特集セリの生産現場を追って

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◆名取、食の歳時記
私たちが暮らすまちはセリの栽培が盛んだ。
主な産地は下余田地区と上余田地区。収穫は毎年8月から始まり翌年4月まで続く。正月向けの食材として需要が高まる年末はとりわけ書き入れ時となる。
鍋に天ぷらに雑煮と、寒さに凍える季節はセリを使った料理がおいしい時期でもある。生産を支える現場を訪ねた。

北西の季節風が吹くころ、水を張った田んぼの中で行う収穫風景は年の瀬の訪れを告げる風物詩。冷たい風が吹く11月末のある日、下余田地区で40年余り、セリ栽培を行う農家を訪ねました。
「ここで栽培しているんですよ」
わずかにすがすがしい香りが漂う。農家が指さす先にセリ田が広がります。イネを育てる田んぼのように水で満たされ、鮮やかな緑色の葉が揺れています。
田んぼ脇のパイプから流れる水は絶えずセリ田に注いでいます。名取川の伏流水(地下水)だといい、「おいしいセリを作るにはこの水が欠かせない」と農家は胸を張ります。
収穫に道具は使いません。根が埋まっている泥の中に両手を入れ、傷つけないように丁寧に取っていきます。
胴長姿で水に浸かりながらの作業。「出荷量が多い冬場は長い時で8時間ぐらい作業することもありますよ」
摘んだばかりのセリは、根も茎も葉も伏流水で丹念に洗われます。「セリ鍋では根を食べるので泥をきれいに落とさなければなりません」。形をそろえて束ね、集荷場へ運ばれます。
「青々とした茎とシャキシャキとした食感が名取のセリの魅力。丹精込めて育てたセリを味わってもらいたいですね」。出荷を待つセリを見ながら農家は頬を緩ませました。

〇400年前から栽培続く
『名取市史』(昭和52年、名取市刊)によれば、名取でセリ栽培が始まったのは今から約400年前。「江戸初期の元和年間の1620年ころから野生のセリを改良して栽培をはじめた」といいます。
「寒い正月ごろに収穫されて食膳に供され、色と味と香りが珍重されてきた」という記述のとおり、冬場は農家にとって最も忙しい時期となります。

〇全国の市場に出荷
正午を過ぎたころ、軽トラックがひっきりなしにやってきます。下余田芹せり出荷組合(大友智義組合長)の集出荷センター=下余田字飯塚=をのぞくと、「仙台せり」と書かれた段ボール箱が次々と運ばれてきます。
セリが入った箱が届くなり、検査員と呼ばれる農家たちが根や茎などの状態をチェックし、等級を決めていきます。
検査が済んだセリは段ボールの中に保冷材とともに詰められ、トラックや航空便で全国の市場へ運ばれます。取材したこの日は仙台市のほか、北海道や首都圏の市場に出荷されていきました。
組合によれば下余田地区の栽培農家は35軒。「セリ鍋人気」を受けて需要が増える一方、ここ数年は栽培を担う農家の高齢化や後継者不足といった課題にも直面しているといいます。
大友組合長は「需要が高まり出荷が追いつかない。(生産量を)維持するので精いっぱい」と話します。
さらに昨秋の台風被害で生産量が減少しましたが、「心待ちにしている消費者の期待に応えられるよう生産量を例年並に戻したい」と語ります。

種ゼリの生育から始まって収穫までの期間はおおむね1年。照る日も曇る日も、暑い日も嵐の日も大切に育てられたセリはこうして消費者のもとへ旅立っていく。
セリ料理を食べるとき、ほんの少しだけ生産現場をしのんでみよう。その味は格段おいしく感じられることだろう。

◆収穫を体験水の中は案外冷たくない
収穫は水の中に浸かりながら行います。風が氷のような冷たさを帯びる冬場の作業は見ているだけで凍えそう。
「冷たそうですね。冬の収穫はさぞ大変でしょう」。栽培農家に声を掛けると「やってみれば分かりますよ」の言葉が返ってきました。というわけで筆者も作業を体験してみました。
肘まで覆う手袋、厚さ約1センチのゴム胴長を身に付けてセリ田の中へ。水の深さは膝あたりまであります。
泥に足を取られまっすぐ進むのが難しい。転ばないようにセリを踏まないように慎重に足を運びます。
セリが群生する場所に腰を下ろし、農家の手順に倣って収穫。膝立ちの姿勢で両手を泥の中に入れ、根をつかんで摘んでいきます。根を傷付けないように静かに、けれども素早く作業をすることが重要です。収穫は終始その繰り返し。1時間近く作業を続けてみても水の冷たさは感じません。
「地下水なので水温は年中15度ぐらいで一定しているんですよ。真冬でも冷たく感じることはないです」と農家。収穫最盛期の冬季は一日の大半をセリ田の中で過ごすのだといいます。
県内産の約8割を占める名取のセリは日々、このような生産現場から生み出されています。

◆セリのいろは『名取せり本』で学ぼう
名取のセリについてもっと親しんでもらおうと昨冬、発刊されたのが『名取せり本』です。
カラー刷、24ページの冊子の中では生産現場の歳時記や料理レシピ、栽培史などを写真やイラストを交えて紹介。この一冊でセリにまつわるあれこれを丸ごと知ることができます。市役所1階や各公民館で配布中。セリを食べる機会が多いこの時期に手に取ってみてはいかがでしょう。