「市販薬より処方薬が効く」は本当か 病院に行くべき適切なタイミングとは

 風邪が流行する季節、真っただ中。「薬が欲しいけれど、病院に行くべきか、薬局で買うべきか」…そんな風に悩んだ人も多いのではないだろうか。「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎新書)の著者で、消化器外科医の山本健人氏が、薬をどう入手すべきかについて解説する。

写真はイメージです

* * *

 医療の専門家でない患者さんが、市販薬で対応してもいいものか、病院で医師に薬をもらうべきなのか分からなくて難しい、と感じるのは当然でしょう。薬に関する基本的な知識をまとめ、医師の視点で考えた「理想的な対策」をご紹介したいと思います。

▽処方薬と市販薬が同じ?

  まず、市販薬(正確には「OTC薬」)の中には、病院で処方されるものと同じものが市販されている、というケースがあります。

 例えば、解熱薬(熱冷まし)や鎮痛薬(痛み止め)としてよく使用される「ロキソプロフェン」は、病院で処方されるもの(ロキソニン<R>錠)と、市販されているもの(ロキソニンS<R>錠)で、成分・成分量が全く同じです。

このため、例えば「いつもの風邪の症状が出ているので、解熱薬が欲しい」といったケースであれば、症状が辛いのに病院に行って、長い待ち時間に耐えるのはお勧めできない、と私は考えます。

 アレルギーの薬であるアレグラ<R>(フェキソフェナジン)もよく知られた薬ですが、同じく市販薬と処方薬が同じ、というものです。

 また、一般的な「風邪薬」として有名な「PL顆粒」も、市販薬(パイロンPL顆粒)と処方薬(PL配合顆粒)で成分に大差はありません。

 正確には、以下のように市販薬の成分がやや少なめに設定されてはいるものの、「市販薬で効果がない時に処方薬に切り替えることで劇的に効果が変わる」ということは、医学的には考えにくいでしょう。

<PL顆粒の成分や用法>

※1包あたりの成分量

・サリチルアミド 市販薬=216ミリグラム/処方薬=270ミリグラム

・アセトアミノフェン 120ミリグラム/150ミリグラム

・無水カフェイン 48ミリグラム/60ミリグラム

・プロメタジンメチレンジサリチル酸塩 10.8ミリグラム/13.5ミリグラム

※用法

・市販薬:1回1包(0.8グラム)を1日3回内服

・処方薬:1回1包(1グラム)を1日4回内服

 なお、風邪薬は風邪を「治す薬」ではなく、風邪の「症状を抑える薬」です(風邪を「治す薬」は存在しません)。「いつもの風邪」だと思ったら、市販薬を常備し、対応する方が患者さんにとってはメリットが大きいのではないでしょうか。

 他にも、胃薬としてよく知られたスクラルファートやファモチジン(それぞれの市販薬の例は、「スクラート胃腸薬<R>」「ガスター10<R>」など)も、市販薬と処方薬にそれほど大差がないタイプの薬です。

 「こういった薬が欲しい」という場合は、市販薬で対応することが可能です。

▽処方箋がないと入手できない薬

 では逆に、処方箋がないと手に入らない薬とは何でしょうか?

 もちろん、世の中の多くの薬は処方箋がなくては手に入りませんから、その全てを挙げることはできません。

 処方薬には副作用のリスクを正確に知っている医師が、リスクより得られるメリットの方が大きい、と考えられる場合にのみ処方する、といった専門的な判断を要する薬が多いからです。

 なお、処方箋がないと入手できない薬の代表例は抗生物質(抗菌薬)です。

 抗生物質には、下痢や吐き気、アレルギーなどの副作用のリスクがあるだけでなく、本当に必要のない時に使い続けていると、「耐性菌」を生み出すリスクがあります。

 耐性菌とは、薬に対する抵抗力が高まり、従来効いていた抗生物質が効かなくなった細菌のことです。ニュースなどで報道されることも多いため、聞いたことのある方もいるのではないでしょうか。

 耐性菌が増えると、「武器」として使える薬が減ってしまうのです。

▽抗生物質は風邪に効く?

 また「原則、風邪に抗生物質は効かない」と考えておいた方がよいでしょう。

 風邪の原因は、そのほとんどがウイルス感染症とされています。しかし、抗生物質はウイルスをやっつける薬ではなく、細菌をやっつける薬なのです。

 細菌とウイルスは、全く異なる微生物。わかりやすい言い方をすると、風邪を抗生物質で治せないのは「ゴキブリを蚊取り線香でやっつけられない」ことと同じです。

 2017年に厚労省が発行した「抗微生物薬適正使用の手引き」にも、「感冒(風邪)に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨する」と明記されています。

 また、抗生物質の多くは、腎臓や肝臓の機能が悪い患者さんに対し、血液検査の値などを確認しつつ細かく容量調節しなければなりません。

 抗生物質のような、専門的な判断を要する薬が欲しい場合は、医師に相談する必要があります。

▽「病院に行くべき時」とは?

 では、そもそも「病院に行くべきかどうか」を、どのように判断すればいいのでしょうか?

 もちろん、個別の症状に応じてケースバイケースですから、明確な「基準」をここで単純明快に解説することはできません。

 しかし、大きな目安として私たちがよく説明するのは、

「これまでに経験したことのある症状かどうか」

です。

 例えば、咳や鼻水、喉の痛みがあったとして、「いつもの風邪だ」と思えるケースなら、まずは市販薬での対応でよいと私は考えています。

 一方で、高熱が出てぐったりしている、食事や水分がとれない、激しい咳が続く、といった症状で、「これまで経験したものとは違う」と思われた時は受診のタイミングです。

 これは、頭痛や腹痛、胸痛など、さまざまな症状に対しても同様のことが言えます。

▽セルフメディケーションも

 近年、「セルフメディケーション」という考え方が広まっています。

 軽い症状の時は、薬局で薬剤師や登録販売者に相談して情報提供を受けた上で、自分の症状に合った市販薬を選ぶ習慣を身につけることが望ましい、という概念です。

 「セルフメディケーション税制」として、一定の市販薬の購入に支払った金額が年間1万2000円を超える時は、その超える部分の金額(上限8万8000円)が所得から控除されるという、税制面での優遇もあります。

 軽い症状で病院に来る人が減れば、本来病院でしか治療できないような重症患者さんへの診療がスムーズに行えるため、医療にかかる患者さん全体の利益はかえって大きくなる、という考え方に基づいています。

 もちろん、自力での解決が難しい時、不安が大きい時は、遠慮なく医師に相談する、という姿勢で全く問題ありません。

 しかし、「必要がないならわざわざ病院には行きたくない」という人も多いのではないでしょうか。

 前述した、市販薬と処方薬の基礎知識を頭に入れておき、上手に病院や医師を利用することが大切です。(山本健人=消化器外科医)

© 一般社団法人共同通信社