WRC参戦経験あるパッドン、ヒュンダイ・ベースの独自開発EVラリーカー・プロジェクトは「完成間近」

 ニュージーランド出身でWRC世界ラリー選手権へ参戦経験もあるヘイデン・パッドンが開発に従事していたヒュンダイ・コナをベースとしたEVラリーカーが2020年初旬にも完成することが明らかとなった。

 ヒュンダイ陣営の一員としてWRCを戦った経験のあるパッドンは、2019年8月にEVラリーカー製作プロジェクトを発表。それ以降は自身のSNSなどを通じてプロジェクトの進捗状況を発信してきた。

 2017年に登場したヒュンダイ製コンパクト・クロスオーバーSUV『コナ』をベースに、自身が率いるパッドン・ラリーグループ(PSG)が開発を進めてきたEVラリーカーは、2020年5月に完成予定。その後、年度後半は開発テストを重ねて、2021年にも地元ニュージーランドの国内ラリー選手権に参戦する計画を立てている。

 マシンの設計・開発ともに、ニュージーランド南島のクロムウェルを拠点とする自社で担当し、その電動パワートレインには、WorldRX世界ラリークロス選手権の電動クラス、プロジェクトE向けに共通キット供給を進める、オーストリアSTARD社製ユニットを採用する。

 この動きに伴い、パッドンは昨年にも、元WRCドライバーのマンフレッド・ストール率いるSTARD社製の、EVラリークロスカーでテストドライブも行っている。

 電動レースカテゴリー専門サイト『e-racing365.com』に、「このマーケットには、まだ大きなギャップが存在すると思っているんだ。ラリーは僕の情熱と信念の中枢を成していて、明らかに僕のモチベーションの根底にあるものなんだ」と語ったパッドン。

「ラリーの競技環境で、この技術にふさわしいソリューションを見つけようと努力しているが、これまでのところはまだうまくいっていない。ここ最近、他のあらゆるカテゴリーでEVテクノロジーが見受けられるけど、ラリーはそれが不足している分野の筆頭だ」

「ラリー競技の形態とスポーツとしての伝統は、その長距離に及ぶマイレージや遠隔性を理由に、EVには適さないとする見方もある。アクシデント時の安全性に言及する人もいるしね。だからこそ、そうした疑問を解消するためのプロセスを進めているんだ」

「EV選手権のためのEVラリーカーではなく、本物の競技で内燃機関のマシンを相手に戦えるマシンを目指している」と語るヘイデン・パッドン(左)
韓国や北米市場に投入され、EVグレードも設定される『ヒュンダイ・コナ』がベースに

「もちろん、明確な課題はいくつもあるけれど、ニュージーランドの環境は絶好の機会を提供してくれる。もう少しだけルールをオープンにし、イベントをコンパクトにできれば、課題に正面から取り組む優れたテストベッドになる。その競技環境にマシンを投じて、実際に技術開発を続けていきたいんだ」

 2021年のニュージーランド国内ラリー選手権での実戦デビューに先立ち、同選手権で四冠を誇るパッドンは、2020年後半にもデモンストレーション的な競技参加を考えているという。

 パッドンは「今年はいくつかの短い形式でのイベント参加を計画している。WRCニュージーランド戦でも、複数のショートステージでデモランを実施し、そのパフォーマンスを披露する予定でいるんだ」と明かしている。

「そうした2、3の短いイベント参加で実績を重ねたら、2021年にはチャンピオンシップに参加することを考えているよ。EV選手権のためのEVラリーカーではなく、本物の競技で内燃機関のマシンを相手に戦えるマシンを目指しているんだ」

 将来的にはこのプロジェクトを通じて、パッドンが愛してやまないモータースポーツ分野、つまりラリーでの電化推進に尽力していきたいとの希望も語った。

「現時点では、ニュージーランド国内での最適化に集中していて、このEV技術をどのように拡張できるのかについて、この地域から世界に対してガイドラインを示したいと思っている。だから、地元のASN(自動車連盟)や大会主催者などとも緊密に連携を図っているんだ」

「もちろんSTARDと協力関係を築くことで、僕たちもFIAのガイドラインを充分に認識しているし、今年5月にクルマが走り出せば、彼らにもさらに容易に何ができて、何ができないかの説明が可能になると思う」

「このEV技術をラリーに取り込むプロセスをさらにスピードアップするために、世界中の関係機関と協力していきたいと考えている」

2019年10月には、STARDの本拠地オーストリアに飛び、彼らのEV RXカーのステアリングも握った
シェイダウンは5月を予定。2020年は開発テストと散発的なイベント参加を目論む

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