2020年サッポロビール株式会社 事業方針

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2020年夏、56年ぶりに2回目の東京オリンピックが開催される。また、秋には、酒税法の改正がある。大きな節目となる本年を、大手ビールメーカーはどのような戦略で攻略していくのだろうか。1月9日に発表された「サッポロビール株式会社事業方針説明会」をレポートする。

サッポロビール ビジョン

「社会は大きな変化が引き続き起きている。スピードも加速している。そうした変化を前に、自らを変えていこうという強い意志を持って、事業活動に専心する。弊社事業活動に一緒に取り組んでいただく外部の方々を含め、一つのチームになろうという意味を込めて、ビジョンを策定した」髙島英也サッポロビール代表取締役社長が力強く語る。

サッポロビール株式会社 代表取締役社長 髙島英也

誰かの、いちばん星であれ

ひとりひとりの心を動かす物語で

お酒と人との未来を創る

酒類ブランドカンパニーを目指す

〈プレミアム&リーズナブル〉〈グローバル&パーソナル〉』

〈プレミアム&リーズナブル〉とは、消費者がブランドに触れるタッチポイントにおいて、二つのヴァリューをしっかりと伝えていくこと。〈グローバル&パーソナル〉には、そのブランド価値を世界のいろいろな人たちに、また、ひとりひとりに伝え、心を動かすことで未来を造り出していく企業になりたいという思いを込める。

2019年振り返り

2019年は、継続してきた「ビール強化」が成果を生み、対前年比で100.6%となった。特にフラッグシップブランドである「サッポロ生ビール黒ラベル」は、5年連続対前年比アップを達成した。加えて「サッポロ クラシック」、赤星の愛称で人気の「サッポロラガービール」も連続成長した。一方、新ジャンルは前半苦戦したが、8月の「サッポロ 麦とホップ」リニューアル後は挽回して、対前年比92.9%となった。RTD※は、「サッポロチューハイ99.99〈フォーナイン〉」が牽引し、対前年比130.2%と拡大した。

※RTD=Ready To Drink:缶チューハイ、缶サワー等のフタを開けてすぐに飲める低アルコール飲料。

2020年事業方針

個人が多くの情報接点を作っており、それがまたいろいろな人の目に触れる世の中になっている。加えて、自分が体験して本当に良いと思ったものやSNS等を通じて良い評判を聞いたものを選択するなど、購買の決定要因も変化してきている。7月には、東京オリンピック、そしてパラリンピックが続く。人々が多く行き交う場所に、ブランドを効果的に露出していくが、短期的な施策に終わらせず、「ビヨンド、オリ・パラ」即ち、オリンピックやパラリンピック終了後や10月の酒税改正を踏まえて、中長期的な視野で持続的に事業を継続する戦略をとる。「乾杯をもっとおいしく」というキーメッセージを届けてきたが、これを実践するために、良い原料を造り、品種改良をして、本当においしいビールを造るということにこだわってきた。軸はぶらさず、その大きな軸をしっかり持って進化させ続けていく。具体的には、「サッポロ生ビール黒ラベル」他、多様なビールブランドを持つ強みを活かし、「ビール強化」を継続して、対前年比100.8%を目指す。新ジャンルでは、「サッポロ 麦とホップ」「サッポロ GOLD STAR」の2トップ戦略を展開して、対前年比114.4%を、RTDでは110.6%を目指す。

海外での酒類事業展開

5箇所の製造拠点を持つ北米事業については、グローバル市場で一貫したブランド強化を志向する。欧州については、オランダ、アムステルダム近郊に営業法人を立ち上げ実績を上げつつある。アジア、オセアニアにおいても販売数を着実に伸ばしている。2019年の売上数量(見通し)はアンカーやスリーマンなどの海外ブランドで1,341万ケース、サッポロブランドで641万ケースとなった。

サステナビリティ経営の推進

「大地と、ともに、原点から、笑顔づくりを。」昨年12月にサステナビリティ方針を定めた。1876年開拓使麦酒醸造所が創業されて本年で144年目となる。創業からずっと、ビールの基幹原料である大麦育種とホップの開発を継続してきたが、今後もこうした品質向上の取組みを継続させる。また、「フレッシュキープ製法」や「旨さ長持ち麦芽」などにより、ビールの品質が格段に向上したので、2020年3月より、賞味期限の延長(「9ヶ月」→「12ヶ月」)と製造時期表示変更(「年月旬」→「年月」)をする。これにより、サプライチェーン全体での食品ロスの削減、物流の効率化、CO2排出量の削減を推進していく。サステナビリティ経営の結果として、世界中の人たちを本当に心から笑顔にしていきたい。

