近年のポップミュージックに覚える違和感と第56回グラミー賞の歴史的事件 2014年 1月26日 第56回グラミー賞授賞式がステイプルズ・センターで行われた日

近年のポップミュージックに覚える違和感とは?

皆さんは、最近のポップミュージックに “違和感” を覚えることはないだろうか? どうしてそんなことを訊くかと言うと、実は、今どきの音がどうにも僕の生理に合わないのだ。これは、決して歳を取ったことだけが理由ではないはずだ。

何故なら、この感覚は、僕たちがまだ若者だった80年代前半から後半にかけて、音源や視聴媒体のデジタル化が急激に進んだ時に生じた “違和感” とよく似ているからだ。

調べたら、原因はすぐに判明した。故デニス・ポップや彼の愛弟子だったマックス・マーティンに代表される北欧のプロデューサー&ソングライター軍団の存在だ。

マックス・マーティンに代表される制作スタイル「トラック&フック」

中でも、ケイティ・ペリー、ブリトニー・スピアーズ、イン・シンク、テイラー・スウィフトらの楽曲を幅広く手掛けてきたマックス・マーティンの全米No.1獲得曲数は、プロデューサーとしてはジョージ・マーティンに次ぐ歴代2位、ソングライターとしてはレノン=マッカートニーに次ぐ歴代3位にもなると言う。つまり、今日、僕たちが耳にしているポップソングの殆どが、彼らの作品だったのだ。

その特徴は「トラック&フック」という手法を用いる楽曲の制作プロセスにある。

簡単に言うと、1つの楽曲について、複数の人間が分業で制作した各々のパーツから “いいとこ取り” をして1つの作品に仕上げるという訳だ。もはや一人で楽曲制作するのはナンセンスということらしい。いかにもリナックス(Linux:オープンソースソフトウェア)を生み出した北欧人が考えそうな話だが、そうやって工業製品のように生産される音楽って一体…

ダフト・パンクがファレルをフィーチャーした「ゲット・ラッキー」

そんな現実に失望しかけていた数年前、偶然にも、僕好みのサウンドが耳に飛び込んで来た。フランス出身のデュオ、ダフト・パンクがファレル・ウィリアムスをフィーチャーした「ゲット・ラッキー」だ。

一体どこの誰が演奏してるかと思ったら、何とナイル・ロジャース、ポール・ジャクソン Jr.(ギター)、クリス・キャスウェル(キーボード)、ネイザン・イースト(ベース)、オマー・ハキム(ドラム)の名前がクレジットされている。まるでかつての “ドリームチーム” ではないか。

まさに歴史的事件!グラミー賞授賞式でのライブパフォーマンス

この曲とアルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』で、彼らはグラミー賞で5冠に輝いたのだが、授賞式でのライブパフォーマンスはまさに “歴史的事件” であった。スティーヴィー・ワンダーをゲストに招いて「ゲット・ラッキー」からシックの「おしゃれフリーク(Le Freak)」、スティーヴィーの「アナザー・スター」と続けたのだ。

それはたった5分30秒の出来事ではあったが、70年代から今日に至るダンスミュージックの歴史を走馬灯のように振り返るものだった。

動画を観ると、セレブリティ達で盛り上がる客席が気になってしまうかもしれないが、是非、演奏に注目してほしい。スティーヴィーの調子が悪そうなのが残念だけど、それにしてもナイル・ロジャースのギターは相変わらずクールだ。

Billboard Chart
■ Another Star / Stevie Wonder(1977年10月8日 32位)
■ Le Freak / Chic(1978年12月9日 1位)
■ Get Lucky / Daft Punk Featuring Pharrell Williams(2013年6月29日 2位)

※2017年3月30日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 中川肇

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