岩井俊二監督、女優の演出語る「本人の嫌いな角度が肝」 広瀬すず&森七菜の魅力

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遠野未咲&裕里姉妹にふんする広瀬すず&森七菜。右は未咲に恋する転校生・鏡史郎役の神木隆之介 - (C) 2020「ラストレター」製作委員会

 『Love Letter』(1995)、『四月物語』(1998)、『花とアリス』(2004)などで中山美穂松たか子蒼井優ら数々の女優を輝かせてきた岩井俊二監督。手紙をモチーフにした新作映画『ラストレター』(公開中)で岩井組初参加となる広瀬すず森七菜を中心に、女優を演出する裏側を聞いた。

【動画】松たか子、広瀬すず、森七菜ら出演『ラストレター』予告編

 岩井俊二監督が初めて故郷・宮城を舞台にした本作は、姉を亡くした主婦・裕里(松たか子)と、裕里の初恋の相手・鏡史郎(福山雅治)を軸に、2世代の恋を描くラブストーリー。発想の源は、岩井監督が2017年にペ・ドゥナ主演で手がけたWebのショートフィルム『チャンオクの手紙』だったそうで、そこから日本を舞台とした長編映画に進化させたという。松たか子(『四月物語』)、中山美穂(『Love Letter』)といった、1990年代岩井作品のヒロインたちとの再タッグも話題だが、同時に岩井組初参加となった女優陣も鮮烈な印象。広瀬すずが、裕里の姉・未咲の高校時代とその娘・鮎美を、森七菜が裕里の高校時代とその娘・颯香をそれぞれ一人二役で演じている。

 今回、初めて組んだ広瀬を「独特な雰囲気がある」と評する岩井監督。「もし、1970年代に桃井かおりさんとか、原田美枝子さんと会っていたらこんな感じなのかなと思って。あの頃の俳優さんはとんがっていたし、いろいろな実験をしていたような気がする。今、作品を観ても、こんな演技があるのかと勉強になるんですけど、何かそういった凄みのようなものを彼女に感じて。何によってそう感じるのかはわからないんですが、何か大きなものを感じました」とその魅力を話す。

未咲の娘・鮎美&裕里の娘・颯香も、広瀬&森が演じる

 そして近年、新海誠監督のアニメーション映画『[天気の子』の声優などで注目を集める森七菜は、オーディションで選ばれた。「ビデオオーディションで彼女の映像を観て、『なんだこの子は!』と。いろんなものを既に持っている感じでした」と切り出した岩井監督は、「それは女優として、表現者として必要な要素だろうと。みんな組みたがる子だろうなと思ってプロフィールを見たら行定勲監督や熊澤尚人監督など、僕の身近な人たちが起用していた。特に行定監督は、彼が助監督をしていた時代に、キャスティングを頼っていたこともあって女優さんの好みが似ているんですよね。とにかく彼女は現場でも独特の雰囲気で、すごく良かったです」と森と出会った時の衝撃を振り返る。

 岩井作品には、「女優の二度と撮れないようなきらめき」を捉えた印象的なカットが登場する。その秘密とは何なのだろうか。「監督の立場からいうと、意外と役作りにはそこまで深く関わっているわけではないんですよ。もちろん原作者としてのイメージ、人物造形はありますけど、それはあくまでもひな形みたいなもので。俳優さんが決まった時点から先はもう、本当にその人が考え抜いてから現場に持ち込んでくるものなんだと思うんです」と語る岩井監督。「それを監督の立場でチェックして。そこにロケーションだったり、美術、照明が入ってくる中で、演技に彩りを添えたり、動きやすくしたりといった“チューニング”を行うことで、シーンが出来上がっていくという感じですね」とプロセスを解説。その過程で二度と撮れないシーンになったと感じたとき、監督としてカタルシス、醍醐味を感じるそうだ。

インタビューに応じた岩井俊二監督

 女優たちを魅力的に映すにあたって具体的にどのような作業が必要になってくるのか。「魅力的な角度を探すために、映りのいいところ、悪いところを分析していくんですが、意外にここはきっと本人が嫌いなんだろうなというところが肝で。それが観客にとっては個性だったりするので、必ずしも塗りつぶしていいものではない」と持論を述べる岩井監督。「例えば声のトーンでも、どういうセリフ回しにすれば、うまくその人の声を引き出せるのか。逆にウイークポイントが出てしまうのか。そういったところを引きだそうと考えるのか、野暮ったくなるからやめておこうと考えるのか。そうした細かいチューニングを、無意識のうちに繰り返しているような気がします」とその演出法を明かす。

 『ラストレター』で特に印象深いシーンを尋ねると、クライマックスで広瀬演じる鮎美が涙を流すシーンを挙げた。「そこに至るまでのシーンも非常に印象的で、福山雅治さん演じる鏡史郎を、鮎美(広瀬)と颯香(森)が迎え入れるというシーンなんですけど、玄関からさまざまなアングルで何度も撮りました。神秘的ともいえるシーンで、二人(広瀬、森)が妖精のように演じていた」と岩井監督。さらに、「どのシーンもそうなんですけど、こういう感情でやってくれと言ったことはほとんどなくて。自分で読み解いて、自分の解釈でやってもらう。そうしないと一線を越えた演技にはならない。そこはもう本当に唯一無二の、心と体が一体化した上での何かをカメラの前に出してくるわけです。それができるのがスターなんだと思います」と広瀬、森の才能を強調した。(取材・文:壬生智裕)