見直す余地がある“日本野球の礼儀” 罵声、ヤジ、国際大会での配慮に欠けた声

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少年野球界に新風を吹き込んでいる川崎市のブエナビスタ少年野球クラブ【写真:編集部】

筒香を輩出した堺ビッグボーイズでは指導者、選手ともに「罵声、罵倒」を禁止

「野球のいいところは、挨拶、礼儀が身につくところですね。野球をやっていた子は、大人になってもすぐにわかる。きちんと挨拶ができるから」

 長年、学童野球の指導に携わってきた指導者はそう語る。

 確かに少年野球に我が子を通わせている親の中にも「野球をやってから子供が大きな声で挨拶をするようになった」という人が多い。中学、高校の野球部に取材に行っても、こちらの姿を見つけると選手たちは帽子をとって大きな声で挨拶をしてくれる。練習をしていても、それを中断してお辞儀をすることも多い。そういう意味では、野球は「礼儀正しいスポーツ」ということになるだろう。

 しかし、一方で少年野球の試合で、選手や指導者が罵声を浴びせたりヤジを飛ばすのをみていると「礼儀正しいスポーツ」という言葉に疑問符が付く。

 堺ビッグボーイズは、今季レイズに移籍した筒香嘉智外野手を輩出した少年野球チームとして知られるが、このチームでは指導者、選手ともに「罵声、罵倒」を禁止している。子供を通わせている母親は、「うちの子供は練習でも怒鳴られたことはありません。また誰かをヤジったりもしません。だから初めて試合を見に行って、相手チームの監督がエラーをした子供に『ばかやろう、しっかり捕れ』と言うのを聞いてびっくりしてしまいました。それに相手チームに向かって選手が『ピッチャービビってるよ』とか『このキャッチャー、パスボールやるよ』とかいうのもすごく違和感がありました」と語る。

国際大会で耳にする相手チーム、審判へのヤジ、罵声「あからさまに不服そうな表情をする選手がいる」

 アマチュア野球の国際大会の運営を長年担当してきた関係者は「国際大会での日本チームで目立つのは、審判に対する態度ですね。不利な判定をされると、あからさまに不服そうな表情をする選手がいる。審判の判定のたびにヤジを飛ばす指導者もいる。それに、自軍の投手にベンチから大声で『このバッターあたらないよ、カモだよ!』と言ったりする。言葉がわからないと思うからでしょうが、そうした態度は雰囲気で相手に伝わるものです。いつもひやひやしますね」と指摘する。

 その関係者は日本チームの「挨拶」にも言及する。「選手たちは、会場で日本人の野球関係者に会えば、帽子をとって大きな声であいさつしますが、他の国の選手や指導者とすれ違っても、何もしません。彼らのあいさつは『身内』だけのものなんでしょうかね」

 日本野球の「礼儀正しさ」の違和感を解明するカギは「スポーツマンシップ」にある。「新しいスポーツマンシップの教科書(広瀬一郎著)」には、前回、1964年の東京オリンピックの前に刊行された「コーチのためのスポーツモラル」という本からの引用として「スポーツマンシップは、一言で言えば『尊重(リスペクト)すること』だ」という言葉が紹介されている。

 野球だけでなくすべてのスポーツの試合は「ルール」「プレーヤー」「審判」の3つがなければ成立しない。この3つの存在、意味を理解し、大切に思うことこそスポーツマンシップの基本的な前提条件なのだ。「プレーヤー」の中にはもちろん、対戦相手も含まれる。

 本来、スポーツにおける「礼儀」とは、「ルール」「プレーヤー」「審判」に対するリスペクトを表わすことだ。試合中は形だけの挨拶ではなく、この3つを尊重していることを態度に示す必要がある。この前提に立てば、相手チームの選手をヤジったり、審判の判定に不満そうな表情をするのはスポーツマンシップに反しているということになる。

 日本の野球選手の「礼儀正しさ」が、身内に対してのみ発揮されているのだとすれば、それは見直す必要がある。スポーツの国際化が進む中、日本国内でしか通用しない「礼儀正しさ」は、アップデートされなければならないだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)