連載「ことばは国境を越えて」 第1回:紛争地からの“ひとりごと”(1)

(1)心の声に従って、看護師に。そして紛争地へ

手術室看護師の白川優子(後列中央) © MSF

手術室看護師の白川優子(後列中央) © MSF

国境なき医師団(MSF)の手術室看護師として多くの活動地への派遣経験を持つ白川優子が、活動地の人びととの触れ合いから得た思いをつづった連載コラム※を、抜粋してご紹介します。 

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「なぜ紛争地に入るのか?」
2010年に「国境なき医師団」(MSF)に参加して以来、あまりにも同様の質問を受け続けてきた。私が派遣されるほとんどの場所が紛争地だからだ。その答えを頭で整理しながら言葉にしてみると、結局、経緯はとてもシンプルだ。紛争地で活動するようになるまでには、自然な流れでできた道があり、私はなんら疑問を抱くこともなく、目の前に開けたその道を進んで行っただけの話だ。 

看護師とは、患者さんの人生にお邪魔する仕事

私が7歳の時、テレビを通して出会ったMSFは、医療の届いていない場所に中立の立場で医療を届ける民間の団体である。国籍や人種、信仰する宗教、政治的な信条などの違いを超えて平等に医療を提供している人びとがいると知り、尊敬と憧れの念を抱いた。

その後、私は看護師という職業に就くことができ、この仕事が私の人生における軸となっていった。看護師を選んだ理由も実は言葉で表すのが難しい。心の声に従って選んだという説明しか思いつかない。高校3年生の時に、就職先がどんどん決まっていくクラスメートたちのなかで、一体どんな方向に進むべきなのかが分からずに、私は取り残されていた。ある日、クラスメートの1人が「私、看護婦目指しているの」と話した時に、「それだ!看護婦だ!」と私の心が飛びついた。ずっと探していた答えが見つかった。

定時制の看護学校に進むと、半日を学校で過ごし、もう半日は近隣の病院で勤務するという生活が始まった。その中で私が学んだことは、患者さんというのは、一人ひとりがそれぞれ違う歴史を背負った「個」であり、でも結局最後はみんなが「同じ」人間でもあるということだった。看護師とは、サポートという形でその人たちの大切な生活や人生にお邪魔させていただく仕事だ。その尊さや素晴らしさを知った学生時代だった。
 

初めての派遣は2010年、内戦終結後のスリランカ  © MSF

初めての派遣は2010年、内戦終結後のスリランカ  © MSF

出会いから30年、ついにMSFの一員に

卒業後、日本で看護師として働きながら、MSFの一員として働きたいという思いが募ってきたのは、私の中では自然なことであった。ただし、実際に一歩を踏み出そうと、海外派遣スタッフの募集説明会に参加してみると、英語(もしくはフランス語)で活動をしなくてはならないという条件があることを知った。夢を諦められず、30歳を超えてから本格的に英語の勉強に取り組む決心をした。オーストラリアで大学に入り、看護師の現地資格を取得した。その後、4年ほどオーストラリアの医療施設で働いた。英語に自信が持てるようになった時には36歳になっていたが、MSFへの憧れは決して衰えることはなかった。7歳から約30年が経過した2010年、私はついにMSFの一員となった。

紛争地では、空爆や砲弾、地雷、銃弾など、戦争の暴力による外傷で、外科手術の必要な患者さんが大勢運ばれてくる。私は、外科病棟や手術室で長く積んできた看護師経験を生かせる場所として、主に紛争地にある外科プロジェクトに派遣されるようになった。

30年も追い続けてきた夢であるMSFの一員として働くことは、常に私の喜びと誇りそのものである。紛争地であろうとなかろうと、MSFからの依頼であれば私は派遣を断ることも、派遣先を選り好みすることもない。私にとっては「紛争地で活動をしている」という認識よりも、「MSFで活動をしている」、つまり「医療の不足している人びとのもとへ医療を届けに行く」という感覚のほうが大きいのだ。

もちろん、MSFの組織的なバックアップがなくては、この感覚を持つことも難しいだろう。MSFは徹底して、私たちスタッフの安全管理に努めている。病院施設や医薬品も、可能な限り整えられている。こういった支援態勢があってこそ、私は心の声に従って、危険地域に行くことができる。
「紛争地からの“ひとりごと”」(2)へ続く)
 

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※このコラムは「情報・知識&オピニオン imidas」で連載中の「『国境なき医師団』看護師が出会った人々~Messages sans Frontieresことばは国境を越えて」を改題・再編集したものです。
原文はこちらから⇒「第4回 紛争地からの“ひとりごと”」
 

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