給与の手取り計算方法を解説。どんなものが天引きされているの?

「アルバイトで思ったより給与がもらえなかった」「給与は額面より減るから、手取り計算をちゃんとするんだよと先輩に言われた」など、給与の仕組みについてよく分からず不安に思っている人はいるでしょうか。本記事では、「手取りと額面って何?」「源泉徴収って何?」といった基礎的な知識について解説します。給与には何が追加されて何が減らされるのか、項目ごとに見ていきましょう。

手取り金額が簡単に計算できるサイト

給与を入力すると、大まかな手取り金額を計算してくれるサイトがいくつかあります。それらを利用して給与の「額面」と「手取り」の差をイメージすることができます。

入力した情報はサーバに保存される可能性がありますので、ご留意ください。また、社会保険料に関しては標準報酬月額を知っておく必要があります。これらについては下記で解説します。

参考

給与手取り計算│イージー給料計算

給料手取り計算【平成31年3月改正版】│ヒューマンバリュー

おおもとの給与と手取りが違う理由は?もらえるお金

「どうして額面と手取りの給与が違うの?」「残業代を含めても少ない気がするんだけど……」と疑問に思う人もいるかもしれません。天引きされる金額が最も気になるところでしょうが、まずはもらえる金額について知りましょう。

基本給

給与の「額面」と言われるものが基本給です。求人情報などに「月給20万円〜」と記載されている場合は、その金額が基本給になることが殆どです。ごく稀に異なるケースもありますので、実際に採用されて入社する場合にはきちんと確認しておきましょう。

通勤手当

一部の場合を除き、会社員には通勤手当が支給されます。いわゆる交通費です。定期代をそのまま支給するというところが多いでしょう。

残業手当

残業をした場合は、残業手当が支給されます。みなし残業制をとっている会社などでは、一定時間数の残業手当は基本給に含まれています。

資格手当

業務に関係する資格を持っている人に、資格手当を支給する会社もあります。資格の種類に応じて一律月額いくら、という支給の仕方が一般的なようです。

役職手当

管理職・役員など、一定の役職に就いている人に支給される手当です。このような手当を出さずに基本給を上げる会社もあります。

家族・住宅手当

扶養家族がいる場合などに家族手当を出す会社もあります。住宅手当は会社によってさまざまで、支給額が多いケースだと家賃のほぼ全額を負担してもらえることもあります。

会社によっては、「オフィスから○駅以内」という条件に該当する場合に住宅手当を支給することもあります。職住近接を図り、仕事の効率化を進めるのが狙いです。

参考

会社の「2駅ルール」で起こる現象 思わぬ効果も |AERA dot.

立て替え経費など

「取引先に持っていくお土産を買った」「会議でお茶が足りなかったので、急遽コンビニで買い足した」など、会社の経費になるものを私費で立て替える場合があります。

これらの精算方法は会社によって異なりますが、給与と一緒にまとめて振り込むという方法をとるところもあります。先に支払ってあとから返してもらう形になるので、受け取る側の感覚的には通勤手当と似ているでしょう。

このように、給与と一緒に振り込まれるお金は何種類かあります。これらを合計した上に、次からの項目で解説する社会保険料・税金などを引いた額が手取り金額になります。

支給額から引かれる社会保険料

社会保険料は、給与の額面や扶養のある・なしによって異なります。だいたいの計算方法を知っておきましょう。

雇用保険

失業すると、「失業保険」がもらえることを知っている人は多いでしょう。この失業保険をもらえるのは、雇用保険に加入している人です。学生であったり、週の労働時間が所定の時間を下回っていたりする人は加入できませんが、フルタイムで働く被雇用者は必ず加入しなければならないものです。

雇用保険は、非常に保険料率が低い保険です。一般的な事業の場合、給与の1,000分の9が保険料として定められています。このうち、会社と従業員の負担はそれぞれ6:3の割合となっています。

ちなみに、従業員負担が全くない保険として「労災保険」があります。過労死などに「労災認定」がされるニュースを見たことはあるでしょうか。これは仕事中、もしくは通勤中に起因する事故や病気などを「労働災害」と認定し、保証するための保険です。労災保険は、全額を会社が負担することになっています。労災保険と雇用保険を合わせて「労働保険」と呼ぶことがあります。

参考

雇用保険料率について |厚生労働省

労務担当者が知るべき「雇用保険」の基礎知識。加入条件、手続き方法は? | SmartHR Mag.

