【MLB】レイズ移籍の筒香嘉智が激白 「やるかやられるか」の覚悟、渡米へグラブは3種類

今季からレイズでプレーする筒香嘉智【写真:津高良和】

28歳スラッガーが単独インタで語った心境と覚悟【前編】

 横浜DeNAベイスターズからポスティングシステムを利用してタンパベイ・レイズへの移籍が決まった筒香嘉智外野手。“ハマの主砲”を卒業し、アメリカへと飛び立つ28歳スラッガーが「Full-Count」の単独インタビューに応じ、渡米前の現在の心境、新天地への思い、そして第2の故郷・横浜への思いを語った。

 2回シリーズでお届けする前編では、筒香が抱く「やるかやられるか」の覚悟、ホームランへの意識、日本の子どもたちに届けたい姿について迫る。

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 子どもの頃から憧れたメジャーへの移籍が決まった。

 生まれ育ったのは和歌山県橋本市。高野山の麓にある山間の街で、小学生の頃は稲を刈り取った後の田んぼや空き地を走り回りながら、日暮れまで仲間と野球に興じた。この頃、寝る間際まで何度も何度も熱心に見続けたのが、メジャー歴代最多本塁打を誇るバリー・ボンズの打撃映像集。通算762本塁打を誇る稀代のバッターがスタンドへ描く華麗な放物線に、心奪われた。

 時計を早回しすること10余年。筒香は名門・横浜高で超高校級のスラッガーとして注目を集め、ドラフト1位入団した横浜(現DeNA)では10年で通算205本塁打、打率.285、613打点の結果を残す主砲へと成長。日本を代表する打者の1人となった男は、ポスティングシステムを利用し、2019年12月13日、晴れてレイズと2年契約を結んだ。

 憧れの舞台への道は拓けた。だが、そこには安堵感のようなものはない。まだ実際に足を踏み入れたことのない、想像しかできない世界。今、できることは準備を重ねることだけだ。

「これからって感じですよね。いろいろな準備はしますけど、なんせ行ってみないと分からないことがいっぱいあるので、まずは行って体験して、そこで柔軟に対応していくしかないと思います」

 予期せぬ出来事に柔軟に対応できるよう、自分の中に“引き出し”を増やす作業は、これまで筒香が繰り返してきたアプローチと全く変わらない。これまでも、筒香は小手先の技術を磨くのではなく、感覚(=センサー)を研ぎ澄ませながらあらゆる動きに対応できる体を作り、野球で必要な動きと連動させる作業を続けてきた。戦いの舞台が日本からアメリカへ移ろうとも、筒香の基本姿勢は一本筋が通ったままだ。

まだ見ぬメジャーの舞台について心情を語るレイズ・筒香嘉智【写真:津高良和】

メジャーに持ち込むグラブは3種類「内野用、外野用、ファースト用を持っていきます」

 野球選手が日本球界からメジャーへ移籍する時、決まって「挑戦」という言葉が使われる。筒香の移籍に対しても、この「挑戦」という言葉が当てはまるのだろうか。

「う~ん、もちろん『挑戦』もありますけど、それよりも『勝負をしに行く』っていう感覚ですね。『やるかやられるか』、そんな感じです」

 覚悟を持って向かうメジャーの舞台。まだ見ぬ世界に不安が募ることもある。

「まだ1度も経験したことがないし、結果が出ていないので、不安はもちろん消えないです。いや、どれだけ成績を残していても、次の日、次の年になったら不安になるので、その不安は引退するまで消えないと思います。自信があるかと聞かれても、なんせプレーしていないので分からない。自信がないわけでも、あるわけでもない。もしかしたら、自信っていうキーワードが僕の中にはないかもしれません」

 侍ジャパンが国際大会に臨む時、あるいは日本人野手がメジャーに移籍する時、決まって話題に上がるのが「動く球」への対応だ。北中米の投手は特に、日本の投手のように綺麗に糸を引くような真っ直ぐを投げることが少なく、打者の手元で変化するカッターやシンカーのような球を投げることが多い。だが、筒香は「僕は動く球はそこまで嫌じゃない」と話す。

「僕は動く球ではなくて、変化球ですね。変化球は映像を見るだけでも、すごい変化をしている。ストレートの速さは、目の慣れの問題だと思うので、最初は打てなくても慣れたら何とかなる。ただ、変化球は映像で見る変化と、実際に打席に立った感覚が一致しているのか分からないので、そこですね。もちろん、想像の中で準備はしていますけど、想像を超えることはあると思う。その時に、どう対応して準備するかですね」

 昨シーズン、激戦のア・リーグ東地区で96勝66敗としたレイズは、オープナーと呼ばれる新たな投手起用術を編み出したり、複数ポジションを守れる汎用性の高い野手を起用したり、独自のスタイルを築き上げた。筒香は主にDHとして起用される可能性が高そうだが、球団の方針に対応できるようスプリングトレーニングには3種類のグラブを持ち込むという。

「グラブは内野用、外野用、ファースト用の3種類を持っていきます。ベイスターズで初めて外野を守った年(2012年)も、ファースト用も一応用意しておいてほしいと言われて3種類持っていましたね」

 高校時代は三塁でレギュラーを張り、守備には自信があった。プロ入り後、最初に守ったのが一塁で、2012年には三塁で92試合に出場したが、この年から外野にも挑戦。2015年には左翼へ完全転向している。だが、昨年はチームに故障が相次ぎ、5年ぶりに公式戦で三塁を27試合守った。必要に迫られたチームの方針だったが、「あそこで何試合か守れたのは大きかったですね」と振り返る。

「練習で守るのと試合で守るのでは全然違いますから。打球の質も違いますし。あそこで経験できて良かったです。思ったよりいけたなって思いました(笑)」

中軸で長打が期待される筒香、本塁打は「期待されていれば、もちろん打ちたい」

 レイズのケビン・キャッシュ監督は、入団会見で筒香に打線の中軸を任せたい意向を示していた。中軸ともなれば、メジャーでは特に長打、ホームランを期待される。ベイスターズで205本のアーチを架けた筒香にとって、ホームランは狙って打つものなのだろうか、あるいはヒットの延長で出るものだろうか。

「ホームランにもいろいろな種類があると思います。もちろん狙って打つ時もありますし、違う思いで打席に立った時に出ることもある。1つの思いを持ってホームランを打ちにいっているかというと、そうじゃないですね。根本にあるのは、チームの勝利。ホームランを打って、チームが勝つのがベストです。期待されていれば、もちろん打ちたいですし、究極を言えば毎打席でも打ちたい。でも、なかなかそうにもいきませんから(笑)」

 小学生だった筒香少年がボンズのホームランに憧れたように、メジャーの舞台で活躍するレイズ筒香の姿に憧れる野球少年も現れるだろう。野球少年や子どもたちの未来を第一に考えた育成や教育について、日頃から声を大にするスラッガーは、アメリカかどんな姿を届けてくれるのだろう。

「誰が見ても『ああいう風になりたい』っていうプレーですよね。僕の姿を見て、野球をやっている子が1人でも『ああなりたい』って思ってくれたり、野球をやっていない子が『野球をやりたい』って思ってくれるようなプレーができたらうれしいですね」

 子どもたちが憧れるようなプレーを届けたい――。レイズ筒香嘉智は、2月17日(日本時間18日)新チームでのキャンプインを迎える。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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