「諦めずにいれば奇跡は起こる」 西岡剛が2020年も独立リーグからNPBを目指すワケ

NPB復帰に向けてトレーニングを続ける西岡剛【写真:佐藤直子】

2018年に阪神を戦力外、昨季はBC栃木でNPB復帰を目指すも叶わず

「2020年も2019年とまったく変わりないです。独立リーグからNPBに挑戦します」

 1月某日。大阪市内のジム「B2fitness」で鬼教官こと秀島正芳トレーナーと早川怜トレーナーの下、ひとしきり体を追い込んだ西岡剛は、今年の展望について問われる迷うことなく言い切った。現在、35歳。昨年11月に参加した12球団合同トライアウトでは4打数無安打2三振の成績。トライアウトの受験可能回数が2回に変更されたため、2018年にも受験した西岡にとってはラストチャンスだった。普通に考えれば、NPB復帰への扉はほぼ閉ざされたように見える。

「第三者には『バカだな。夢が叶うパーセンテージは少ない』って思われると思うんです。でも、引退すればNPBに復帰できる可能性は0パーセント。そこを諦めずにやっていれば、例えば確率が0.000000000001パーセントだったとしても、何かの拍子に奇跡が起こる可能性はある。その可能性を上げる努力を今、しているんですよ。その結果として、2020年をやりきって、またどこにも選ばれなかったとしても、僕は全然後悔しません。挑戦することが好きなので」

 西岡がNPBを目指し続けるのは、誰のためでもなく、自分のためだ。「5年後、10年後に振り返った時、あの時もう少しこうやっておけばよかった」と後悔したくない。その思いが原動力となっている。

「僕、昔は引退試合とかあまりこだわりがなかったんですよ。でも、今こういう状況になってから、40歳くらいまでNPBでプレーして引退試合をしてもらう、そういう人生を歩めるように努力しておけばよかったって後悔しています。もっとできることがあったなって。生きていれば、僕に限らず誰しも後悔の連続だと思うんですけど、2016年にアキレス腱を切ってから、後悔を少しでも減らせられるような生き方をしている最中です」

 阪神時代の2016年7月、西岡はヒットを打って一塁へ向かう際に転倒。左アキレス腱を断裂し、シーズンを棒に振った。この時、若い頃に先のことを考えず、体のケアやトレーニングを怠っていたことを大きく後悔したという。苦しく辛いリハビリに何度も挫けそうになったが、約1年後の2017年7月に1軍復帰。だが、思い通りの結果が出せずに、2018年のシーズン終了直前に戦力外通告を受けた。

NPB復帰に向けてトレーニングを続ける西岡剛【写真:佐藤直子】

栃木で知った現実社会「これまで経験できなかった経験をできていることが、すごく楽しいんです」

 NPB復帰を諦めずに、2019年はBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスに入団。1年を通じて59試合に出場し、打率.335、7本塁打、41打点と打線を牽引し、チーム初のリーグ優勝に貢献した。ただ、シーズン中にNPB球団から声が掛かることはなく、シーズン終了後のトライアウトでも結果は残せず。そのまま球界から身を引く決断をする人は多いだろうが、西岡は挑戦し続ける。

「NPBを戦力外になって、独立リーグに行って、それでもNPB復帰を果たせなかった。これって、世間的な見方をすれば、僕の人生のグラフはすごく下降しているように見えると思うんです。でも、僕は今の方が幸せだったり達成感だったりを多く感じられるようになっている。だから、僕にとってグラフは上向きなんですよ」

 昨シーズンを過ごした栃木で、西岡はそれまでにない新しい発見の日々を過ごした。西岡曰く、NPBは「非現実的な世界」で、独立リーグは「現実的な世界」だという。

「高校からNPBという非現実的な世界に入って、飲み物は用意されている、ケータリングもある、スポーツ用品は全部もらえる、という状況にあった。でも、そんなの普通はあり得ないですよね。僕はずっとそこで生きて、メジャーまで行ってしまった。それが当たり前だと思っていたんです。でも、NPBを離れて、それが当たり前じゃないことに気付くんですよね。

 プロでも社会人から入った人は、昼間は仕事をして、終わった後に野球をする生活で、現実社会を知っている。だから、すごく考えた生き方をできている人が多いと思うんです。それに対して、高校を卒業していきなり非現実的な世界に入ると、僕みたいにそれが当たり前ではないことに気付かない人は多い。それを何歳で気付けるか。僕は今、これまで経験できなかった経験をできていることが、すごく楽しいんです」

 幼い頃から野球漬けの毎日。大阪桐蔭高では寮に入っていたため、今までアルバイトをした経験もない。「アルバイトをしてみてもいいと思うんですよね。体験して気付くことはあると思うので」と、今だからこそできることに、いろいろチャレンジする心構えだ。

NPB復帰に向けてトレーニングを続ける西岡剛【写真:佐藤直子】

地元の温泉から広がった仲間の輪「みんな70歳オーバーなんですけど(笑)」

 昨シーズン中に夫婦で暮らした栃木は、当初「誰も友達がいなかった」。不安がなかったと言えば嘘になるが、「初めての土地に行くんだから、お世話になることの方が多い」と、自ら地元のコミュニティーに飛び込むことに。体のケアを兼ねて、小山市内にある思川温泉に通い始めると、両親と同年代ほどの人生の大先輩たちとの交流の輪が広がった。

「みんな70歳オーバーなんですけど(笑)、人と人として接してくれて、めちゃくちゃ勉強になった1年でした。例えば『栃木に来てから、たまになんで今、自分がここにいるんだろうって考えることがあります』って話をすると、『めちゃくちゃ幸せなことでしょ』ってシンプルに言葉を返してくれるんです。『西岡君なら大丈夫。人生について先を心配するんじゃなくて、今を楽しめばいいじゃない。年取ったら何もできないんだから、今できることをやりなさい』って。こういう言葉にすごく助けられましたね。リーグ優勝した時には、温泉の仲間の方がみんなで祝勝会をしてくれて、本当にうれしかったです」

 1月22日現在、2020年の所属チームは決まっていない。幸いにも複数球団からオファーを受け、熟考を重ねているところだ。それでも独立リーグからNPBを目指すというゴールをぶらさずにいられるのは、「今できることをやりなさい」という人生の先輩たちの言葉が背中を押してくれているからかもしれない。

「ただ単に野球を続けたいんだったら草野球でもいいと思うんです。でも、独立リーグはNPBを目指す場所。そこでプレーするのであれば、必ず僕もNPBを目指す選手であらねばならないし、NPB経験者として模範にならないといけない。そこに身を置けるということは、僕にとってすごくプラスな経験になります。NPBに帰れる自信? 帰れる自信というより、そこに向かってただ突き進むだけです!」

 2020年、西岡剛はNPB復帰の目標を達成するのか、そして人間的にどんな成長を遂げるのか、その姿を見守っていこう。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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