「金をかけてくれる=私の価値」と考えていた女性が変わったきっかけ

タレント・加藤紗里さんが結婚して1週間で別居、離婚していたことがわかりました。結婚前の3ヵ月で1億円の金を使わせ、相手が経営する会社が傾いてしまったといいます。「私のためにお金を使ってくれるのは当然のこと」「金のない男には興味がない」と言いきった加藤さんですが、スケールは違うにしても、女性たちの中にはこうした価値観が刷り込まれている人もいるようです。


金をかけてくれる=私に価値がある

大学生のころ、恋人が一生懸命アルバイトをして買ってくれたクリスマスプレゼントのアクセサリーがとてもうれしかったと話すのは、アケミさん(35歳)です。

「それは、彼が私に何かプレゼントしたいという気持ちそのものがうれしかったから。苦学生の彼には1万円の指輪も高かったと思うんです。でも買ってくれた。私は彼のことが本気で好きでしたね」

ところが大学を卒業し、それぞれ別の仕事に就くと、彼とは疎遠になっていきました。彼女はベンチャー企業に就職、「今思えば働き方はブラック」だったものの、それなりに給料には反映されたといいます。

「自分ががんばって成果が出れば,若かろうが入社1年目だろうがお金で跳ね返ってくる。それはゲーム感覚に近いものがあっておもしろかったですね。私ははまりました」

周囲がきつさに耐えかねて辞めていく中、アケミさんは3年目にはチーフを任されるまでに。社会的に地位のある人たちとのつきあいも増えていきました。

信じられないプレゼントを

「いろいろな業種の方と知り合いました。あるとき、仕事の打ち合わせに行ったら帰り際に先方の社長に食事に誘われたんです。あとでお返事しますと言って、帰社して上司に伝えたら『絶対行ってこい、仕事をものにしてこい』と。今なら上司も,相手方の社長もほぼセクハラですけど、実は私、その社長のことけっこう好きだったんですよね。社長は当時、40歳くらい。けっこうイケメンでした。仕事と社長とのつきあいを分けて実現することはできないかと思ったりもしました」

食事の誘いをOKすると、連れていかれたのは都心のおしゃれなイタリア料理店の個室。そこでおいしいイタリアンを堪能、デザートが終わると同時に社長から、「ささやかだけど、お近づきの印に」と指輪のケースを渡されました。中を見ると、まばゆいばかりのダイヤのリングが。

「これは仕事がらみということでしょうか、と尋ねました。すると社長はにっこり笑って、『今日はそもそもプライベートで誘ったんです。これもプライベートなプレゼント』と。『僕は仕事をプライベートは分けます。これ、念書を書いてもいいよ』と笑っていました。初めてのデートで、200万円近いダイヤをプレゼントする男性なんています? そのとき、私、思ったんです。私はそうされる価値のある女なんだって」

アケミさんの瞳が色っぽく輝いています。

独身だと思っていた社長が

アケミさんはその後、社長とデートをするようになりました。周りからは、社長は離婚して独身であると聞いていたのですっかり信じていたそうです。実際、社長の自宅へ行ったこともありますが、広い2LDKは殺風景で独身男性らしい暮らしぶりでした。

「私はすっかり社長に惚れ込みました。もちろんプライベートな関係は上司や同僚にも言っていませんでしたが、上司はなんとなく勘づいていたみたい。ただ、その結果、仕事がうまくいくならそれでいいと思っていたようです」

実際,仕事はうまくいき、アケミさんは27歳にして課長に昇進しました。彼女自身も、そのころには仕事イコール儲けととらえ、後輩たちにはかなり厳しく接していたそう。

「会社に儲けをもたらさない人間は辞めてくれ、なんて言ってましたからね。鬼でしたね。ただ、あのころは仕事も恋愛も楽しくて、しかもつきあっている社長からは自分の価値をどんどん高めてくれるようなプレゼントをその後ももらっていたので、完全に有頂天になっていたんです」

ところが30歳のとき、青天の霹靂ともいえるできごとが起こりました。会社の上層部が金を横領して逃亡、会社が倒産してしまったのです。彼女はまったく知らない話だったのですが、社員からも警察からも横領に加担したと疑われ,取り調べを受けました。

そんなときはつきあっている恋人にせめて慰めてほしいもの。ところが同じ時期、実は彼は離婚しておらず、妻子が別の住居にいることが判明したのです。

「何もかも失いました。問題のあった会社にいたことから次の就職先も見つからないし、昔の友人たちも離れていきました。自分に大きな価値があったと思っていたのは幻だったんだと初めて気づいたし、会社に儲けをもたらさない人は辞めろなんて言っていた自分のことも恥ずかしくて。いっそ自殺しようかと思ったこともあります」

支えてくれたのは

連絡をくれたのは、学生時代の彼でした。1万円のアクセサリーをくれた大事な恋人です。特に連絡をとりあってはいなかったのですが、SNSで彼女を探してくれたのです。

彼は彼女の状況を知らずに連絡してきてくれたのですが、SNSのメッセージでやりとりし、苦境を知ると会おうと言ってくれました。

「彼は実家のある北海道に転職していました。わざわざ東京まで会いに来てくれたんです。うれしかった。北海道でよかったら仕事先を紹介できるとも言ってくれて……。私はもうちょっと東京でがんばってみると答えましたが、彼の気持ちがうれしかった。そのときわかったんです。私の原点は彼との心の交流にあったんだ、と。就職と社長との関係とでお金に翻弄されたけど、私は本来、お金に自分の価値を見るタイプの人間ではないんじゃないか、と。彼ともそんな話をしました。彼は『困ったらいつでも言って』と言うやさしい言葉を残して帰っていきました。ひとりでも味方がいてくれる。それが力になりましたね」

彼女は今、新たな会社に職を見つけ、またもバリバリ働いています。大変な営業の仕事を自ら志願、全国を出張で回る多忙な日々だそう。

「でも今は、前のようにお金がすべてとは思わなくなりました。先日、出張で北海道に行ったとき、学生時代の彼に会ったんですが、彼はそろそろ結婚するようです。私たち、永久に友だちでいようねと話して。これからは私も結婚を考えて恋愛したいし、人生をもう一度、きちんと考え直す時期かなとも思っています」

アケミさんの場合、彼女が悪かったわけではなく、周りの雰囲気に巻き込まれていったのでしょう。結果として友人や仕事を失い、彼女自身も傷ついてしまったのは事実。でも彼女は自らを立て直しました。

「儲ける、という言葉には今は過敏になっています。自分の会社や自分が儲けることだけを考えるのではなく、もっと広く社会のためになるような仕事のしかたを考えていきたいですね。自分の価値をお金ではかるようなことももうしたくないです」

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