戦場のリアル!兵士の会話も再現 P・ジャクソン監督新作は100年前の戦場ドキュメンタリー『彼らはいきていた』

『彼らは生きていた』© 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

あのピーター・ジャクソン監督が100年前の映像を色から音まで見事に復元!

『ロード・オブ・ザ・リング』三部作(2001~2003年)などで知られるピーター・ジャクソン監督の最新作『彼らは生きていた』(2018年)は、意外にもドキュメンタリーである。題材は第一次世界大戦。当時のイギリス軍の記録フィルムを現代の最新技術で復元するという試みだ。そしてジャクソン監督が最新技術をもって取り組む以上、当然ながら通り一遍の内容にはならないのだった。

『彼らは生きていた』© 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

映像は信じられないほどクリアになり、カラー化され、1秒あたりのフレーム数も調整されている。“昔の映像”のイメージとして「人がチョコマカ、カクカク動く」というものがあるが、それが解消されているのだ。さらに、映像の中の兵士たちが話している内容を解読。アフレコにより戦場での会話が再現された。

『彼らは生きていた』© 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

同時に、保存されていた帰還兵のインタビュー音声も活用。語られる内容と映像が見事にシンクロしている。いや、こうやって書くと簡単なようだけれども、それにかかる労力は生半可なものではないはずだ。退役軍人へのインタビューだけでも、実に600時間ぶんもあったという。ジャクソン監督は、本作の製作過程についてこう語っている。

「数百時間の音声を聞くのに時間がかかるのはもちろんだが、僕たちはすべてを聞くまでは映画を作れなかった。だから1年半くらい、仕事の多くは、フィルムを見て、テープを聞き、この映画がどうあるべきかをゆっくりと見極めることだった」

そうした地道な作業の結果、でき上がったのは色や音だけにとどまらないリアルな“戦争そのもの”だった。映画はイギリスの市民が軍に志願するところから、訓練の様子、実際の戦場、そして終戦までを描き出す。

『彼らは生きていた』© 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

ドキュメンタリーでありながら戦争映画史上に残る戦場体感ムービー!

国を守るため、国民として当然のことだと戦地に赴いて、そこに待っていたのは過酷な現実だ。土まみれ泥まみれ、耳を破壊するかの如き爆発音、銃声。塹壕は不潔さとの闘いであり、寒さも容赦なく体を襲う。そして腐臭。それが何から発生するものなのかは、言うまでもないだろう。

『彼らは生きていた』© 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

加えてこの映画は、戦場の“リアル”にさまざまな面から光を当てていく。たとえば紅茶のいれ方(イギリス人は戦地でもとにかくお茶を飲むんだなぁ、と思ったりもする)であり、タバコの銘柄、食事のメニュー。前線の兵士たちが捕虜となったドイツ兵とどう向き合ったか。こうしたことすべてが戦場なのだ。

『彼らは生きていた』© 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

つまり『彼らは生きていた』はドキュメンタリーでありながら、戦争映画史上に残る“戦場体感ムービー”になっている。100年も前の出来事なのに、兵士たちが自分の友人のように思えてくるし、戦場での体験が我がことのように感じられるのだ。“歴史のお勉強”ではない世界がそこにある。言いかえるなら、タイトル通り“生きていた人間の手触り”だ。

『彼らは生きていた』© 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

映画の力と、それを支える技術の力。その両方を信奉し味方につけたジャクソン監督だから作り得た傑作、そう断言しよう。

文・橋本宗洋

『彼らは生きていた』は2020年1月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

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