“起業”で課題解決力育成 対馬・大船越中など6校モデルに キャリア教育事業

未利用魚のイスズミを活用した「絶品フィッシュカツ」をイベント来場者に販売する大船越中生徒=対馬市豊玉町、豊玉文化会館

 長崎県内人口が減少している中、県教委は“起業体験”を通して中学生の課題解決能力を養う新たなキャリア教育を本年度から始めている。地域資源を生かした模擬会社を校内に立ち上げるなど、先進的な取り組みを行っている対馬市立大船越中(東岡(とうおか)貢校長、35人)の事例を基に、その狙いと課題を紹介する。

 ◆人口減
 県教委は本年度から2カ年にわたって「ふるさとを活性化するキャリア教育充実事業」を開始。県内の公立中6校を研究指定校に選定し、総合的な学習の時間を使って「課題を創造的に解決する力」「ふるさとの将来を担おうとする実践力」の育成を目指そうとしている。
 対馬市立大船越中がある美津島町は漁業が盛んで、本県人口が約176万人とピークだった1960年には同町内の人口は約1万3千人だった。しかし、昨年12月1日時点では約7400人で、この60年間で4割以上減っている。対馬では島内の中学を卒業した生徒のうち、高卒後も就職などで島内に残る率が6%程度と低く、UIターン者らによる起業も含めた若者の定着が課題となっている。

 ◆仕入れ
 こうした中、大船越中は地元の山海の幸を生かした商品の仕入れや、製造・販売に向けた学習を昨年6月から開始。生徒は工場見学や、地元の起業家らによる授業を通じ、地域に眠っている資源も工夫しだいで価値を生み出すことを学んできた。
 12月下旬。「船中(ふなちゅう)商店」と名付けた模擬会社は、同市内であったイベントで対馬産の未利用魚イスズミを加工した「絶品フィッシュカツ」(1個50円)や、学校農園で育てたサツマイモの「絶品干し芋」(1袋200円)などを販売。生徒らは「いらっしゃいませ! おいしくてたまらないフィッシュカツです」などと声を上げて来場者にアピールし、フィッシュカツは数時間で全400個を完売した。

 ◆磯焼け
 イスズミのフィッシュカツは、美津島町で水産会社を経営している犬束(いぬづか)ゆかりさん(54)が開発した。11月中旬に同校で行った授業で犬束さんは、イスズミは海藻を食べる磯焼けの原因魚とされており、独特の臭みがあってほとんど市場に出回っていないことを説明。この臭みを消す調理法を数年がかりで確立したことを紹介し、揚げるとジューシーで香ばしいフィッシュカツになると教えた。
 生徒らは12月上旬、犬束さんらと一緒に食材の仕込みを行い、販促用の看板デザインを考えるなど準備作業を済ませていた。

 ◆充実感
 イベント終了後、売上金の会計を担当した同校1年の黒岩愛加(まなか)さん(13)は「地元にもたくさんの人に買ってもらえる宝物があることが分かった。商品を作り上げるのは大変だったけど、充実感があった」とほほ笑んだ。東岡校長(53)は「次年度は地域住民からの出資を元手に活動し、何らかの形で配当も出す“株式会社”の形で進めていきたい。起業家のようなチャレンジ精神を培うことができれば、どの職業に就こうと子どもたちは未来を切り開けるだろう」と話した。

 ◆能動的
 研究指定校のうち、すでに株式会社化に取り組んでいるのは校内で収穫した梅を加工し、今秋の学校祭で販売する西彼長与町立高田中の1校。株主には、自社の梅製品を贈る形で還元するという。
 県教委の担当者は「地域の課題を自分ごととして捉え、能動的に動くことのできる人材を育てることが起業体験の目標。(生徒が事業所で働く)従来の職場体験より深い学びを求めているので、ノウハウを蓄積し、県内各地に普及させていく必要がある」と話している。

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