岩崎良美「恋ほど素敵なショーはない」ほど素敵な名曲はない! 1983年 1月21日 岩崎良美のシングル「恋ほど素敵なショーはない」がリリースされた日

タッチもいいけど、オシャレなポップスもおススメ「恋ほど素敵なショーはない」もどうぞ

今回は、今から37年前の1月21日に発売された岩崎良美のシングル「恋ほど素敵なショーはない」を取り上げたいと思います。

皆さんは、“岩崎良美” の楽曲といえば、何を思い出すでしょうか。リマインダー世代の方ならば、姉・岩崎宏美の妹として頻繁に流れていたファーストシングルの「赤と黒」(1980年2月21日発売)、“資生堂シャワーコロン” のCMソングとなり『ザ・ベストテン』にランクインしたセカンドシングル「涼風」(同年5月21日発売)、新人賞レースで披露されることの多かったサードシングル「あなた色のマノン」(同年8月21日発売)、さらには「オリエント時計」CMソングにもなった 4thシングル「I THINK SO」(同年12月21日発売)といった、デビュー年の4曲の印象が強いかもしれません。

あるいは、30代以下の方ならば、「タッチ」(1985年3月21日発売)や「愛がひとりぼっち」(同年10月16日発売)や第58回選抜高等学校野球大会入場行進曲にもなったそのB面曲「青春」といった TVアニメ『タッチ』シリーズの一連のシングルの印象が強いことでしょう。

現に、私自身が若い方に「岩崎宏美さんのCD復刻を手がけました」と自己紹介すると、ほとんどの人が「えっ、あの「タッチ」の!?」と岩崎宏美 / 良美を混同するほど(笑)、“「タッチ」といえば、岩崎さん” なのです。ちなみに、「タッチ」の平成カラオケランキング(平成5年~平成30年、JOYSOUND調べ)では、「タッチ」は総合11位で、これは80年代女性ボーカル曲の中でもダントツの人気です。

しかし、岩崎良美には、歌謡曲とニューミュージックの中間的な立ち位置のオシャレなポップスが非常に多いことは、あまり知られていないような気がします。その魅力を知るには、前述の中間期となる81年~84年あたりの作品を聴くのがおススメ。そして、その最たる作品が、このシングル12作目となる「恋ほど素敵なショーはない」でしょう。

記憶に残る名曲、作詞:売野雅勇 / 作曲:梅垣達志 / 編曲:大村雅朗

本作は、当時本人が乗馬しながら出演した日清豆乳のCMソングとなったことで、「愛してモナムール」(1982年1月21日発売)以来4作ぶりの週間 TOP30 入り(最高22位)、推定売上枚数も7万枚突破のヒット(いずれもオリコン調べ)となりましたが、音楽をこよなく愛するリスナーからは業界内外を問わず高い人気、つまりそれ以上に “記憶のヒット” となっていることを実感しています。それは、やはり楽曲自身の魅力によるところが大きいでしょう。

まず、ミュージカル映画の名作『ショウほど素敵な商売はない』をもじったインパクトのあるタイトルと、失恋をショーの終わりと見立てた全体のストーリー、そして大半を英語にすることで、その湿っぽさを排除することに成功したサビ部分の歌詞。作詞は、前年に中森明菜「少女A」(1982年7月28日発売)で一躍有名となった売野雅勇によるもので、彼が得意とする青春のほろ苦さや、大人の粋な遊び… たとえばクーペを乗り回すなど(笑)とはまた異なる大人の女性が登場します。

次に、3分37秒の間に何度も転調していくメロディーも、サウンド志向のリスナーも唸らせた要因でしょう。こちらは、『ヤマハポピュラーソングコンテスト』を経て、作曲・編曲家およびギタリストとしても活躍してきた梅垣達志によるもの。今では、大型特番に必ずミュージカルコーナーが設けられるほどに、演劇的な J-POP も増えましたが、3~4分でまとめるべきという暗黙のルールがあった昭和の流行歌の中で、これほど展開の忙しい楽曲は、当時なかったのではないでしょうか。展開の忙しさという点でいえば、「演歌チャンチャカチャン」(1977年11月25日発売)にも負けず劣らずかも(笑)。

それでいて、決して実験的な作品に聞こえさせないのは、全体を上品にまとめ上げた大村雅朗によるアレンジによるところが大きいでしょう。途中まで、穏やかに進みつつも、大サビ前でいったんスローテンポとなり、さらに半音上がる大サビに昇華していく様子は、まるで前のステージで恋の終わりを悟り、再び次の輝けるステージへと旅立っていく女優が映し出されるようです。

トドメに、そんな素晴らしい素材を、伸び伸びと歌っている岩崎良美の歌唱もお見事。もしも姉の宏美が歌っていたなら、マイケル・ジャクソン好きが昂じてファンキーな仕上がりになったり、「聖母たちのララバイ」(1982年5月21日発売)をはじめ『火曜サスペンス劇場』主題歌路線よろしく、ラストの大サビがより悲しげになって、犯人が連行されるのを想像したり、それはそれで聞いてみたいが(笑)、良美の自然でカラっとした歌声だからこそ、成立する一流のポップスだと、あらためて歌手・岩崎良美の個性を感じさせます。

時間はかかっても、良い作品は必ず誰かの耳に届く!

余談ですが、私はかつて、女性ボーカルの隠れた名曲をより多くの人に届けたいと思い、この「恋ほど素敵なショーはない」を収録したコンピレーションCD『名曲発掘!ジュエル・バラッズ』(2005年10月19日発売、すでに廃盤)を企画させてもらったのですが、あまりのコアな選曲だったが為に、当時では考えられないほど低調な初回200枚しか売れませんでした(苦笑)。

そのあまりの低さに、当時、ポニーキャニオンの制作部長でいらした、故・渡邊有三氏にお手紙でご相談したところ、

「恋ほど素敵なショーはない」(岩崎良美)、「そのあとは雨の中」(工藤静香)、「誕生」(中島みゆき)、「蒼夜曲(セレナーデ)」(尾崎亜美)…、良い歌がたくさんあるなと思ったら、僕が手掛けた歌が多いんですね。でも、良い作品は時間がかかっても、必ず誰かの耳に届きます

… と、大器ゆえなのかなんとも穏やかな文体のお返事をいただきました。しかし、その数日後、本田美奈子さんが急逝され、このコンピに彼女の当時の隠れ名曲「つばさ」が収録されていることが話題となり、一時は Amazon のコンピレーション部門のランキングで2週間ほど1位が続き、最終的には売り上げ5千枚ほどに。この時、やはり、大物プロデューサーは見ている所、見ている期間が違うのだな、と感心したものでした。

カタリベ: 臼井孝

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