GI馬育てる牧場に行ってみて分かったこと  スタッフの半分は外国人、不可欠な存在に

 滋賀県甲賀市の信楽(しがらき)川に沿って田園地帯を抜け、蛇行する山道を進むと、広大な敷地に並ぶ厩舎や、馬たちが走る周回コースが視界に飛び込んできた。競走馬の育成牧場「吉澤ステーブルWEST」。GIで6勝したゴールドシップなどを調教し、ファンに知られる存在だ。(共同通信=福田亮太)

馬の世話を担当するぺデリト・フローレス・バウティスタさん

 ▽南米やフィリピンから

 「おはようございます!」。牧場を歩いていると、すれ違うスタッフが笑顔であいさつしてくれた。声の主は南米やフィリピンからやってきた外国人たちだ。

 牧場には約200頭の馬がおり、北海道の牧場などで人を乗せる訓練を終えた馬に実践的な調教をする。約80人のスタッフのうち40人ほどが、主に「技能」の就業ビザで来日した外国人。馬に乗っての調教から、用具の清掃までさまざまな仕事を担っている。「もはや彼らの力は欠かせない」と牧場のマネジャー柴原将平さん(32)。

 馬の世話を担当するフィリピン人のぺデリト・フローレス・バウティスタさん(40)は「調教しやすいように、馬の状態や機嫌を騎乗員に伝えることを心掛けています」と話す。フィリピンに残した2人の娘とスカイプで話をするのが日々の楽しみという。

 ▽人手不足の競走馬育成業界

 外国人が多く働く背景には、業界の深刻な人手不足がある。馬の育成には知識と技術が必要で、未経験者を気軽には雇えない。牧場の運営会社、吉澤ステーブル(北海道浦河町)は人材を育てる研修センターも運営するが、研修1回につき最大5人ほどしか集まらず、修了して働きだしても途中で辞めてしまう人がいる。

 同社は日本人の採用が理想ではあるが、人手不足が解消できないため、今後も外国人を積極的に採用する考えだ。

 南米などは競馬産業が盛んな一方、低賃金で多くの人は馬の仕事だけでは生活できない。賃金の高い日本は魅力的に映る。日本側にとっても、馬の扱いに慣れ、真面目に仕事をする彼らは貴重な存在。吉澤ステーブルWESTは5年前に南米系の仲介業者と契約し、受け入れを増やした。

 全国185カ所の牧場が加入する「競走馬育成協会」によると、外国人を雇うケースは各地で増えている。外国人の受け入れは、かつては技能を学ぶため欧州からが多かったが、約10年前から人手不足が深刻化。近年は現場のスタッフとして南米やインドからが多いという。

乗馬での調教を担当するリカルド・オマール・ポンセ・サンチェスさん(左)

 ペルーから吉澤ステーブルWESTに約4年前に家族で来たリカルド・オマール・ポンセ・サンチェスさん(42)は乗馬での調教を担当。「億円単位の有力馬を任されるプレッシャーは大きいけど、給料は日本の方がいい。安全で暮らしやすいので、子どもにも日本で働いてほしい」と話す。

 ペルーにいたころ約5万5千円だった月給は、日本に来て約4倍になったという。「これからも日本で馬の調教に携わりたい。将来は自分で調教メニューを決められる責任ある立場になりたい」と夢を語った。

 ▽取材を終えて

ベネズエラ人の男性騎乗員が乗って牧場内の坂路を駆け上がる馬

 在日外国人には以前から関心があった。普段目にするニュースは、低賃金で違法に働かされていたり、苦しい生活を強いられたりするといった暗いものが多い。しかし、この牧場で働いている外国人たちは皆笑顔で、自分の仕事に誇りを持って働いていた。「今度バーベキューするからおいでよ」。インタビューに答えてくれたペルー人が、気さくに誘ってくれた。日本人にはないこんな明るさが、これからの日本には必要だと思った。

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