なぜ早明戦は5万人を超えたのか?世界の名将ロビー・ディーンズが語る「日本ラグビーの進化」

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23年ぶりの決勝「早明戦」が実現した、全国大学ラグビー選手権。新国立競技場に5万7345人もの観客を集め、その人気の高さをあらためて知らしめることとなった。日本代表戦でもなければ、トップカテゴリーの試合でもない。

なぜ「大学」のカテゴリーの試合がこれほどの注目を集めるのだろうか?

オーストラリア代表を率いてラグビーワールドカップ3位に導き、トップリーグの強豪パナソニック ワイルドナイツでは就任すぐに2連覇を達成するなど、世界的な名将として知られるロビー・ディーンズが口にする「日本ラグビーの進化の要因」に、その答えが隠されている――。

(文=花田雪、写真=KyodoNews)

圧倒的な集客力を見せつけた、23年ぶりの決勝・早明戦

2020年1月11日に行われた第56回全国大学ラグビーフットボール選手権大会決勝。

連覇を狙う明治大学と、11年ぶりの頂点を目指す早稲田大学。大学ラグビー界を長くけん引してきた伝統校同士が23年ぶりに決勝で相対することになったこの試合は、45-35で早稲田大学が勝利し、悲願の優勝を遂げた。

昨年行われたラグビーワールドカップが国内に大きなムーブメントを巻き起こし、「ラグビー熱」が高まった中で行われたこの試合。会場となった新国立競技場には実に5万7345人もの観客が押し寄せた。

これは、同じく新国立競技場で元旦に行われたサッカー天皇杯決勝の5万7597人に迫る数字であり、あらためてラグビーの持つ力を全国に示す形となった。

とはいえ、ワールドカップを沸かせた日本代表メンバーが一人も参加していない、「大学スポーツ」の一試合がここまでの注目を集めるのは、やはり異例のことだ。

参考までに過去5年間の大学選手権決勝の観客動員数を以下に記す。

第52回大会 1万6669人(帝京大学27―17東海大学/秩父宮ラグビー場)
第53回大会 1万3776人(帝京大学33―26東海大学/秩父宮ラグビー場)
第54回大会 2万0489人(帝京大学21―20明治大学/秩父宮ラグビー場)
第55回大会 2万0055人(明治大学22―17天理大学/秩父宮ラグビー場)
第56回大会 5万7345人(早稲田大学45―35明治大学/新国立競技場)

昨年までの4年間は試合会場が秩父宮ラグビー場だったためキャパシティーの問題はあるが、それにしても5万7000人超えという観客数は驚きの一言だ。

「ワールドカップの余波」だけでは、説明がつかない。

ではなぜ、この一戦がここまで大きな注目を集めたのか。その理由はいくつかあると、筆者は考えている。

・23年ぶりに大学選手権決勝で「早明戦」が実現
・昨年行われたワールドカップの影響で「ラグビー」への関心が高まった
・新国立競技場で初となるラグビー公式戦の開催

その中でも特に大きな要因となったのが「23年ぶりの決勝・早明戦」だろう。

大学ラグビー戦国時代の幕開けと、日本ラグビーの特殊性

大学ラグビー界は今、大きな転換期を迎えている。一昨年まで大学選手権9連覇と、無敵を誇った「帝京大学の時代」が終わり、昨年は明治大学が22年ぶり、そして今年は早稲田大学が11年ぶりに頂点に立った。大学ラグビー界の象徴的存在でもあるこの2校が相次いで覇権を奪い返し、そこに関西大学界の雄・天理大学や、初優勝を目指す東海大学、流通経済大学、筑波大学といった勢力が加わる「戦国時代」が幕を上げたのだ。

そう、現在の大学ラグビーは単純に「面白い」のだ。

ラグビーにかかわらず、日本の「大学スポーツ」はチーム単位ではなく、学校の伝統そのものを背負って戦う意識が強い。多くのOBや関係者の後押し、声援があり、選手たちはそれを一身に受けてプレーする。それが「伝統校」ならばなおさらだ。

