死刑容認81%、真に受けていい? 「将来廃止」40%、選択肢で変わる世論調査

By 竹田昌弘

 内閣府が1月17日に結果を発表した基本的法制度に関する世論調査で「死刑もやむを得ない」は81%(小数点以下四捨五入)に上ったものの、うち40%は「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と回答した。また仮釈放のない終身刑を導入した場合は「死刑を廃止する方がよい」と答えた人が全体の35%もいた。今回の81%という数字を、森雅子法相のように「国民世論の多数がきわめて悪質、凶悪な犯罪については死刑もやむを得ないと考えている」(同24日の記者会見)と真に受けていいのだろうか。(共同通信編集委員=竹田昌弘)

 ■「廃止すべきである」9%、18~29歳は17%

  内閣府によると、基本的法制度に関する世論調査は昨年11月7~17日、全国で18歳以上の日本人3千人に調査員が面接する方法で実施し、1572人(52%)から回答を得た。 

 まず死刑制度に関して「死刑は廃止すべきである」「死刑もやむを得ない」という意見があるが、どちらの意見に賛成か尋ねると「やむを得ない」が80%を超えたのに対し「廃止すべきである」は9%にとどまった。「わからない・一概に言えない」が10%。「廃止すべきである」と答えたのは男女とも9%で、年代別では、18~29歳が17%と飛び抜けて多く、40代、50代、60代、70歳以上は8~9%で、5%の30代が最も低かった。

 ただ同じ基本的法制度に関する世論調査で、難民認定制度については、質問に先立ち「『難民』とは、国際的な『難民条約』で定められた要件に該当する『人種、宗教、国籍、政治的意見などの理由で、自国にいると迫害を受けるかまたは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた』人です。日本は、難民条約に加盟後、昭和57(1982)年から平成30(2018)年までの間に、難民認定制度において、条約上の難民に該当する人を750人、難民に該当しない場合でも、自国が紛争状態にあるなど人道上の配慮が必要な人を2628人受け入れています」と書かれた資料を渡し、読んでもらっている。 

 死刑制度についても、例えば、どんな事件で死刑が言い渡され、どのようにして死刑を執行しているのか、死刑廃止国が142カ国(10年以上執行のない国など含む)に上り、死刑制度を維持しているのは日本、米国、中国、北朝鮮、アフガニスタン、イラクなど56カ国と少数派であること(2018年末現在、アムネスティ・インターナショナル日本による)、国連で死刑廃止条約が採択されていることなどを伝えてから質問すると、結果は大きく違うのではないか。 

報道機関に公開された東京拘置所の刑場。手前の部屋で刑務官が三つのボタンを押すと、そのどれかが作動し、奥の部屋中央の四角で囲まれた踏み台が落下する。死刑囚は写真にはない絞縄を首に巻かれ、踏み台の上に立つ=2010年8月、東京都葛飾区

 さらに難民認定制度では、資料を読んでもらった後「あなたは、これまでの日本における、難民および人道上の配慮が必要な人の受入れ数についてどう思いますか」と尋ねて「少ないと思う」「どちらかといえば少ないと思う」「どちらかといえば多いと思う」「多いと思う」「わからない・どちらともいえない」などの選択肢から回答を選ぶ。

  死刑制度も「死刑は廃止すべきである」「どちらかといえば、死刑は廃止すべきである」「わからない・どちらともいえない」「どちらかといえば、死刑は維持すべきである」「死刑は維持すべきである」といった選択肢から選ぶ設問にすれば、回答が「やむを得ない」に集中するしかない設問よりも見えてくるものが多いに違いない。

■容認する理由は被害感情最多、18~29歳の過半数が将来廃止 

 死刑制度を容認した人には、その理由(複数回答)を、①凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ、②死刑を廃止すれば、被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない、③死刑を廃止すれば、凶悪な犯罪が増える、④凶悪な犯罪を犯す人は生かしておくと、また同じような犯罪を犯す危険がある、⑤その他、⑥わからない-の中から選んでもらったところ、②57%、①54%、④47%、③46%の順となった。

 ③の凶悪犯罪抑止力については、アムネスティ・インターナショナル日本によると、フランスは死刑制度廃止の前後で、殺人の発生率に大きな変化はなく、死刑制度存置の米国より、廃止したカナダの方が殺人発生率は低い。国連の委託調査(02年)では「死刑が終身刑よりも大きな抑止力を持つことを科学的に裏付ける研究はない。そのような裏付けが近々得られる可能性はない。抑止力仮説を積極的に支持する証拠は見つかっていない」との結論が出ているという。 

 死刑制度を容認した人には、続いて「将来も死刑を廃止しない方がよいと思いますか、それとも、状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよいと思いますか」と問うと、40%の「将来廃止してもよい」に対し「将来も廃止しない」は54%だった。ただ18~29歳の年代だけは、将来廃止が54%と過半数を占めた。将来廃止と答えた人は全体の32%に当たり、「廃止すべきである」の9%を加えると、死刑に否定的な思いを持っている人は、若者を中心に40%を超えているとみることもできる。 

■終身刑を導入した場合、廃止派が35%に

  最初の設問に「死刑は廃止すべきである」と答えた人にも、その理由(複数回答)を聞いている。「裁判に誤りがあったとき、死刑にしてしまうと取り返しがつかない」が51%と最も多く、次いで「生かしておいて罪の償いをさせた方がよい」42%、「死刑を廃止しても、そのために凶悪な犯罪が増加するとは思わない」と「人を殺すことは刑罰であっても人道に反し、野蛮である」がともに32%、「国家であっても人を殺すことは許されない」31%、「凶悪な犯罪を犯した者でも、更生の可能性がある」28%の順となった。

  最後に「現在、死刑の次に重い刑は、一生刑務所に入らなければならない『無期懲役』ですが、仮釈放される場合があります。これに対して、仮釈放される場合がない、いわゆる『終身刑』は、現在の日本にはありません」と書かれた資料を示し、よく読んでもらった上で「もし、仮釈放のない『終身刑』が新たに導入されるならば、死刑を廃止する方がよいと思いますか、それとも、終身刑が導入されても、死刑を廃止しない方がよいと思いますか」と質問。35%の「廃止する方がよい」に対し「廃止しない方がよい」と答えた人は52%だった。 

 「廃止する方がよい」と答えた人の割合を年代別にみると、60代が43%と最も多く、18~29歳、30代、40代、50代は35~37%で、70歳以上が28%と最も低かった。終身刑の導入は、最初の質問で「死刑は廃止すべきである」が8%だった60代には大きく影響するとみられる。一方で「廃止すべきである」との回答者が飛び抜けて多く、容認派のうち将来廃止の人も最も多かった18~29歳にとっては、廃止の大きな動機にはならないようだ。

  この世代が廃止を求める理由は他の世代と異なり、「裁判に誤りがあったとき、死刑にしてしまうと取り返しがつかない」より「生かしておいて罪の償いをさせた方がよい」の方が多かった。それなのに終身刑はそれほど評価していないことから、もしかすると、死刑に対する嫌悪感が非常に強いのかもしれない。やはり「やむを得ない」81%を真に受けてはいけなかった。

死刑廃止のためのキャンドルアクション=2018年10月13日、国会前

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