『書くための文章読本』瀬戸賢一著 文末のスタイルブックを読む

 「日本語の文末は、はっきり言って欠点です」。こう著者は指摘する。どういうことか。

 「です、ます調」で書くときの文尾は「す」になり、「だ、である調」でも文末にはだいたい「る」が来る。過去のことを書くときは「でした」「ました」「だった」のように「た」がほとんどだ。

 言語学者である著者は「文末がそろうと文章が単調に響き、緊張がゆるみ、眠気をさそう」と説く。せっかく書いた文章が「~です。~です。~ます。」「~た。~た。~た。」と続くのは確かに単調。伝える中身が大事であるとしても、やはり見かけや印象を読み手は感じ取るのではないか。

 私たちの日常ではSNSで短い話し言葉が飛び交っているが、それでも学校や仕事では作文、レポート、報告書に依頼状と、文章を書く機会がつきまとう。文末問題、無視できませんゾ(なんて、ちょっと懐かしい感じの文の締め方も本書で例示される)。

 著者が繰り出す解決法を幾つか挙げよう。「です、ます」で連ねる文章の間に「だ、ある調」を挟み込み、「ね」「よ」の終助詞、効果的な引用を文章に施し、「絡み合う」「読み返す」のように動詞を組み合わせる。書く人が主体性を高め、臨場感を伴って思いを記すことも肝心だ。やや専門的な解説もあるが、特段の文法知識がなくてもすぐに使える実用の書だと思う。

 他方で、これまで明解に像を結んでいなかった日本語の文末の豊かさを、次々と見せてくれる読み物としても面白い。幸田文、向田邦子、開高健、井上ひさし、筒井康隆といった名文家の作品が随所で引用されており、いかに文末を粗末にせず、印象深く仕上げているかが分かった。それらは作品のごく一部に過ぎないが、努力の結果か天性か、力みも苦心の跡も残していない。

 書き方書き方指南の本は世にあまたある。大作家の手になる「文章読本」の権威性を鮮やかに解体した斎藤美奈子『文章読本さん江』(ちくま文庫)は、文を「服」に見立てて「服だもん。必要ならば、TPOごとに着替えりゃいいのだ」と喝破した。そうであるならば、本書は「文末のスタイルブック」。あちこちめくって、どうすればこんなに格好良くなれるかなと思いを巡らせる。ああ楽しからずや。

(集英社インターナショナル 840円+税)=杉本新

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