「サッカーコラム」チーム再建にできる限りの手を打て 五輪代表に言い訳はいらない

U―23アジア選手権のカタール戦に向けた練習を見守る森保監督(右)と横内コーチ=バンコク(共同)

 これから、どうなるのだろう―。ショッキングな敗退から時間がたっても、不安ばかりが頭に浮かぶ。23歳以下(U―23)アジア選手権で無残な結果に終わった若き日本代表のことだ。

 東京五輪男子サッカーのアジア予選も兼ねた大会で2敗1分け。「五輪出場権を手にしている日本と出場権を奪い取ろうとしている国のモチベーションの違い」や「ベストメンバーではなく選手選考の面があった」、「判定に泣かされた」…。言い訳はさまざまにできるだろう。だが、アジアで1勝もできなかった事実は変わらない。

 同時に、そんな言葉で今大会の体たらくを説明してはいけない。日本は東京五輪での金メダル獲得を本気の目標として掲げているのだから。残酷な現実を突きつけられた今、「金メダル」という言葉が何とむなしいことか。

 とはいえ、日本は五輪に出場できる。ここからできる限りの手を尽くし、巻き返しをはかるしかない。金メダルとまではいかなくても、酷暑というアドバンテージを最大限に生かして地元での五輪を盛り上げる存在にはなりたい。

 「ラージグループ」。森保一監督からよく聞かれる言葉だ。この年代で招集された選手は75人にも及ぶ。U―23アジア選手権でもチームの骨格が定まらず、大幅な選手の入れ替えを繰り返した。ターンオーバーといえば聞こえはいいが、明らかに決めかねている。

 五輪代表のチーム編成はフル代表とは違う難しさを抱えている。選手招集に制限があるのだ。過去のチームとは違い、今回は中心になると目されるメンバーの多くが欧州でプレーしている。具体的にはフル代表が戦う国際Aマッチデーならば海外組も拘束できるが、年代別代表にはない。それを踏まえても、五輪本番まで半年しかないこの時期にチームの骨格が見えてこないのは問題だ。森保監督はこの期に及んで、まだ愛用のメモ帳に選手の名前を書き加えるつもりだったのだろうか。

 チームになっていない。U―23アジア選手権敗退の最たる原因はこれだ。攻撃の最終局面で連係したプレーはほとんど見られなかった。それでも、選手たちはこれほど情けない負け方をするとは思っていなかったに違いない。落ち着きを取り戻すにつれて、選手たちは敗因を探そうとする。それが森保監督に向けられたら、結束力のあるチームを作るのは難しくなる。

 戦術や理論以上に監督に必要なものが、求心力だ。現在の森保監督に選手は持っているのだろうか。物事を冷静に見詰め、淡々と語るのが森保監督の良いところだ。一方で、選手の闘争心を高めるモチベーターとしては少し物足りなさを感じる。カタール戦でもそうだった。田中碧の一発退場や斉藤未月がPKを取られた反則という勝敗に大きく関わる不可解な判定に対して、激しい抗議をするでもなく受け入れたように見えた。指揮官の姿は、選手たちにどう映ったのだろうか。

 田中碧と斉藤が「見放された」という思いを抱いたとしたら、チームにとってもマイナスでしかない。森保監督が選手たちの求心力を失っている可能性はある。新たな監督を招く余裕がないのであれば、実質的にこの年代を指揮してきた横内昭展コーチにチームを任せる方法も考えていいだろう。

 それにしても、シンガポールのムハンマド・タキ主審はひどかった。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)があるのに、あの判定を下すとは。カタールに強烈な“媚薬(びやく)を嗅がせられた”と思われても仕方ない。試合を見ながら、2002年のワールドカップ(W杯)日韓大会を思い出した。あの大会で韓国は2本のPKをもらい、相手側に3人の退場者が出た。相手が決めたゴールが取り消されるという「魔法」もあった。

 だが、先述したように判定に敗因を求めても意味がない。まずは、五輪を戦うチームを早急に作り直すことだ。森保監督が「現時点でのベストメンバー」といった昨年11月のコロンビア戦。チームには堂安律や久保建英ら海外組が8人が招集された。加えて、参加しなかった冨安健洋と安部裕葵がいることを考えると海外組は10人前後になるだろう。さらにオーバーエイジが3人。GKの2人を除けば、今回戦った選手たちに与えられた枠は3、4人ということになる。つまり、まったく新しいチームをこれから作るという作業が待っている。

 活動期間が限られるなか、残されているのは2試合が予定されている3月の親善試合。ここは国際Aマッチデーと重なっているため、五輪代表にも選手を呼べる。相手も五輪出場を決めている南アフリカとコートジボワールとあって、貴重な試合となる。これを終えると、6月のトゥーロン国際と壮行試合となる7月17日だけだ。

 どう見て強化日数が少ない。それを考えれば、6月にホームで行うW杯2次予選のタジキスタンとキルギスの2試合を五輪代表の強化に充ててもいいのではないか。力関係から見て負ける相手ではない。日本で五輪があるのは、大多数の人にとって1回だけだろう。加えて、日本人は大の五輪好き。これぐらい大胆な決断も許されるに違いない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で7大会目。

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