「や座」の変光星が今世紀後半「新星」のように輝き、肉眼で観測できる可能性

ベガ(こと座)、アルタイル(わし座)、デネブ(はくちょう座)を結ぶと現れる「夏の大三角」、そのなかにおさまる「や(矢)座」の一角に「や座V星」という肉眼では見えない連星があります。この連星が今世紀後半に合体し、「新星」のように突発的に明るさが増した天体として肉眼でもはっきり見えるほどに明るく輝く可能性が研究者によって示されました。

■合体すると予想される時期は2067年~2099年

およそ7800光年先にある変光星「や座V星」は、太陽の約0.8倍の重さを持つ白色矮星(主星)と、太陽の3.3倍ほどの重さを持つ恒星(伴星)がペアを組む連星です。2つの星は互いの周りを12.34時間で一周するほどに接近しており、伴星からは毎年地球およそ6個分のガスが主星に流れ込んでいるとみられています。

今月開催されたアメリカ天文学会の第235回会合において、Bradley E. Schaefer氏(ルイジアナ州立大学、アメリカ)らの研究チームは、「や座V星」を構成する2つの星の公転周期が短くなり続けていることから、連星が今世紀後半に合体するとともに爆発的に明るくなり、1か月間に渡りシリウス(おおいぬ座)や金星にも匹敵する明るさで輝く可能性があると発表しました。

合体にともなう増光が観測できると予想されている時期は、2067年~2099年です。「や座V星」の2019年の平均等級は11等なので現在は肉眼で見ることはできませんが、合体すればアルタイルの近くにひときわ明るい天体が輝くことになります。

平均寿命の折り返し点に差し掛かりつつある筆者が目撃するには難しそうな時期ですが、筆者の次の世代にあたる若い方々なら、この現象を実際に見ることができるかもしれません。

■合体によって白色矮星がコアになった赤色巨星が誕生すると予想

Schaefer氏らは、ハーバード大学天文台やアメリカ変光星観測者協会(AAVSO)に保存されている19世紀末以降の観測記録をもとに、100年以上に渡る「や座V星」の明るさの変化を調査しました。その結果、「や座V星」は変光星としての短期的な明るさの増減だけでなく、1890年代から2010年頃にかけて2.5等級(明るさで示せば10倍)も明るくなっていたことが判明しました。

研究に参加したJuhan Frank氏は、連星を成す2つの星が近づくにつれて伴星から主星に流れ込むガスの量が増え続けているために、このような急速な明るさの変化が観測されているとコメントしています。実際のところ、「や座V星」を構成する連星の公転周期は毎年約0.015秒とわずかながらも短くなり続けており、主星と伴星が徐々に接近しつつあることを示しています。

研究チームは、「や座V星」は主星と伴星が接近するのにあわせて今後も徐々に明るくなり続け、合体直前の1週間には伴星から太陽2個分ものガスが主星へと一気に流れ込むことで、新星や超新星のようにひときわ明るく輝くとみています。残された伴星の中心部分も、最終的には大量のガスを奪った主星と合体することになります。

莫大な重力エネルギーの解放にともない、「や座V星」の明るさは-0.5~-5.1等(推定)まで増光し、ピーク時の明るさは1か月程度継続すると予想されています。合体後には、かつて白色矮星だったコアを取り囲む伴星由来のガスにおいて水素の核融合反応が起き、単一の赤色巨星が誕生すると研究チームは考えています。

Image Credit: Louisiana State University
Source: Louisiana State University
文/松村武宏

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