2020年が始まり、早1カ月。昨年は街中に「タピオカミルクティー」を手に歩く若い女性があふれ、「○○ペイ」といったスマホ決済サービスが存在感を増した1年でした。さて、今年はどんな消費が盛り上がるのでしょうか。
(1)東京オリンピック・パラリンピック、(2)デジタル化、(3)暮らしの構造変化という3つのポイントをあげて考えてみたいと思います。
1. 東京オリンピック・パラリンピックで期待される消費
今年、最も注目されているイベントは、やはり東京オリンピック・パラリンピック。当然、消費の盛り上がりも期待されます。このオリ・パラ関連消費について、訪日外国人需要と日本人需要の2つに分けて見ていきましょう。
まず、訪日外国人需要については、2020年の政府目標である4,000万人 を達成できれば、旅行客の消費総額は約6兆円となる見込みです(2018年は3,120万人で4.5兆円)。
訪日客が増えれば、自ずと、宿泊や飲食、交通費、娯楽・サービス、買物といったの旅行関連消費が膨らむでしょう。
一方で、近年、訪日客の消費行動も、日本人と同様に「モノからコト(サービス)へ」とシフトしているという特徴があります。
訪日客の1人当たりの消費内訳を見ると、中国人旅行客の「爆買い」が2015年をピークに落ち着いたことで、「買い物代」の割合が減り、「宿泊費」や「飲食費」などが増えています(図1)。アジア方面からの若い女性観光客の中には、「日本人の女の子と同じような美容院やネイルサロンへ行ってみたい!」といった声もあるようです。
訪日客にとって、日本酒や浴衣などの日本ならではのモノも魅力的かと思いますが、訪日客を魅了するようなサービスを用意することが、実はリピーターを増やす上では効果的と言えそうです。
図1 訪日外国人旅行客の1人当たりの消費内訳
一方、日本人のオリ・パラ関連消費ですが、観戦需要と開催時の混雑に伴う需要が期待できるでしょう。
観戦需要としては、家庭での観戦を楽しむためのテレビの買い替えなどがあるかもしれませんが、昨年10月の消費増税によって、すでに消費が先食いされてしまった印象があります。
一方で盛り上がりが期待されるのは「トキ消費」です。トキ消費とは、ハロウィンや音楽フェス、アイドルの総選挙、ワールドカップなど、その時、その場でしか味わえない盛り上がりを共有することで 、より限定されたコト消費とも言えるでしょう。SNSが消費行動に浸透することで、SNS映えしやすいイベントが好まれる傾向もあるようです。
トキ消費のポイントは、同じ趣味嗜好を持つ他者と感動を共有することにもあります。今回のような自国開催の五輪では、「共に日本人選手を応援したい!」という熱い気持ちが特に高まりそうです。一方で、希望通りの観戦チケットを得られた方は、ごくわずかかもしれません。その受け皿として、例えば、スポーツカフェやイベントスペースなどでのパブリックビューイングといったトキ消費が期待できるのではないでしょうか。
また、混雑に伴う需要によって、「イエナカ消費」も期待です。猛暑の中で、会場付近は交通機関の大混雑が予想されます。混雑を避けて家の中にこもりたい、自宅での食事や娯楽を楽しみたいといったイエナカ消費も、じわりと盛り上がるかもしれません。
そして、開催時は通勤も課題です。テレワークに向けた、ノートパソコンやタブレットなどのモバイル端末需要が高まる可能性もあるでしょう。
2. シニアで進むデジタル化
2020年の消費の2つ目のポイントは「デジタル化」です。昨年は流行語大賞に「サブスク(サブスクリプションサービス)」がノミネートされ、「サブスク元年」とも言われていますが、今年も、サブスクやキャッシュレス決済といった消費のデジタル化は進むでしょう。
特に今年は、シニアでの広がりが加速するとみています。
総務省「通信利用動向調査」によると、60歳代のスマホ保有率は、2018年にガラケー保有率を上回るようになっています(図2)。また、昨年の消費増税時から、負担軽減策として「キャッシュレス・ポイント還元事業」が始まりました(2020年6月末まで)。最近の「○○ペイ」といったスマホでQRコードを読み取る方式のキャッシュレス決済サービスでは、政府のポイント還元に加えて、独自の大規模な消費者還元施策も実施していますから、これを機に、シニアでもスマホやキャッシュレス決済利用が加速するのではないでしょうか。
