2020年に「おもてなさないグルメ」が流行るワケ

2020年で11回目を迎える、リクルートホールディングスの「トレンド予測発表会」。令和初となる今回は、雇用や住まいなど7つの領域のトレンド予測がお披露目されました。

東京オリンピックが開催される今年、「おもてなし」とは正反対のトレンドワードが飲食領域で飛び出しました。その背景はどのようなものか、1月20日の発表会の内容から深堀りしていきます。


サービスより料理の味を重視

2019年10月の消費税率の引き上げで、外食各社が苦戦する中、飲食領域で2020年のトレンドとして予測されたのが「おもて無グルメ」です。外食におけるサービス(おもてなし)を簡略化することで、その分、料理の味を追求したグルメを指します。

たとえば、食券制を導入したセルフサービスフレンチ「ルナティック」(東京都世田谷区)は、配膳と食器を下げる作業までセルフにして、「牛フィレステーキフォアグラのせ」「ロブスターのロースト」をそれぞれ1,500円(税別、以下同)という価格を実現しました。

完全個室セルフ焼肉の「GU3F(ジーユースリーエフ)」(東京都品川区)は、5,000円のコース1種類のみで、ドリンクはセルフサービス。プラベート感を重視して「サービスしないこともサービス」の一部と考えたといいます。

「ホットペッパーグルメ外食総研」の稲垣昌宏・上席研究員は、外食と中食で税率に差がついたことで、消費者はよりコストにシビアになったと指摘。その一方で、外食の優先順位として、サービスよりも料理を重視するようになったと分析します。

調査会社マクロミルの調査(調査対象:2,064人)では、外食の際に最も重視するものを聞くと、「調理技術」(38.4%)、「食材」(26.5%)と料理関連の項目が過半に達しました。「設備・空間」(21.8%)、「接客」(13.4%)といったサービス関連の項目を上回りました。

背景にあるのは人手不足

稲垣上席研究員によると、通常はサービスと料理のレベルは比例関係になる店が多く、「料理の価値が高く、サービスの価値が低い」というセグメントの店は、これまであまりなかったそうです。

消費者のお財布事情が厳しくなり、サービスより料理の優先順位が高くなったことで、このセグメントの進化が期待されているといいます。「調査をすると、おいしい料理をセルフサービス化・ファストフード化した店の評価が高い」(稲垣上席研究員)。

こうしたセグメントの店が求められる背景の1つとして、人手不足による人件費の高騰もあります。

チップ文化のある海外と異なり、日本の外食は料理とサービスがセット。そのため、接客や設備など求められるサービスの内容は多岐にわたり、それぞれの目的や価値が曖昧でした。

「サービスを省力したりやめたり、見直すタイミングが来ている。スマイルゼロ円という言葉があったが、それにも原価がかかっていることを意識せざるをえない時代になった」(同)

東京五輪で「お通し」が問題に?

また、稲垣上席研究員は東京オリンピックで大量に外国人が訪れる今年、「わかりづらくて問題になるのは『お通し』という風習。(外国人観光客には)サービス料と伝えないとわからない」と指摘します。

「日本がグローバルスタンダートに近づく中で、料理は料理、サービスはサービスと、必要なものだけを選べるようにするべき。『おもてなし』と言われて喜んでいる場合ではなく、サービスを換金できなければ日本として損失になる。お金を取ってももすばらしいと言われる日本じゃないといけない」(同)

おもて無グルメの今後の成長性について、潜在的消費者ニーズは大きいといいます。マクロミルの調査によると、「サービスを簡略化する代わりに、通常よりも安い価格で品質の良い食材や料理を提供するお店やメニュー」を「利用したい」と74.9%が回答しています。特に20代男女と、30〜40代女性で高い利用意向が出ました。

こうした形態の店は今後、個人店だけでなく外食チェーンなど幅広く浸透していく見込みです。「サービスを簡略化して、顧客の満足度に転嫁していく流れが、いろいろなレベルで起こる」と、稲垣上席研究員は説明します。

ファミレスの24時間営業廃止など、人手不足を背景にサービス内容の見直しが進む外食業界。2020年は既存の飲食店が環境変化に合わせて、大きく姿を変えていくかもしれません。

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