元鷹守護神・馬原孝浩氏はなぜトレーナーに? 「こういうトレーナーがいれば」を体現

トレーナーとして指導を行う馬原孝浩氏【写真:福谷佑介】

2019年3月に柔道整復師と鍼灸師の国家資格を手にし、福田秀平と岩嵜翔の自主トレをサポート

 23日、福岡・糸島市内で報道陣に公開されたロッテの福田秀平外野手の自主トレ。国内FA権を行使してソフトバンクからロッテに移籍した福田秀は新天地でのキャンプインに向けて必死に汗を流していた。石垣島で自主トレを行っていた元チームメートの岩嵜翔投手も合流。この自主トレで、トレーナーとして2人を指導していたのは元ソフトバンク、オリックスでプレーし、守護神としても活躍した馬原孝浩氏だった。

 現役期間中から体のケアなどを学んでいた馬原氏。2015年の現役引退後は自宅のある糸島市から北九州にある専門学校へ往復4時間近くかけて通い、2019年3月に柔道整復師と鍼灸師の国家試験に合格した。11月から福田秀のトレーナーとしてトレーニングやコンディションのケアなどを行っている。

 ソフトバンク球団のトレーナーを通じて福田秀が馬原氏に連絡を取ったのが始まりだった。「口コミで馬原さんが凄いと聞いた」。シーズン中に脇腹の怪我を負っていたこともあり、体のケアをお願いした。「最初に受けた時にピンと来て、この人だと。お願いしようと思いました」。すぐにオフのトレーナーを頼むことになったという。

 福田秀は「他のトレーナーさんとは全然違います」と“馬原トレーナー”のことを表現する。言うならば、アスリートの感覚を知り、アスリートの実績があり、そして知識もある“アスリートのため”のトレーナーだということだ。

 福田秀の自主トレ公開後、指導を行っていた馬原氏にも話を聞き“馬原式トレーニングメソッド”と、今後について語ってもらった。

 馬原氏は自身のトレーナー像として「自分がこういうトレーナーがいれば良かったなというのを、自分が集大成で作り上げている」という。ソフトバンクの守護神として2007年に最多セーブのタイトルも獲得した馬原氏。だが、現役晩年は右肩の故障など怪我に苦しめられた。オリックスでの3年間は怪我との戦い。自らの体をケアするために知識を増やし、その感覚と知識の元で自身のパーソナルトレーナーに様々なことを教えていった。その当時のトレーナーの1人が白鵬のトレーナーを務める大庭智成トレーナーだ。

「150キロを投げる感覚、かかる負荷なんて投げた人にしか分からない」

「自分がこういうトレーナーがいればいいな、というのをずっと思っていたんです。現役の感覚を知っていて、実績があって、そして国家資格、知識を持っているという人がいなかったんです。じゃあなろうと思って、いざなってみたらそのフィールドには誰もいないんです」。確かにそうだろう。プロ野球選手としてタイトルを獲得するほどに成功し、ワールドベースボールクラシックにも2度出場した経歴を持つ。それでいて国家資格を手にし、トレーナーとして第2の人生を歩んでいる人など、ほぼ聞いたことがない。

 だからこそ、自らが今は“オンリーワン”の存在なのだという。「簡単に真似できるものではないと思いますし、自分が散々受けてきた挙句、それを還元、出しているもの。感覚的には受けた人は違うといいますね。アスリートにはアスリート専用の見方があるんです」。教科書に書かれているものではなく、そして、一般の人でもない。アスリートにはアスリートにしか分からない、通じない感覚がある。それが分かる“アスリートのための”トレーナーを馬原氏は志している。

「選手の感覚はなかなか分かってあげられないんです。150キロを投げる感覚なんて投げた人にしか分からない。そこにかかる負荷とか、球場内のため息とか、歓声とか、野次だとか受けた人にしか分からない。そういうストレスもそう、そこでかけて欲しい言葉とか、こういう風に声をかけて欲しいとか、やってきた人間には細かく分かるので。そういうのってなかなか分からない。そういうのを伝えていければ」

 将来像もいささか異なる。例えば球団トレーナーだったり、個人の治療院を開いたり、パーソナルジムを開くなどの道も考えられるが、馬原氏は「そこは目標にしていない」と言い切る。「この先、自分が野球界に戻るんじゃなくて、トレーナーたちをどんどん育成していって、どんどん輩出していきたいんです。『馬原式トレーナーメソッド』というものに認定を出して、その認定を取った子たちが選手に付いて、どんどん選手が結果を出していく」。目指すのは“アスリートの感覚が分かる”トレーナーたちの育成。そのために「アカデミーとかスクール、学校を作る」ことも考えているという。

 このオフの自主トレ期間中でもトレーナーを目指す青年たちが日替わりで馬原氏の元に勉強に訪れている。この日も初対面だという若者がいた。「そうやって現場の空気を感じるだけでも成長、勉強になる。どんどん受け入れてます。こちらからしても助かりますからね。手伝ってくれたり、バッティングできたり、守備についてくれて、と。肌で感じて選手と触れ合う機会は彼らも絶対にないので」。もっと多くの“アスリートの感覚が分かる”トレーナーを育てたいという馬原氏。志のある若者であれば「どんどん受け入れる」と語っていた。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

© 株式会社Creative2