SBKで屈辱のシーズンを送った清成龍一。「このままでは終われない思いがあった」と全日本に再起を賭ける

 伊藤真一率いる新チームの参戦体制発表が行われた都内某所写真スタジオに行くと、そこには清々しい表情の清成龍一がいた。2020年シーズン、Keihin Honda Dream SI Racingから全日本ロードレース選手権JSB1000クラスに参戦することが決まった清成は、期待と不安に包まれながらも、やる気に満ち溢れていた。

「この話をいただいてから、すごくワクワクしています」と起用が決まった時の心境を語る清成。

「何よりも心強いチームで走ることができること、ケーヒンさんという大きなサポートもあるので、しっかり成績を残して行きたいと思っています。まずは開幕戦から優勝を狙えるように伊藤監督、小原さんと一緒にニューマシンを仕上げて行きたいですね」

 鈴鹿8時間耐久ロードレースで4勝、ブリティッシュスーパーバイク(BSB)で3度のシリーズチャンピオンを獲得し、スーパーバイク世界選手権(SBK)でも優勝経験がある清成だが、残念ながら、ここ数年は、その才能をフルに発揮できていない。

 2017年から2シーズン、モリワキで全日本JSB1000クラスを戦ったが、国内ではブリヂストンが圧倒的な優位を誇っていた。そのなかでピレリを履きながらも2018年の最終戦鈴鹿レース2では、難しいコンディションのなか、絶妙なマシンコントロールを見せ優勝を果たし、その実力を証明した。

清成龍一(モリワキ-アルティア・ホンダ・チーム)

 そして2019年は、10年振りにSBKにフル参戦するものの、ピレリに合わせきれないマシンに苦戦。現場ではセッティングレベルで何とかしようと必死にもがくがライバルとの差は歴然だった。そんななか、何とか結果を出そうとするが転倒やケガもあり、悪循環に陥っていた。

 そんな屈辱のシーズンを送る清成に追い打ちをかけたのが、2020年はレースを走れないと言うことだった。SBKで2年契約していたにも関わらず、それができなくなってしまっていた。

「2019年のシーズン終盤に、SBKには2020年のシートがないのは分かっていましたが、僕としては、まだレースがしたかったですし、このままでは終われないという思いがありました」

 思い出したくもない2019年シーズンを終えた清成は、2020年のことが何も決まっていないなか、トレーニング用バイクの整備を黙々とこなしていた。そんなとき、携帯電話に伊藤慎一監督から連絡があったのは12月に入ってからだった。

「2020年はどうしようかと悶々としながらモトクロスバイクを整備していたところに伊藤さんから『新しいチームで走って欲しい』と連絡があり、すごくうれしかったですね。KEIHIN Kohara R.T.時代は、鈴鹿8耐で強力なライバルとして見ていましたし、その一員になることができるのは、すごく光栄なことだと思っています」

 チームとしてシリーズチャンピオンと鈴鹿8耐で上位入賞を目標に置くと伊藤監督は語っていた。清成自身も、このチームなら優勝を狙うのは可能だと語る。2018年のケガも完治し、後はフィジカル面を仕上げテスト走行が始まるのを待つばかりだ。

JSB1000に参戦する清成龍一(右)と渡辺一馬(左)※車両は海外仕様のスタンダードバージョン

「ヤマハファクトリーに勝つことは、相当難しいと思いますけれど、このチームならできると思いますし、開幕戦に向けて、しっかり調子を整えていかないといけないですね。全日本JSB1000クラスは、中須賀選手が独走状態なので、そこに追いつけ追い越せで、いい走りができれば全日本ロードレースを盛り上げられると思っています」

 鳴り物入りでフルモデルチェンジしてデビューするホンダCBR1000RR-R FIREBLADE(ファイヤーブレード)だが、市販状態での高スペックが話題となっているが、まだレースとなると未知数な部分が多い。現時点でホンダのワークスマシンは、SBKの2台のみとなっており、他はキット車になると言われている。

 ニューCBR1000RR-Rは、キット車でもヤマハのワークスマシンと勝負できる実力があるという話もあるが、まだ実際に走っていないだけに、その戦闘力がどれだけあるかは誰も分からない。その仕上がりがKeihin Honda Dream SI Racingのみならず、ホンダ勢全体のカギを握っていると言えるだろう。

 伊藤監督は、レーシングライダーとして清成を“日本人ライダーで一番の技量を持っている”と最大限の評価をしている。2020年シーズンは、臨まれるステージで多くの期待を受けながら清成は再起を賭ける。

ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE ※車両は海外仕様のスタンダードバージョン

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