大雨防災の警戒レベル 「避難促進」評価、3割にとどまる 神奈川県内市町村調査

大雨防災情報の警戒レベル

 台風や豪雨時に国や自治体が発表する防災情報に昨年導入された5段階の警戒レベルについて、「避難促進効果がある」と評価する自治体は、神奈川県内33市町村の約3割にとどまることが、神奈川新聞社のアンケートで判明した。住民が取るべき行動を分かりやすくすることがレベル導入の目的だが、「情報が多くなり、分かりにくい」「国と自治体の情報が混同されやすい」など多くの課題が挙げられた。専門家は「屋上屋を架した仕組みになっており、住民も混乱しているのではないか」とし、見直しの必要性を強調する。

 アンケートは昨年12月~今年1月に実施し、全33市町村が回答した。記録的な豪雨で全ての市町村が何らかの避難情報を出した昨年10月の台風19号を踏まえ、警戒レベルの発表状況や評価などについて尋ねた。

 情報にレベルを付けることで「避難促進効果がある」と回答したのは、藤沢や茅ケ崎など10市町村。松田町は「避難促進効果はない」との見解を示し、横浜、川崎など22市町が「どちらともいえない」とした。

 松田町は「段階的に発表しても、住民には分かりづらい」と指摘。以前と同じように「警戒レベルの数値を付さずに避難勧告などを発令している」とした。

 「どちらともいえない」とした自治体からは「警戒レベルについて分かりづらいとの問い合わせが多く、避難促進に効果があるとはいえない」(横須賀市)「危機感を持つ人は増えたと思うが、実際の避難につながっていない」(中井町)などが挙げられた。

 台風19号の際、全国歴代最多の雨量となった箱根町は「状況が錯綜(さくそう)し、レベルの発表はできなかった」と説明。土砂崩れが多発した相模原市は発表したが、担当者は「ニュースでは警戒レベルを色分けして危険度の違いを伝えられるが、防災無線でレベルを言葉で説明してもあまり効果はない」と疑問を投げ掛ける。

 特に多くの課題が指摘されたのは、国が「全員避難」と位置付けた警戒レベル4だ。この中に、切迫度の違いに応じて市町村が別々に発表する避難勧告と避難指示(緊急)の両方が位置付けられたことについて「違いが分かりにくい」(南足柄市、葉山町)といった声が目立った。厚木市は既に「見直しを要望した」という。

 また、危険度が最も高い警戒レベル5として新たに設けられた災害発生情報については、台風19号の際に発表した市町村はゼロだった。「どの程度の災害でこの情報を出せばよいか分からない」「すぐに被害状況を確認できない」といった声が多く、運用の難しさが浮き彫りになった。

 一方、警戒レベルについて「避難促進の効果がある」とした自治体は、「警戒レベル4=避難の認知度が上がっている」(大和市)「避難への関心が高まった」(座間市)などを理由とした。

 災害時の避難に詳しい広瀬弘忠・東京女子大名誉教授は「発表のタイミングなどが異なる国と自治体の情報を一緒に区分するのは、そもそも無理がある」と課題を指摘。「気象災害はある程度予測できる。想定される災害の規模が大きければ、国や都道府県が避難情報を出すといった仕組みに見直すべきだ」と情報体系の抜本的な見直しを提言する。

■県内市町村の警戒レベルの評価

避難促進効果あり

 藤沢、茅ケ崎、秦野、大和、伊勢原、座間、寒川、大磯、大井、清川

避難促進効果なし

 松田

どちらともいえない

 横浜、川崎、相模原、横須賀、平塚、鎌倉、小田原、逗子、三浦、厚木、海老名、南足柄、綾瀬、葉山、二宮、中井、山北、開成、箱根、真鶴、湯河原、愛川

◆大雨防災情報の警戒レベル 風水害での犠牲者が平成最悪となった2018年の西日本豪雨を受け、災害の危険度と住民が取るべき行動を直感的に理解してもらうため、昨年5月以降に順次導入された。市町村が発表する避難情報は、避難準備・高齢者等避難開始がレベル3、避難勧告と避難指示(緊急)が「全員避難」を意味するレベル4。さらに、既に災害が発生した状況を指すレベル5の災害発生情報が新設され、「命を守る最善の行動」が求められている。国や都道府県が発表する情報は、大雨、洪水警報などがレベル3、土砂災害警戒情報などはレベル4、大雨特別警報と大河川の氾濫発生情報はレベル5に相当する。

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