<レスリング>【特集】押立杯の“吹田永住”を機に、王座奪還へ挑む大阪・吹田市民教室(西脇義隆会長)

33年間続いた「押立杯関西少年少女選手権」。新たな出発を迎える

 1987年から33年にわたって開催されてきた「押立杯関西少年少女選手権」が、来年度から押立杯と関西少年少女選手権に分立。その歴史にひとまずピリオドを打つことになった。押立杯は、吹田市民教室の創設者で全国少年少女連盟会長も務めた押立吉男氏の地元・吹田市の大会に受け継がれ、関西少年少女選手権は関西地区の持ち回り大会として同地区の普及発展に寄与する。

 1月13日に吹田市立武道館で行われた最後の「押立杯関西少年少女選手権」で、前・大会会長である西脇義隆・吹田市民教室会長は「押立会長は、押立杯を日本で2番目に大きな大会にしたい、という希望を持っていました。吹田市に戻し、あらためてその目標を目指したい。レスリング界に協力できるクラブを作りたい」と感慨無量に話した。

 押立杯は、キッズ・レスリングが日の出の勢いで発展を始めた1987年、同年の全国少年少女選手権の団体戦で3連覇を遂げた吹田市民教室が音頭を取り、大阪・高槻市連盟の寺内正次郎会長が全面的に後援する形で高槻市民体育館でスタート。個人の名前が冠につくキッズ最初の大会だった。

吹田市に2万人収容の大アリーナができる!

 吹田市民教室の強さが全国にとどろくことで、吹田市がレスリングを全面的にバックアップ。大会の吹田市開催が定着し、吹田市民教室のレスリングに接しようと関東や九州からもチームが集まった。出場選手数が600人を超えることもあり、2008年に同代表が亡くなったあとも吹田市で開催され続けた。西脇会長のもとには、吹田市長から秘書などを通さず直接メールでの連絡がくるほどで、吹田市とレスリングのつながりは強い。

2007年押立杯の3・4年32kg級で優勝し、敢闘賞を受賞した乙黒拓斗(ゴールドキッズ)。同級の3位は奥野春菜(一志ジュニア)と向田真優(四日市ジュニア)。のちの世界チャンピオン3人が競っていた! 左は故押立吉男会長

 2018年6月の大阪府北部地震で、会場だった吹田市北千里市民体育館が半壊して使用できなくなり、同年度の大会は2019年1月に“生まれ故郷”の高槻市総合体育館で行われ、昨年は9月に茨木市民体育館で開催へ(注=台風で今年1月に延期)。吹田市の体育館が復興されるまでは開催場所確保の問題が浮上してしまった。

 時を同じくして、各ブロックの大会はその地区の選手だけの参加でやった方がいいのでは、という声も挙がった。「何でも吹田市民教室がやる時代ではない」として、高槻市連盟の上誠一代表に近畿少年少女連盟の理事長と大阪少年少女連盟の会長に就任してもらい、関西少年少女選手権を近畿地区の大会とするとともに、強化と普及を託した。押立杯は吹田市での大会に名付け、どの地区からも参加できるオープン大会として再スタートさせる。

 北千里市民体育館は、取り壊してさらに大きなアリーナを建設する計画もあったが、大阪府が吹田市にある万博公園そばに2万人収容の大アリーナの建設を計画したことで(2025年の大阪万博をめどに完成予定)、修繕して使用することがほぼ決まった。「押立杯は北千里に戻し、再び全国から参加選手を集めたい」と言う。

 いずれは、大阪府の協力を得て新設のアリーナをレスリング大会の会場として使わせてもらうこともできる。同会長(1月16日で83歳)は「その時、私は老人施設に入っているか、この世にいないかもしれませんけど」と笑うが、1985年の第2回大会以来の吹田市での全国大会開催という案も浮上。“少年少女レスリングの吹田”の看板を降ろすわけにはいかない。

猪名川クラブの会長から賞賛された「トイレのスリッパの整理整頓」

 「最近は、押立会長がいたら、『何やってんだ!』とどやされる成績もあります」と言う西脇会長だが、今回の押立杯で感動する出来事もあった。今や吹田市民教室をしのぐ活躍を見せている兵庫・猪名川クラブの松本篤弘会長から「吹田の選手は、しっかりと教育されていますね」との言葉をいただいたと言う。

2016年大会で、「30回」を記念して全国連盟から感謝状を贈られた西脇義隆会長

 松本会長がトイレに行った際、乱雑になっていた出入口のスリッパを、居合わせた吹田の選手が何も言われないのにきれいに整理整頓したそうで、感心して西脇会長に報告してくれた。実は、トイレのスリッパの整理整頓は、市内5ヶ所で行われているすべての教室でやらせていること。会長も率先してやってみせ、しっかりできていない時はきつく叱責していることだった。

 「私の見ていないところでも、しっかりやってくれていましたね」。強さだけでなく、マットを降りたところでの行動でも手本となってこそ、真のチャンピオン。創始者が吹田の地に“永住”することを機に、チャンピオンの座を奪還すべく吹田市民教室の新たな闘いがスタートした。

 近畿の強化と普及を託された近畿連盟の上誠一理事長は、猪名川クラブの池畑耕造監督(日体大~自衛隊OB)を強化委員長に、現役時代は130kg級の選手ながらフットワークの軽い大阪・ゼッセル熊取の姫路文博監督(大体大コーチ)を事務局長に置き、積極的に活動中。

近畿地区の発展を目指す近畿少年少女連盟の上誠一理事長

 メーリング・リストの充実による密な連携と、関西少年少女選手権の2府4県の持ち回り開催(2020年は大阪・堺市、21年は京都、22年は兵庫の予定)により、各府県・近畿の団結と強化を目指している。2月8~9日に大体大で行われる近畿ブロックのエリートキャンプには、オリンピック・メダリストを招聘して指導を受け、運動能力測定を実施して結果を選手に還元する試みを実施。近畿のキッズを日本一に押し上げるべく尽力している。

 今年の東京オリンピックでは、すでに京都府出身の皆川博恵が出場を決めているほか、樋口黎(大阪)、奥井眞生(和歌山)、高谷惣亮(京都)、高橋昭五(兵庫)、園田新(滋賀)と近畿から6選手に出場の可能性がある。近畿キッズの発展の追い風となってほしいことだろう。

 上会長は、日本協会の高田裕司専務理事と日体大時代の同期生。活動の場所は違うが、日本レスリング界の発展へかける思いは共通。衰えぬ情熱で活動を続ける。

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