息白き冬

 ずっと前、参考にした覚えのある「手紙の文例」を改めてめくってみたら…と、女性読者のお一人から手紙を頂いた。1月の時候のあいさつに「吐く息の白さに清々(すがすが)しい寒さを感じるこの頃…」とあるのを見つけ、ふと昔の風景を思ったという▲冷えきった手を温めるのに、はぁーっと白い息を吹き掛けていたな。寒い朝、通学路では学校へと急ぐ子どもたちの白い息が弾んでいたな。そんな往時を思い出し、「最近は見られなくなったように思います」と手紙につづられている▲〈橋をゆく人悉く(ことごと)息白し〉高浜虚子。ここ何年か、確かに「吐く息の白さにすがすがしい寒さ」を感じた覚えがない。今のところ、この冬もそうで、虚子の句がやけに遠い景色に思えてくる▲長崎地方気象台に尋ねると、長崎市の昨年12月の平均気温は10.6度で平年よりも1.2度高かった。今月は23日までの平均が9.5度くらいで、平年を2度以上も上回る。1月としては1989年に次いで高いらしい▲きのうの紙面で「暖冬の打撃」を伝えていた。冬物の衣類も暖房器具も売れ行きがよくない。野菜はよく育って豊作だが“飽和状態”になってしまい、値が下がる▲消費者にはうれしくても、農家は頭が痛いばかりだろう。あちらこちらで青息吐息と知れば、息白い冬はますます遠い。(徹)

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