[CES2020]Vol.11 Crystal LEDとAtom Viewで実現するヴァーチャルセット最前線~まさにリアルを超える?!

txt:西村真里子・猪蔵・編集部 構成:編集部

リアルとバーチャルの境目がなくなる影像制作

CES 2020はそれまでのCESの歴史から大きくシフトを宣言している年であったように感じる。B2Cのコンシューマー向けプロダクトだけではなくB2Bにもフォーカスし、ハードウェアだけではなくソフトウェアそしてコンテンツ、特にエンターテインメントコンテンツが大事であると、CEA主催CTAのバイスプレジデントがメディア向けテックトレンドで発表をしていた。

ハードウェア製品見本市だった流れから、ソフトウェア、そしてエンターテインメント・コンテンツが重要になる年を象徴してソニーブースではハリウッドのエンターテインメント制作現場が大きく変更しそうな驚きのデモ展示がなされていた。

それが、Crystal LEDとAtom Viewで実現するバーチャル制作技術のデモだ。

今回ソニーといえば、”VISION-S”自動車の発表によって、他の展示がかき消されたように見えるが、実はそうではない、根底には「エンターテインメントへの未来をどうするか?」という提案がソニーブースにはある。PRONEWS的には、Crystal LEDとAtom Viewの驚くべき展示は外せないのである。NAB ShowやCineGearでの展示ともいえるし、さらにはエンターテインメントという視点でみると納得がいく。

後ろのセットはCrystal LEDで流れる映像だが、カメラ位置によって変化する。これによって撮影される映像に破綻が起きない CES史上、ソニーブース内にソニーピクチャーズがこの規模の展示をするのは、恐らく初めてだろう。Crystal LEDパネル216枚(8K×3K)の前に、初代ゴーストバスターズで使われた車 Ecto-1を配置。その光景を6Kセンサーを積んだシネマカメラVENICEで撮影すると、カメラの動きにあわせて背景映像が、リアルタイムに変化し、適切な視点と奥行きをもった映像の撮影が可能になる。スタジオの一部を高解像度の3次元データとして取り込み、背景映像としてディスプレイに映し出すバーチャル制作のセットのデモが行われた

カメラとCrystal LED、そしてカメラ位置を取得するためのトラッカーさえあれば、ロケ地に行かなくても臨場感ある背景映像を手にすることができる。もちろんただの背景影像にとどまらない。ポイントクラウドで持っているデータを、カメラの視点、明るさやライティング、反射などを計算してCrystal LED上にインタラクティブに映像が投影され撮影されるため、画の破綻がないし、何度もでも同じシチュエーションを再現できるなど、リアルな空間とバーチャルな空間がシームレスに一続きになるのだ。

初見ではまさかCrystal LEDだとは気付く人も少ない

スタジオに居ながらスタジオに合わせた背景映像を変えるだけで様々なシーンを撮影することが可能で、クリエイターにとってはクオリティーの追求を編集費を節約して行うことが可能となる。しかも、グリーンバック撮影ではVFX特殊効果を出すのにかなりの労力が求められる「緑色」演出や反射なども撮影時から高画質で映像に収めることができるのだ(「ゴーストバスターズ」のスプーキーな緑色も後編集をせずに撮影時から入れることができるのだ!)

この撮影技術には「Atom View」と呼ばれるボリューメトリック技術が使用されている。「Atom View」は未来のVR向けJPEG/MPEGと考えてもらってもよいだろう。

しかも3Dデータをマッピングではなく「ポイントクラウド(対象の各点の三次元座標値(x,y,z)と色(RGB,RGBA)が格納されたデータ)」で格納しているので、なんと、撮影後にそのままHDR編集することも出来るのでポストプロダクションの工程も非常に効率よく仕上げることができるようになりそうだ。

驚くべき撮影ワークフローを展示したSony Innovation StudiosはSony Pictures EntertainmentのDivisionで、映画やコンテンツ制作のための次世代技術開発を2017年より行っている。ソニーピクチャーズが2019年夏に買収したNurulizeの「Atom View」はバーチャル・リアリティーコンテンツを作るためのテクノロジーだと思っていたが、まさかバーチャル・リアリティーを飛び出し、高精細な映像テクノロジーの制作ワークフローに活かされるとは驚きだ。

スタートアップのテクノロジーを活かし、そして新たな活躍の場を提供している点も評価が高い。Sony Innovation Studiosの今後にも期待したくなる展示をソニーブースで目撃した。リアルもバーチャルも境目がなくなる影像制作の世界がもう、そこまで来ていることは間違いない。

txt:西村真里子・猪蔵・編集部 構成:編集部


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