台風で屋根、雨どいが損壊 不安につけこむ”現代版火事場泥棒”の手口

令和最初の年は、これまでに被害のなかったような地域での災害が目立ちました。世知辛い現実ですが、犯罪者らは災害を私たちから金品を騙し取る好機とみています。日本では災害に乗じた暴動は起きませんが、詐欺や悪質商法といった火事場泥棒は頻発します。ですので、どのように詐欺や悪質商法がやってくるのか知っておく必要があります。


相場価格を把握しておこう

台風15号は猛烈な風を巻き起こして、多くの屋根を破壊しました。人々が困っている状況につけこむのが騙しの常とう手段です。悪質業者は「ブルーシートをかけましょうか?」と優しい顔でやってきます。おそらく、ほとんどの人は突然の出来事に、作業の適正価格がわからないままに、言い値で工事をお願いしてしまうことでしょう。そのために18万円を取られた人もいます。災害の発生から、だいぶ時間がたってようやく行政から、一般的な住宅であれば4~5万円ほどと、ブルーシートをかける際の適正価格を公表しましたが、本来、こうした情報は災害前に把握しておくべきことです。おそらく避難経路やハザードマップを確認する準備をしている人は多いと思いますが、詐欺や悪質商法への防犯への備えをする人は少なく、そのために詐欺や悪質商法の被害が多発してしまうのです。

他にも「壊れた家の点検をしますよ」と、やってくる業者も多いですが、すべてが善良であるとは限りません。千葉県では、高齢女性が断ったにも関わらず、訪問してきた業者の男らが屋根などの工事を強引にして25万円を払わせたとして、すでに逮捕されていますが、氷山の一角でしょう。おそらく意に反した形で修理をされて、高額なお金をとられて、泣き寝入りしてしまった人も多いはずです。

今回もそうですが、どうしても災害後の防犯に関しては、注意喚起は後回しになってしまいがちです。災害が起きた状況では、現状の生活への対応が手一杯で、防犯への注意は耳に入らなくなるためでしょう。ですので、いかに災害後の防犯対策を、事前に伝えておくかが大事になります。

実際に千葉県に住む男性に起きた修理トラブルを見てみましょう。台風によって、家の雨どいが壊れてしまいました。業者を呼ぼうと思い、ネットで調べました。「1箇所1,000円」の安い値段で作業をしてくれるところを、見つけたので家に呼びました。軽ワゴンで3名の作業服姿の人が来ました。雨どいをザッと見て、次のように言いました。

「火災保険には入っていますか?」

男性が「はい、入ってます」と答えると、業者の男らは頷き、20分程度、屋根に上り作業をして下りてきました。すると親方らしい年配者が「保険は下りますので、ご安心ください。それに自己負担なしで修理できますよ」と言い、屋根に上った際に撮った写真を見せてきました。そこには雨どいの写真だけでなく「屋根瓦」を数枚外して、中の木材がむき出しになっているものも数枚含まれています。不安になる男性に対して業者は「安心して下さいね。屋根瓦は元の状態に戻しておきましたから」と言います。

「この写真で雨漏りも発生することにして、工事の見積書を2種類作ります。一つは保険会社へ提出する為のもので、もう一つは、実際に修理する際の見積りになります」

業者は帰って行きました。後日、見積もりが送られてきたので見てみると、保険会社用の見積もりは約300万円で、もうひとつは約100万円でした。

「台風で損壊したことにして下さい」

間もなくして、業者から電話があります。

「保険が下りましたら、その他の外壁塗装とかもやりますよ。取りあえず一つ目の見積書で請求しておいて下さい」。その際、業者は次のような言葉で念を押します。

「前回の台風で損壊したことにして下さいね。くれぐれも、絶対に分りませんとか、曖昧なことは言わないようにしてください!」という指示をしました。もちろん、業者は男性の不安を煽るような言葉も忘れません。「すぐに修理しましょうね!次の台風が迫ってますから、大変なことになりますよ」

男性は、ちょうどその頃、私が出演したリフォームトラブルの実態をテレビの情報番組で見ていて「火災保険で工事費用はすべてが賄える」といった話がそっくりだったので、不安になりました。そこで、番組内で騙されないための対策としてあげていた「他の工事業者にも相見積もりを取っていいですか?」という言葉を、先の業者にぶつけてみた。すると、すぐに電話は切れて、その後音信不通になったいいます。

後日、男性は別の業者へ見積り依頼をしました。「雨どいの修理だけなら、約50万円でできますよ」と言われて、実際の雨どいが壊れた写真を添付して保険会社へ提出。保険会社からは30万円が出ました。結局、20万円を手出しすることになり、最初の業者が言ったような保険ですべてがタダになることはありませんでした。そもそも屋根の雨漏りもないのに、今回の台風で屋根が壊れたなどと嘘をつかせようとするなど、かなりの悪質な業者です。

このように、悪質な業者によるリフォームトラブルは、市役所などの工事関係者を装って「点検しましょうか?」と、突然の家を訪問するだけなく、ネットなどの上位に出てきた業者やポストに投函されたチラシの業者に依頼して、トラブルに遭うケースは多いのです。

SNSの書き込みも犯罪のタネ

ここまでお話したのは、災害後しばらくたってから起こる手口ですが、災害直後の対策も考えておかなければなりません。それは、空き巣や窃盗です。犯罪者は多くの人が避難所に向かい誰もいなくなった家を狙います。もし家から金品を盗み出しても、浸水被害にあっていると何が取られたのかわからないし、玄関や窓などが壊れていて侵入しやすいこともあります。過去にも、台風で壊れた入口から空き巣が入り、100万円以上を盗まれる事件も起きています。ですので、台風の襲来前の備えとして、現金や貴重品、カードなどを家に置かずにすぐに持ち出せるようにすることを心掛けてください。もちろん、ヘソクリもお忘れなく。また、車に置き忘れた財布などを狙われることもありますから、車中には貴重品を置かないようにしてください。

福島では、県職員をかたる者から「台風の被害による特別支援金がありますので、振り込ます」と言って、キャッシュカードの暗証番号を聞き出そうとする電話がありました。おそらく、空き巣か浸水で流されてしまったカードから、お金を引き出そうとしたものと思われますので、不審電話にも警戒をしてください。

最後に、災害時のSNSの発信にも十分な配慮が必要です。SNSは被害情報を伝えて、救援要請を行えるなどのメリットもありますが、一方で、犯罪者もSNSの情報を見ているというリスクもあります。もし家に人がいない写真をアップしたり、防犯体制が整っていないことがSNSで知られれば、犯罪者がやってくるかもしれません。今年も異常気象による災害は予想されます。それだけに、火事場泥棒的な手口と対策を知って、詐欺や悪質商法の被害軽減を図って頂ければと思います。

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