試験問題がおおっぴらに取引される北朝鮮の「汚受験」

日本の大学センター試験にあたる韓国の大学修学能力試験。本人のみならず、家族や学校の教員、先輩、後輩を巻き込んでの熱狂ぶりは、日本でも広く報じれられている。その一方、軍事境界線の北側にある北朝鮮でも熾烈な受験戦争が繰り広げられていることはあまり知られていない。

家族を巻き込む点では同じだが、その巻き込まれ方が大きく異なる。平壌のデイリーNK内部情報筋が、「お受験」ならぬ「汚受験」の内幕を伝えた。

大学進学を目指す一般の高等中学校とエリート養成学校である第一高等中学校の生徒は、学年末試験が終わる毎年12月、センター試験と似た予備試験を受ける。これは以前、試験にコネやワイロが介在することが社会問題化したことを受け、新たに設けられたものだ。

ある脱北者は韓国紙・朝鮮日報の記事で、予備試験について詳しく説明している。科目は金日成同志の革命歴史、金正日同志の革命歴史、国語、数学、英語、科学、物理の6つで、2日間にわたって受験する。合格者は全体の7〜8割で、各自が獲得した点数に該当する大学に出願する。本人の希望が反映されるが、基本的には出願できる大学が当局から通知される形となる。

予備試験が終わったころから密かに出回るのが、大学入試の試験問題だ。情報筋は、その取り引きの方法を次のように説明した。

まず、受験生の両親は試験問題ブローカーに接触し、携帯電話の番号を教える。しばらくすると、問題の内容を知っている人から連絡が来るので、価格や受け渡し場所、受け渡し方法を知らせる。身分がバレることを恐れ、ブローカーを介在させない取り引きは行わないのが基本だ。

値段交渉は一切できず、1科目あたり250ドル(約2万7000円)が相場だ。最も重要視される革命歴史は50ドル(約5500円)が上乗せされるが、最近は専攻科目の方が高い場合もあるという。

受け渡し場所は概ね決まっている。最高学府の金日成総合大学の場合は、地下鉄の三興(サムン)駅や地下鉄展示館の裏通り、金策(キム・チェク)工業大学は、国際映画館の脇か、尹伊桑(ユン・イサン)音楽堂の裏、平壌医科大学は大同江(テドンガン)区域の百戦百勝マンションの公園か、東平壌劇場の裏、張鉄久(チャン・チョルグ)平壌商業大学と韓徳銖(ハン・ドクス)平壌軽工業大学は、チュチェ(主体)思想塔に面した広場にある副主題群像の横道だ。

地方の受験生の場合、まずは両親が先に平壌にやって来て試験問題を入手し、受験生本人は試験の1週間ほど前に来る、というのが例年のスタイルだった。だが、家族全員が年明けすぐに平壌にやって来て、大学近辺の民家に宿を構え、下見をしつつ受験勉強の最後の追い込みをかけるというのが今年のトレンドだ。

これについて情報筋は「大学入学の競争率がそれだけ高まったからだろう」と見ている。政府は、よりよい人材を選びぬくために、ただでさえ狭き大学の門をさらに狭めているが、地方出身の受験生は、なんとしてでも受かろうと、できることはなんでもやるということだ。

平壌で大学を出て就職すれば、思想的に問題のない人以外は住めないこの「特権都市」への居住が可能になる。地方の大学を出て地方で就職するのとは雲泥の差だ。


大学別の本試験は2月初めに3〜4日間行われる。基本的には1〜2科目の筆記試験、身体検査、体力検査、面接からなる。試験期間に突入すれば、親は採点に関わっている教授の家を訪ね、自分の子どもの受験番号が書かれたメモと外貨を掴ませる。

情報筋はその額を明らかにしていないが、元教員で2008年に脱北したキム・チョルミョン(仮名)さんは、金日成総合大学の場合、入学試験に影響を与えられる地位にいる朝鮮労働党中央委員会の教育部の幹部に5000ドル、その他の関係者には500ドルというのが相場だと明らかにした。もちろん、今ではそれ以上の額になっているだろう。

晴れて入学しても、何かに付けてワイロが必要になる。そんな拝金主義は大学のみならず、幼稚園への入学から始まる。そんな国の現実から、若者たちは一体どのようなことを学ぶのだろうか。

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