「令和の怪物」は、まだその片りんすら見せていない。
プロ野球ロッテのドラフト1位ルーキー、佐々木朗希投手(岩手・大船渡高)は最速163キロで注目されるが、自慢の剛速球を披露するのは、もう少し先になりそうだ。
球団は大器をじっくりと育成していく方針で、一にも二にも体づくりを優先させている。
「実家を離れるのは初めて」と言う中で、1月8日にさいたま市内の球団寮に入った。
11日から本拠地のZOZOマリンスタジアムで始まった新人合同練習には、約1000人のファンが集まるなど人気の高さは抜群。「これまで練習を見られることはなかったので、いつもと違う緊張感があった」と語るように、全ての出来事が新鮮といった具合だ。
プロ野球界では、キャンプの報道はルーキーが注目の的となる。スポーツ紙には「〇〇級!」や「即戦力!」といった派手な見出しが躍るが、残念ながらやや時代遅れの感がある。
各球団は若手選手の育成に細やかなプランを用意し、特に高校出の投手に無理をさせることはなくなってきた。
ある球団関係者は「(佐々木に)動きが少なくて、報道陣はみんな困っているでしょうね」と苦笑する。
佐々木は昨夏、甲子園大会出場を懸けた全国高校野球選手権大会の岩手大会決勝で「故障の予防」を理由に登板せず敗れ、社会的な関心を呼んだ。
怪物が甲子園球場で暴れることを期待していたファンはさぞ失望しただろうが、結果として佐々木は故障を持たずにプロの門をたたくことができた。
その事実を鑑みれば、大船渡高の国保陽平監督の判断は支持されるべきで、プロ野球界も大いに感謝しなければならないだろう。
4球団の競合の末、佐々木を引き当てたロッテは、今年から大学病院と提携し、選手のメディカル面のサポートを本格化させた。
井口資仁監督は「佐々木だけでなく、チーム全体をサポートしてもらえる。夏場を乗り切ることが大事になってくるし、新人にとっては心強いでしょう」と語る。
一昨年は大阪・履正社高の安田尚憲内野手、昨年は大阪桐蔭高の藤原恭大外野手がドラフト1位で加入しており、3年後に黄金時代を築くことをもくろんでいる。
一般的に球速が速くなればなるほど、肘の靱帯にかかる負担は大きくなる。
日本ハム時代の2016年に日本最速の165キロをマークした大谷翔平(米大リーグ・エンゼルス)は、18年に右肘の靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)を受けた。
佐々木は球速170キロ到達を期待されているが、リスクと隣り合わせであることも事実だ。
どんなに注目されようとも、高校出投手がキャンプでアピールする必要は全くない。3~5年後に1軍で活躍できるように、まずは体づくりに励むべきだ。
過剰に騒ぎ立てることは、未来の宝の損失につながる。長い目で「令和の怪物」の初めてのキャンプを見守りたい。
竹内 元(たけうち・はじめ)プロフィル
全国紙に勤務した後、2012年に共同通信入社。大阪運動部でプロ野球や大相撲などを担当したほか、高校野球キャップを務めた。広島支局では広島カープをカバー。19年シーズンから本社運動部でロッテとソフトボールを中心に取材する。東京都出身。