確執のあったナダルも絶賛。キリオスの集中力と気迫のプレー

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「全豪オープン」でのナダル(左)とキリオス(右)

因縁の試合、遺恨試合と位置付けられた対戦が案外あっさり決着するケースは少なくない。外野は対戦に向けて盛り上がっても、試合は粛々と進み、実力通りの結果となって、あの騒ぎはなんだったのだろう、と拍子抜け--そんな例が過去にもあった。

しかし、ラファエル・ナダル(スペイン)とニック・キリオス(オーストラリア)の4回戦は、期待を上回る好試合になった。しかも“遺恨”うんぬんではなく、内容でファンを酔わせる試合となったのは幸いだった。

両者の確執については読者の皆さんもご存じだろう。それがあらわになったのは昨年のATPアカプルコ大会でのことだった。キリオスが意表をつくアンダーハンドサーブを打ったことに対し、フルセットで敗れたナダルがこう語った。

「彼は観客と対戦相手、そして自分自身への敬意を欠いている」

言葉を選びながらのコメントとはいえ、かなり手厳しい批判だ。その後、両者はウィンブルドンで再戦、ナダルが雪辱する。対戦前に二人の関係について聞かれたキリオスは「彼と一緒にパブでビールを飲むかどうかは分からない。互いにリスペクトしているが、それだけだ」と独特の表現で友人関係にないことを示した。

さらにこの全豪の2回戦では、ポイント間に時間をかけすぎているとして警告を受けたキリオスは、ナダルのサーブ時のルーティンを真似る仕草を見せた。もちろん、プレーが遅いことで知られるナダルを皮肉りつつ、主審に反撃したのだ。

確執のある両者の直接対決に、周囲は盛り上がった。しかし、当日、両者を迎えるロッド・レーバーアリーナの空気はまったく別のものだった。

この日の朝、メルボルンにコービー・ブライアント事故死のニュースが流れ、選手たちはSNSなどを通じてバスケットボール界のレジェンドを悼んだ。大のバスケットボールファンのキリオスは、沈痛な表情でアリーナに足を踏み入れた。ゲームシャツの代わりに身につけたのは、ブライアントの背番号の入ったレイカーズのジャージだった。

キリオスは「ニュースを見て感情が揺さぶられた。ヘビーな1日だった」と試合後に明かした。試合が始まっても、その重さ、痛みをまだ乗り越えていないように見えた。

しかし、第2セット以降は彼が高い集中力で試合に取り組んでいるのが見てとれた。攻めたい気持ちを抑え、丁寧にボールをつなぐ。攻めに転じると、高い打点からのフォアハンドの連続攻撃を見せた。一球一球、うなり声が出る。ポイントを失うと、これまで見たことがないほど悔しがった。剛打と柔らかいタッチショットのミックスアップが鮮やかだった。

最初の分岐点は第3セットのタイブレークだ。キリオスは5-5の正念場で時速217㎞のセカンドサーブを打つが、これが外れ、ダブルフォルト。ナダルにセットポイントが来た。しかしそのナダルもここでダブルフォルトの失態をおかすのだ。失態と書いたが、キリオスの迫力に押されたと見るのが妥当か。ヘルメットが飛ぶほどフルスイングした長嶋茂雄の空振り--古い人間には、こんなたとえが頭に浮かんだ。

タイブレークをナダルが制し、試合の行方が定まった。ところが第4セット、5-4と王手を懸けてサービスゲームを迎えたナダルがブレークバックを許す。試合後、ナダルは「臆病なゲーム」だったと苦笑したが、これもキリオスの気迫を褒めたいシーンだった。

第4セットもタイブレークにもつれたが、ナダルがまさり、8強入りを決めた。ナダルはコートでジョン・マッケンローのインタビューを受け、こう語った。

「彼がこんなポジティブな態度で、今日のようなプレーをするなら、我々のスポーツにとっても良いことだ。彼がこれくらい努力してくれるよう、僕は励ましたい。彼はツアーで最も才能のある選手の一人だ。今大会での彼が僕は好きだ」

過去の確執をすべて上書きするような、ナダルの絶賛だった。

キリオスはブライアントを悼む気持ちがモチベーションになったと明かした。

「バスケットボールはほとんど僕の人生と言っていい。覚えている限り、毎日毎日、バスケットボールを見てきた。彼(ブライアント)が僕を奮い立たせてくれた。彼が何のために戦ったのか、彼が忘れないでいてほしいと望んだことは何だったか、そこに目を向けることで今日、僕は助けられたような気がする。第4セット、ブレークダウンとなっても、僕は間違いなくそのことを考えていた。そうして僕は反撃した」

勇気をもたらす何か、特別な動機付けがあったにせよ、キリオスのプレー、試合態度は素晴らしかった。また、ナダルが言うように、この試合だけでなく、大会を通してトップ選手にふさわしいプレー内容とポジティブな態度を見せた。開幕前に大会が行った森林火災救済のチャリティーイベントも、もともとキリオスの呼びかけに豪州テニス協会が応じて実現したものだった。

「僕は、人間として進歩したように感じる。この方向に進み続けたい」

悪童、異端児と呼ばれ続けた男は、この大会で何かをつかんだはずだ。

(秋山英宏)

※写真は「全豪オープン」でのナダル(左)とキリオス(右)
(©Getty Images)

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