実はPISAの数学的リテラシーは世界一! 海外のと比較して見えた日本の数学力を上げる方法

PISA(OECD生徒の学習到達度調査)で、日本の読解力が下がったことが話題になっていますが、一方で数学的リテラシーについては、実はOECD所属国の中で世界一のスコアをたたき出しています。ここから感じた“数学教育の在り方”について自分なりの考えを述べたいと思います。

  • 十数年前までは日本の数学的リテラシーはフィンランドに負けていた。
  • 2012年以降は日本のほうは数学的リテラシーが高い。
  • 基礎計算能力も重要、その上でプログラミング教育に期待。

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数学教育を学びにフィンランドへ

私には、フィンランドで先生をしている友人が複数名います。先日、その友人の1人が興味深いことを教えてくれました。

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うちのクラスの小学6年生は、九九をスラスラと言えない子が少なくない

これは私にとって、非常に興味深いことでした。と言うのも、私は中高数学の教員免許をもっていて、大学時代は数学の先生を目指して勉強をしていました。その際に、2003年~2009年のPISA国際学力テストの結果を見て、フィンランドが非常に高いスコアを連発していることを知りました。

PISA調査における数学的リテラシー国際比較(※灰色は非OECD加盟国)国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」より画像参照:https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/

そんなフィンランドの教育に興味をもち、私は2010年代に計5回に渡ってフィンランドの小学校は3都市10校以上、視察しました。あくまでも私が感じたことではありますが、大まかな印象として「フィンランドは言語や芸術に関する教育が世界トップクラス!一方で数学教育は、日本だって負けてはいない」と感じました。

その理由は、「日本の子どもたちは、世界トップクラスで四則計算が速い」と感じたからです。「日本の子どもたちの数学力は、決して低くない」そう思って、四則計算の速さに関する統計資料を探してみましたが、見つかりませんでした。

国際的な数学力の比較指標としては「PISA」がよく使われます。2003年、2006年、2009年の調査では、数学スコアは常に日本よりフィンランドのほうが上位でした。

「でも日本の数学力だって、ポテンシャルは低くない」──そう感じた初めてのフィンランド渡航から6年。友人の「フィンランドの九九に関する話」を聞いて、久しぶりに最新のPISAの結果を見てみました。

近年のPISAランキングでは、日本は上位に!

PISA調査における数学的リテラシー国際比較(※灰色は非OECD加盟国)国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」より画像参照:https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/

なんと2012年、2015年、2018年、いずれも日本はフィンランドよりも数学のスコアが高いではありませんか!2015年、2018年にいたっては、OECD所属国の中で世界一のスコアです。

しかし、テストの点数が高いその一方で「数学への興味関心の低さ」には課題があるようです。2012年のPISAの調査で「将来の仕事の可能性を広げてくれるから数学は学びがいがある」と回答した日本の生徒の割合は52%で、OECD平均77%を大きく下回りました。

軽視することはできない基礎計算

九九の話を聞いた直後にこの資料を調べた影響もありますが、私はこんな意見をもちました。「15歳までの数学力において、基礎的な四則演算は決して軽視してはいけない。一方で、ある程度計算力が身についた後は、数学の興味関心を高めるための教育にシフトしていくべきだ」

具体的に例えると、九九を暗記することは決して悪くない。むしろ積極的に行っていくべきだと思います。一方で「関数」とは何かも理解しないままに、二次関数の練習問題を解の公式を使って機械的に反復するのは、非効率だと考えています。

この考えには、反論もあるかもしれません。「電卓やエクセルに留まらず、人工知能がどんどん進む現在で、基礎計算力なんて必要ない」、こんな反論も聞こえてきそうです。しかし、このような基礎計算力を議論する場合、逆に基礎計算力が国際的に低い国での事例を考えると新しいヒントとなります。

フィリピンの数学教育

PISAランキングでは、数学力が77位であるフィリピンでの事例です。私は、日本の若者がフィリピンの公立小学校で教育実習ができる留学プログラム「 」を運営しています。

ある大学生が、小学4年生の算数の授業で「素数」について教えていました。子どもたちは興味深く楽しそうに授業を受けていたのですが、いざ練習問題になると、手が止まってしまう子どもがたくさんいたそうです。

その子のノートを見てみると、10までの素数についてはわかっているようですが、10以上の素数は判断が難しいようで、素数の概念がわかっても、九九ができないせいで前に進めなくなってしまったのです。九九の基礎ができていない子どもに、素数の興味深さを伝えるのは至難の業でした。

日本の算数教育においても「計算力の低下」は問題視されていますが、フィリピンの全体的な計算力の低さは、日本の比ではありません。そのような環境ではよりいっそう、「仮に電卓があったとしても、算数のおもしろさを伝えるためには、最低限の計算力が必要」であることを実感させられます。

フィンランドの数学教育

では一方で、フィンランドの数学教育はどのような舵取りが行われているのでしょうか。ご存知の方も多いと思いますが、フィンランドはイスラエルと並んで、世界最速で義務教育にプログラミング教育が導入されました。新科目としてではなく、数学や図工などの単元のひとつに位置づけられています。

たとえば小学生のうちから、「scratch」というソフトでプログラミングを学びます。私は大学時代、主専攻が情報工学で副専攻が数学教育だったのですが、「プログラミングは、数学が実生活に役立つことを、もっともわかりやすく実感できるツールのひとつ」と考えています。

学力テストだけでなく、学習意欲の面でも注目されていることで有名なフィンランド教育。プログラミング教育の導入が、子どもたちへの学習意欲にどのように作用していくかは、これからも注目です。

プログラミングを学ぶ時間を捻出するために

大学時代から数学教育を学び、世界中のさまざまな国の数学教育を自分の目で見て回り、PISAのような統計データも踏まえた私の考察をあらためてまとめるとこのようになります。

どれだけテクノロジーが進歩しても、「スマホがあるから、九九なんて覚えなくてもいい」という考えはあまりにも極端すぎて、数学の醍醐味に気づくチャンスが減ってしまう。一方で、「関数とはそもそも何なのか?」という基本に見向きもせずに、ただただ公式を丸暗記して機械的に練習問題を解くような時間は削っていくべき。プログラミング教育の導入にも注目が集まる今、代わりに削るべき時間は基礎的な算数の時間ではない。「機械的に公式に数字をあてはめてしまっている数学の時間」こそ、プログラミングのように数学のおもしろさや、概念理解を支える時間に変えていってほしい。

賛否両論もあるかもしれませんが、この考えが少しでも数学教育について考えるきっかけになればと思います。

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