奇跡の “ビートルズ新曲” 35年越しの「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」 2019年 10月25日 リンゴ・スターのアルバム「ホワッツ・マイ・ネーム」がリリースされた日

[【ジョン・レノン最後のアルバム「ミルク・アンド・ハニー」に収録された未完の名曲 からの続き】](https://reminder.top/653211640/)

ビートルズの新曲になれなかった「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」

1984年1月に発表されたジョン・レノンの未完の名曲「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」。この曲が初めて “完成” に向かったのは1994年のことだった。

この年ジョン・レノンがロックの殿堂入りを果たした。その授賞式でヨーコ・オノとポール・マッカートニーが “歴史的” 抱擁を交わす。そしてヨーコからポールにジョンのデモテープが託されたのだ。

このデモテープの音源にビートルズの残り3人が音を加え、ジェフ・リンのプロデュースで完成したのが、翌1995年から96年にかけて『ザ・ビートルズ・アンソロジー』からザ・ビートルズの新曲としてシングルカットもされた「フリー・アズ・ア・バード」と「リアル・ラヴ」だったのである。

『アンソロジー』はCD2枚組で1~3までがリリースされ、1と2の冒頭をそれぞれ新曲1曲が飾った。となると3にも新曲かと期待が高まったのだが、その候補として挙がっていた1曲が「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」だったのだ。

しかし結局3には新曲は収められなかった。その理由は未だ語られていないのだが、ヨーコは2001年のインタビューで「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」が選ばれなかった理由を「もうレコードになっているからということだったと思います」と語っている。

ジョージ・マーティンとジョン・レノン、ソロでの初共演

しかし『ザ・ビートルズ・アンソロジー』終了から2年後の1998年11月、「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」は遂に新たな姿を見せて一旦 “完成” する。CD4枚のボックス『ジョン・レノン・アンソロジー』がリリースされ、ここでビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンによるストリングスが加えられた新たなヴァージョンが収められたのである。

ポールのソロアルバムも数作手がけたマーティンであったが、ジョンのソロはこれが初めてであった。やはり2001年のインタビューでヨーコは、ジョン自身はもっとファンキーなアレンジを望んでいたかもしれないが、マーティンの正当な音楽性こそが相応しいと考えプロデュースを依頼したと語っている。個人的には少し甘いかなとも思うのだが、ジョンとマーティンの思わぬ再会はファンとしてやはり嬉しかった。

2001年9月には『ミルク・アンド・ハニー』のリマスター盤が発表された。リマスターはミックスには手を付けないのが原則だが、「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」の左右に振り分けられていたリズム・ボックスの音はモノラルに戻され、オリジナルのデモテープの音に戻っていた。率直な話、これは勇気ある、嬉しい改変であった。

これで「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」の歴史は終わるはずだった。

リンゴ・スターのカヴァーで実現したビートルズ “再結成”

昨年2019年の10月25日にリリースされたリンゴ・スターの最新アルバム『ホワッツ・マイ・ネーム』でリンゴが「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」をカヴァーしているというニュースに驚かなかったビートルズファンはいないであろう。何とポール・マッカートニーもベースとバックヴォーカルで参加した。

しかしなぜ今になって、それもリンゴがと思わなかったファンもいないだろう。その鍵は何と、『ミルク・アンド・ハニー』にクレジットされなかったプロデューサー、ジャック・ダグラスが握っていたのである。

まずダグラスが、2010年にリリースされたジョンとヨーコの1980年のアルバムのリミックス盤『ダブル・ファンタジー / ストリップド・ダウン』でヨーコと共にプロデューサーを務め、和解していたことに触れないわけにはいくまい。

そのダグラスがリンゴにジョンのデモテープを聞かせる機会があった。すると「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」の前にジョンが、

「ヘイ、これはリチャード・スターキー(リンゴの本名)にピッタリだな。リンゴ、君にとってもお似合いだよ!」

と言っているのをリンゴは初めて耳にした。結果、リンゴはこの曲をレコーディングすることを決意したのであった。

ポール・マッカートニーも快諾、そしてジャック・ダグラスの粋な計らい

リンゴからの誘いをポールも快諾。そしてストリングスのアレンジはジャック・ダグラスが担当。『ミルク・アンド・ハニー』から35年越しの、ダグラスの復活であった。

ダグラスは、2016年に亡くなったジョージ・マーティンのアレンジも尊重しつつ、少し遊びも入れた。2つめのAメロからBメロに行くブリッジの部分、1分39秒~の所にジョージ・ハリスン作の「ヒア・カムス・ザ・サン」のタイトルを歌う一節をヴァイオリンで忍ばせているのだ。

リンゴはミキシングの時にこれに気付き、「ビートルズが4人揃った!」と感嘆の声を上げたそう。ダグラスの粋な計らいで、『ザ・ビートルズ・アンソロジー』では成し得なかったビートルズ “再結成” が実現したのであった。

こうして発表から35年で「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」は “完成” を見た。40歳のジョンが作った曲を79歳のリンゴが歌い、77歳のポールと亡きジョージのメロディーが力を添えて。アーティストをずっと追いかけていると、こんな奇跡に出逢うこともあるのだ。

『ホワッツ・マイ・ネーム』のジャケットのリンゴの胸元でジョンも微笑んでいる。

カタリベ: 宮木宣嗣

© Reminder LLC