東芝、角度直接検出による高精度・高速応答可能なジャイロセンサーの小型モジュールを開発

物体の向きを計測するジャイロセンサーは、航空機や飛翔体などの大型で高性能なものから、スマートフォンなどの小型なものまで広く利用されている。倉庫や工場内での作業者や無人搬送機の位置計測、ドローンの精密姿勢制御、ロボットやモビリティの自動運転等の分野への応用が期待されているが、このような分野への適用には、小型で、高精度かつ高速応答性が求められる。

従来のジャイロセンサーは物体の角度を直接測定せず角速度からの演算処理によって求める方式であるため、応答速度や精度に関しての課題があり、小型で高精度、高速応答可能な新たなジャイロセンサーの開発が求められていた。

そこで、株式会社東芝は、従来のジャイロセンサーと異なり、角速度ではなく角度を直接検出できる、高精度かつ高速応答可能なジャイロセンサー(以下、RIG)を、MEMS技術を活用して小型化し、大型の計測制御装置等を必要としない小型モジュールを、株式会社デバイス&システム・プラットフォーム開発センターの協力のもと開発した。これにより、ロボット・無人搬送車・ドローン等の従来は難しかった小型機器への搭載や実証実験が可能となる。

RIGは地球の自転の角度を計測できるフーコーの振り子と同じ物理的原理に基づいて、物体の角度を直接検出することができる。RIG動作のためには、検出に用いる振動子を完全に対称な構造にすることが必須条件だが、製造時の加工誤差のため、非対称性が発生することが課題であった。

そこで同社は、独自技術の抵抗型可変ダンパーの導入等でこの非対称性を補正して、完全な対称状態を実現した。また、同社の振動子は独自のドーナツマス構造であり、温度が変化しても縦横の振動特性が等しく変化し、対称性が保たれる。これにより、温度変化による感度への影響が極めて小さくできる。

今回開発したモジュールは、RIG特有の角度直接検出を実現し、精度とドリフトの各指標でも、同じMEMS技術を用いた民生機器用のジャイロセンサー以上の性能であることを確認している。

同社は、このジャイロセンサーの精度と応答性をさらに改善して、2021年度以降のサンプル出荷を目指す。また、同ジャイロセンサーを搭載した慣性計測装置(※)の開発を進める。

なお、今回開発した技術には、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/研究開発項目[3] 高度なIoT 社会を実現する横断的技術開発」助成事業の成果が含まれている。

※次元空間における角速度と加速度を測定する装置を指し、搭載した機器の姿勢を感知する計測装置のこと。

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