実際に過去、早稲田大学や明治大学の選手、関係者からは「早稲田が強くないと……」「明治が強くないと……」といった「大学のプライド」をひしひしと感じるコメントを聞いたことが多々ある。

どんなスポーツでも、伝統や歴史があるチームが強いことは、競技の盛り上がりにおいて必要なファクターの一つ。強い伝統校がいて、そこに挑むライバルがいて、さらに新興勢力が食い込む――。そんな構図は、スポーツの理想形ともいえる。

その一方で「大学」のカテゴリーがここまでフィーチャーされるのはラグビーの持つ特殊性の一つだ。そこには、日本ラグビーがこれまで築き上げてきた伝統と、歴史が見え隠れする。

ラグビーは他のスポーツとは違い、高校で優秀な成績を残した選手のほとんどがトップカテゴリーではなく大学に進学して競技を続ける。

例えば野球やサッカーの場合、高校生でトップクラスの実績を残した選手は大学ではなくそのままプロの道を歩むケースがほとんどだ。もちろんラグビーにも高校からそのままトップリーグに進む選手もいるが、決して多くはない。一流選手の進路が高校→大学→トップリーグという流れでほぼ一律化されている。

これはラグビーが他のスポーツとは一線を画し、これまで「アマチュア精神」を貫き続けてきたことが大いに起因する。

トップリーグの選手でも、その多くが「プロ契約」ではなく母体企業の社員としてプレーするケースがほとんどなように、ラグビーには世界レベルで「アマチュア精神」が根付いている。現在はトップリーグのプロ化構想も進められるなど、変化の兆しもあるがあくまでも「アマチュア」であることにこだわり、誇りを持ち続けてきたことが、現在の日本ラグビー界の礎となっている。

そして、多くの有望選手が大学を経由してトップリーグに進むこの現状は、日本ラグビー界そのものにも好影響を与えている。

ロビー・ディーンズが語る、日本ラグビー進化の要因

元ニュージーランド代表で、オーストラリア代表のヘッドコーチなどを務めたロビー・ディーンズ(現・パナソニック ワイルドナイツ監督)は以前、日本ラグビー界の強みをこう語ってくれた。

「日本ラグビーが近年、これだけの進化を遂げてきた一番の要因は高校、大学、クラブという育成の流れが確立されていることでしょう。例えば私の母国ニュージーランドでは高校から直接クラブに入団する選手が多い。しかし、日本では高校を卒業した選手が大学でプレーすることで、ある程度成熟した状態でクラブに入団してくる」

ロビー・ディーンズ監督いわく、入団してくる選手のほとんどがすでに高い水準のレベルに達しているため、いわゆる「育成」にかかる時間が短く、そのぶんを戦術理解や技術の習得に回すことができるという。チームをつくるうえで新入団選手がいきなりチームのレベルにある程度近い状態でいるというのは、確かに強みになるだろう。

「加えて、近年では大学の時点でしっかりとしたフィジカルトレーニングを積んでいるので、そういった面でもかなり早い段階からトップレベルに順応できる。現代のラグビーは何かが突出しているのではなく、全てのプレーで高い水準が求められる。その意味で、日本ラグビーはこれからもさらに進化していくはずです」

ロビー・ディーンズ監督のこの言葉を受ければ、日本ラグビー界の育成システムは世界トップのニュージーランドなどよりも効率的で、理にかなっているということになる。

日本のトップリーグがもし今後、「プロ化」の道を歩むとしても、恐らくは高校→大学→トップリーグという流れは不変だろう。

ワールドカップでベスト8という結果を残した日本代表は、3年後に行われるフランス大会でさらなる高みを目指す。

早明戦での盛り上がりを見てもわかるように、それだけでも魅力的なコンテンツであり、なおかつ日本ラグビーにおいて重要な位置づけである「大学ラグビー」。

群雄割拠の戦国時代は間違いなくレベルアップにもつながり、それがトップリーグ、日本代表の強化にもつながる。

2020年、1月11日。新国立競技場で起きた熱狂は、間違いなく日本ラグビーの「明るい未来」へとつながるはずだ――。

<了>