そうなると、シニアでもサブスク利用が広がる可能性があります。
月額定額料金で使い放題になるサブスクは、自動車やファッション、本・雑誌・漫画、ゲーム、音楽、ドラマなど幅広い領域で提供されています。現在のところ、サブスクの利用は、スマホ扱いに長けた若い世代が中心です。一方でサブスクを利用することで、無駄な消費を減らし、消費の合理化を図ることができますので、実は、年金や貯蓄に頼るシニアの消費生活とも相性が良いと言えます。
図2 60歳代の保有するモバイル端末の推移
3. 暮らしの構造変化で消費のコンパクト化、時短・代行需要の高まり
そして、3つ目のポイントは「暮らしの構造変化」です。これは今年だけではなく今後も続く大きな流れです。
日本の世帯構造を見ると、単身世帯や共働き世帯が増えています(図3、4)。
単身世帯が増えることで、今、商品やサービスが小型化しています。
例えば、箱入りのカレールーの売上高を1人用のレトルトパックが上回るようになり、カット野菜も売れています5。2040年には単身世帯が全体の4割となる見込みですので、今後も様々な領域で「消費のコンパクト化」は進むでしょう。
図3 家族類型別世帯割合の推移
カット野菜などが売れる背景には、共働き世帯が増え、「時短化需要」や「代行需要」が高まっている影響もあります。
今、食洗機や洗濯乾燥機、ロボット掃除機、用途に合わせた使い捨ての掃除シート、無洗米など、家事の時短化商品が増えています。また、シェアリングエコノミーによって、家事代行などの人手を得やすい環境も広がっています。
さらに、最近では、習い事教室が併設された小学生の学童クラブや習い事送迎のためのキッズタクシーなど、共働き世帯に向けた子どもの教育関連の代行サービスも登場しています。これらの中には、高額にも関わらず予約を受けきれないほどの人気のものもあると聞きます。今後は、特に共働き世帯に向けた子どもの教育関連サービスの盛り上がりが期待できるでしょう。
図4 専業主婦世帯数と共働き世帯数の推移
サスティナブル、持続可能性への配慮という流れも
昨年の9月、「国連気候アクション・サミット2019」で、スウェーデン人の16歳の少女グレタ・トゥーンベリさんが、環境問題への対応に消極的な政治家達を厳しく批判し、その姿を日本のマスメディアでも大きく取り上げていました。
近年、マーケティングにおいても、「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標))」「サスティナブル」といったキーワードが目に付くようになりました。欧州の若者を中心にSNSを通じて、大量生産による大量廃棄をもたらすファストファッションをボイコットするような動きも見られます。
これまでは、経営に余裕のある企業や経済的に余裕のある個人ほど、環境問題に対する意識が高く、取り組みも進んでいる傾向がありました。しかし、近年、日本では深刻な自然災害が相次いだことで、今では国民全体で環境問題に対する意識が高まっているのではないでしょうか。
2020年の消費について、(1)東京オリンピック・パラリンピック、(2)デジタル化、(3)暮らしの構造変化という3つのポイントをあげて考えてみましたが、実は、これらのベースには「サスティナブル」という共通点があります。
オリンピック・パラリンピックは、言うまでもなく世界最大規模のイベントで、その影響力は世界に広く及びますので、環境や経済、社会面など幅広い領域において、持続可能性に配慮した大会運営が求められます。
また、消費のデジタル化として見られるサブスクリプションサービスは、消費者の間で商品を循環させることで、無駄な廃棄を減らし、持続可能な社会づくりにつながります。
さらに、単身世帯の増加による消費のコンパクト化は、無駄な消費を減らす合理化とも言えるでしょう。そして、より若い世代の共働き世帯、あるいは子育て世帯では、環境問題への意識が高まっているのではないでしょうか。
消費行動を捉えるには、目の前に起きていること、すぐ先の未来に控えていることだけではなく、その背景にある暮らし方や価値観の変化という大きな流れもあわせて捉える必要があるでしょう。