インターネットも使えます 観測隊の通信事情 ぼちぼち南極(9)

 メールやLINE(ライン)、ウェブ閲覧もできます―。インターネット環境がないと、仕事にならないこの時代。昭和基地でも衛星回線を通じたインターネットを使うことができ、まったく便利な世の中になったと感じる。ただし、やっぱり日本にいるときとはずいぶん違う。動画閲覧やライン通話などは禁止だ。できるのは、テキストや軽い添付ファイルの送信。この記事と写真も、昭和基地のインターネットを使っている。観測隊の通信事情を報告する。(気象予報士、共同通信=川村敦)

無線を使って会話をする第61次南極観測隊員=1月29日、昭和基地(共同)

 ▽「しらせ」はメールだけ

 南極観測船「しらせ」の中は、メールの送受信だけが制限付きでできた。インターネットは使えない。隊員は、船内でのみ使えるメールアドレスを割り当てられ、30分に1回だけ送受信ができる仕組みだった。加えて、メール1通につき1MBまで、原則として月に10MBまでという制約があった。記者もこれを使い、東京の本社や家族、友人とやりとりした。

 原稿はいいとしても、デジカメで撮った写真の画像サイズは1MBをゆうに超える。出発前、どうしたものかと思って、第58次観測隊に同行取材した経験を持つ同僚のカメラマン、武隈周防記者に聞いてみた。すると、意外にも500KB~1MBあれば、新聞紙面でそれなりの大きさに使われても問題ないということだった。

 この「ぼちぼち南極」を掲載する47NEWSの編集長も、スマホやパソコンの画面で読む場合は小さいサイズで十分だという。あれっ? 東京で仕事をしているときは、画像を圧縮せずに送っていたが、こんなに小さいサイズでも大丈夫なのか…。いったい、今までどれほどハードディスクを余計に使っていたのだろうか…。

 実際にしらせメールを使ってみると、ヘッダーにもそれなりの容量があるためか、1MBぎりぎりだとはねられてしまった。どうも700KBくらいが限界のようである。それにしても、南極に向かう船の上でもメールが使えるのはありがたいことだった。

インターネットにつながったスマホを手にする第61次南極観測隊の落合哲さ ん。「ぼちぼち南極」のページを表示してもらった=1月14日、昭和基地(共同)

 ▽急ぎの時は、寒風吹く甲板で

 もちろん急いで原稿を送るときには30分に1度などという悠長なことは言っていられない。そのときは衛星を使ってデータ送信ができる「BGAN(ビーギャン)」という装置をパソコンにつないで写真や原稿を送っていた。

 これは観測隊のものではなく、私が会社から借りてきたもの。ノートパソコンと同じようなサイズでちょっと重い。通信速度は遅く、圧縮をかけても写真1枚を送るのに数分はかかる。それでも自分の送りたいタイミングで送ることがきでるので便利だった。

氷のはった海を進む「しらせ」=2016年12月、南極・昭和基地(共同)

 ただ、衛星と通信をする関係上、甲板に出ないと使えない。私はしばしば寒風吹きすさぶ甲板に上がり、寒いのをこらえて写真や原稿を送っていた。メールの受信にも相当の時間がかかり、うっかり重たい添付ファイルの付いたメールを受信すると遅々として進まない。そんなときはうらめしい気持ちでメールソフトのステータスバーをにらんでいた。

 ▽つながらない地獄

 さて昭和基地のインターネット事情である。インターネットが使えるといっても、低速である。第61次隊インターネット担当の佐々木貴美=ささき・たかみ=さん(30)が隊員向けに説明した内容はこうだった。

 動画などのストリーミングは禁止。データ節約モードを使う。基本ソフト(OS)やアプリケーションは自動更新にしてはいけない―。

 というのも、しらせに乗った1カ月、隊員たちのパソコンやスマホはインターネットにつながっていない。その間はもろもろのアプリケーションの更新が止まっているわけだ。それが昭和基地に着いた途端に、みなが一斉に更新を始めると…どうなるかは推して知るべし。

 配布された資料には「YouTubeやニコ動などのインターネット動画視聴は困難ですし、ろくに見られないのに周りの人たちもつながらなくなるという地獄がやってくるのでやめておきましょう」「インターネット接続が可能でもメッセージや写真がちょっと送れるぐらい」とあった。私のように、パソコンに詳しくない人間のために、設定変更のための講習もしらせ船内ではあった。

 実際に昭和基地で使ってみると、確かにさくさくというわけにはいかないが、じっと待てばウェブページの閲覧もできるという感じ。ある日、インターネットのサイトでスピードテストをしてみたら69KBPSだった。実は、ぼちぼち南極のページもしらせに乗っている間はろくろく見る機会がなく、昭和基地に来てようやく見たというところだった。それでもインターネットにつながるというのはありがたく、ちょっとした調べ物をしたり、自社の記事のデータベースを検索したりすることができるのが便利だった。

 佐々木さんによると、昭和基地では約15年前からインターネットが使えるようになった。第61次隊で観測用アンテナの保守・運用担当として越冬する落合哲=おちあい・てつ=さん(29)は昨年11月に結婚したばかり。「インターネットがなかった時代を想像すると、相当恵まれている。妻ともラインでリアルタイムでやりとりできる」と話していた。

 建物内には「Wi―Fi」が飛んでいるので、スマホをつなぐこともできる。メールだけでなくラインでメッセージを送信することも可能だ。試しに家族に、南極ではしゃぐ自分の写真をラインで送ったら「なんか太くなった」「厚着しないと死ぬからでしょ」「日焼けすごそう」などと返ってくるのみで、南極からラインが来ることへの驚きは皆無だった。

昭和基地の通信室で無線機器の操作をする第61次南極観測隊員=1月30日

 ▽「感度ありますか」

 インターネットには接続できるスマホも、当然、電話はできない。広い昭和基地でお互いにやりとりするために、隊員は携帯型の無線機を1人1台渡され、それで音声通話での連絡をしている。

 日中は多くの人が働いているため、ひっきりなしに無線で誰かと誰かがしゃべっている。通話は片側ずつなので、やりとりは「昭和通信、昭和通信、こちら川村です。感度ありますか、どうぞ」「はい、聞こえます。どうぞ」といった調子である。

 ちょっとかっこいいのでいろいろ話したくなるが、酔っぱらって演説するとか、うっかり変なことを言ってはいけない。全員に聞こえている。

観測隊の活動|南極観測のホームページ|国立極地研究所

https://www.nipr.ac.jp/jare/activity/

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