり、主流を占める「習熟問題」がこのタイプに変われるかどうか、が本質的な新課程入試といえるかどうかの一つの分かり易い指標だろうとモリの目は考えます。それと、いわゆる口頭試問が有力な選抜方法として一定の位置を占めるようになるのかどうかだろうと思います。

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