2020年市場背景および事業方針詳細

「酒税の段階的な増減税がいよいよ始まり、2026年に統合される。オリンピック、パラリンピックの状況もある。SDGs(持続可能な開発目標)、ESG(環境、社会、企業統治)の観点で社会課題と会社内の課題を同時に見ながら、しっかり取り組むことが問われている」野瀬取締役常務執行役員営業本部長が語る。

サッポロビール株式会社 取締役常務執行役員 営業本部長 野瀬裕之(左)

ビールは多様性の時代。一つのブランドに依存するのではなくて、いろいろなブランドと味覚を楽しみたいという消費者が増えている。減税という秋の追い風を踏まえて、個性のあるブランドをどう磨き切れるかに挑戦していく。

サッポロ生ビール黒ラベル

「サッポロ生ビール黒ラベル」(缶)の売り上げは好調で、タッチポイント戦略が功を奏し、特に20代、30代男性からの支持が拡大している。昨年7月、銀座にオープンした「サッポロ生ビール黒ラベル THE BAR」には31,000人の来場があった。合わせて、全国で展開している「THE PERFECT DAYS & WAGON」によるブランド体験により、今まで飲んだことが無かった若い消費者を取り込むことで、良い循環が生まれた。

「パーフェクト黒ラベル」の進化:パーフェクトチェンジャー

2014年から飲食店向けの戦略として、「パーフェクト黒ラベル」のブランド化を進めている。これは「パーフェクトチェンジャー」というサーバーを使って、本当に良い状態のビールを消費者に飲んでいただくことを目的として取り組んでいる。フロスティミスト(ビールを飲むときに泡の再生を生む、きめ細かい小さな泡)をより多く生成することで、クリーミーな泡が長続きして、生ビールのおいしさが継続する。いかにして、フロスティミストを多く生成するか。次の写真をよく見てほしい。

パーフェクトチェンジャー

通常は、ビールを注いだ後の泡付けの際、泡をビールの液面に当てるので、液体が揉まれてしまう。ビールは衝撃に弱い為、空気に触れると酸化が始まる。また、ビールを揉むような形で泡付けをすると、蟹泡となって泡の減るスピードが速くなる。「パーフェクトチェンジャー」では、泡を直接液面に当てず、グラスの壁面に当てて柔らかくしてから、液面に辿り着くようにしている。実際に試飲したが、非常に目の細かいクリーミーな泡で、一回飲むと、泡とビールの境界部分に細かい泡が再生されるのが見える。この長続きする泡の存在が、酸化を防いでビールのおいしさを持続してくれる訳だ。この手法でビールを提供している店を、「パーフェクト黒ラベル認定店」として展開しているが、このような消費者の目には触れない細かい活動を継続することが、黒ラベルのブランド成果に繋がっている。

ヱビスブランド

「ヱビスビール」は今年、誕生から130年を迎える。新たに開業するJR山手線・京浜東北線の新駅、高輪ゲートウエイ駅前でJR東日本が開催する「Takanawa Gateway Fest」にて、3月から7月にオープンする「J-WAVE NIHONMONO LOUNGE」内でブランド体験を促進する「YEBISUプレミアムカウンター」(仮称)を展開する。また、ヱビスビール記念館では3月に「ヱビス誕生祭」を開催する。

多様なビールブランド

個性的なブランドポートフォリオの強みを発揮させることで、ブランド価値を最大限に活かしていく。ANCHORブランドは、一昨年アメリカ、サンフランシスコにおけるM&Aでグループ化した会社だが、2020年3月3日より「アンカー スチーム」「アンカー リバティエール」「アンカー ポーター」の3種を全国販売する。新ジャンルについては、秋のビール増減税を経て2026年に統合された後も、ビールとの価格差は残るので、「サッポロ 麦とホップ」「サッポロ GOLD STAR」の2トップのブランド力を強化して、この戦いに挑む。「サッポロ 麦とホップ」は、2020年3月製造分から中身、パッケージをリニューアルして全国販売する。「サッポロ GOLD STAR」は2020年2月に新商品を発売する。また、RTDは、「食中酒」としてポジションを確立すべく市場の拡大を狙う。加えて、家庭用と業務用の連携を進めていく。

昨今、経営指針として、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境、社会、企業統治)を採用する企業が増えている。消費者がブランドを選択する際も、同様の観点が重要視される時代となりつつある。2020年は、東京オリンピックや酒税改正の追い風があるとは言え、こうした変化の中で、気まぐれな消費者をいかに取り込んでいくのか、企業の真価が問われる年となるだろう。「乾杯をもっとおいしく」。おいしさを追求して、愚直なまでに細部までこだわる姿勢に感銘を受けた。今夜は、泡が果たす仕事に感謝しながら黒ラベルを満喫しようと思う。

【参考】

〈2019年実績及び2020年計画〉 (注)2019年実績及びそれに基づく前年比はすべて速報値。

※商品ブランド単体

単位:万ケース(ビールテイスト、ノンアルコールは633ml×20本換算。RTDは250ml×24本換算