労働保険料の計算方法 | 大阪労働局

健康保険

病院を受診するときに持っていく健康保険証の健康保険です。健康保険料は「標準報酬月額」というものに基づいて算出されます。

「標準報酬月額」は、50等級に分かれています。例えば1等級は58,000円、50等級は1,390,000円です。この金額に保険料率を掛けて保険料が算出されます。保険料は都道府県ごと、もしくは加入している保険組合ごとに異なります。協会けんぽに加入している場合は、おおよそ標準報酬月額の10%前後が保険料になると考えておきましょう。

標準報酬月額は、各従業員への支払額に基づいて算出されます。給与の額面だけでなく、前項で解説した手当なども含みます。例えば給与が20万円あり、通勤手当や住宅手当などが5万円ある人は、25万円の支払いがあることになります。

また、オフィスに無料で利用できる社員食堂があったり、会社が負担するおやつタイムがあったりする場合は、それらも標準報酬月額に含まれます。実費にするといくらくらいになるかを算出し、「現物支給」として標準報酬月額に加えます。

標準報酬月額は、毎年4・5・6月の報酬月額を平均して算出します。そのため、3・4・5月に残業をたくさんしてしまうと4・5・6月の報酬月額が上がり、健康保険料が1年間高くなるという仕組みになっています。

時短勤務への切り替えなどで支払額が大幅に減った場合は、標準報酬月額が改定されます。ただし、この場合も3ヶ月の支払いが終わったあとに算出されますので、それまでの間はもとの高い保険料が天引きされます。

法律では、健康保険料は会社と従業員で折半することになっています。ただし、会社が全額支払うことも違法ではないので、一部の大企業などでは福利厚生の一環として全額負担していることがあります。

参考

平成31年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表 | 全国健康保険協会

平成31年度保険料額表(平成31年4月分から) | 全国健康保険協会

厚生年金保険料を決める基準「標準報酬月額」って何?どうやって計算されているの? | ファイナンシャルフィールド

標準報酬月額・標準賞与額とは? | 全国健康保険協会

社会保険料の会社全額負担について | 質問!ITmedia

厚生年金

厚生年金も、社会保険と一緒に天引きされます。社会保険と同様、標準報酬月額に基づいて料率が決定されます。金額は標準報酬月額のおおよそ18%前後で、会社と従業員で折半して支払います。

介護保険

介護保険は40歳から加入する必要がある保険です。40歳以上の要介護認定された人は、介護保険でさまざまなサービスを受けることができます。

介護保険料も、社会保険の標準報酬月額をもとに算出されます。加入している保険組合や自治体によって料率が異なることがありますが、おおよそ標準報酬月額の2%前後の保険料を会社と折半します。

ここまでが、標準報酬月額に基づいて天引きされる社会保険料です。

  • 標準報酬月額は額面給与と異なる
  • 社会保険料は標準報酬月額のおおよそ30%くらい
  • 従業員本人の負担額はその半分の15%くらい

手取り計算の際には、これらのことを覚えておきましょう。

参考

40歳、65歳になったとき(介護保険制度について)|東京電子機械工業健康保険組合

支給額から引かれる税金

続いては、税金関係です。2020年1月現在、給与から天引きされる税金には、所得税と住民税があります。

所得税

企業は、給与や報酬を継続的に支払う相手がいる場合、所得税を源泉徴収しなければならないことになっています。所得税の源泉徴収は、その人が「甲・乙・丙」のうちどれに該当するかで金額が変わります。

甲欄に該当するのは、一般的な給与所得者です。1つの会社にフルタイムで勤めていて、収入の大半をその会社から得ている人です。このような人は、会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しています。

甲欄の従業員は、扶養家族などを勘案して源泉税額が決まりますので、扶養人数が多ければ多いほど源泉徴収される税額が少なくなります。また、甲欄の従業員はその会社で年末調整をしてもらうことになります。

乙欄に該当するのは、2ヶ所以上から給与所得を得ており、かつ別の会社で年末調整をしてもらう人です。この場合、会社は扶養控除をせず、国が決めた税額表に基づいて源泉徴収を行います。甲欄の人と同じ金額の給与の支払いを受けている場合、乙欄の人の方が源泉徴収される税額が多くなることが殆どです。

丙欄に該当するのは、日雇労働者などです。イベントなどで雇用される短期アルバイトもこれに含まれます。丙欄の人は、月額ではなく日額で給与が支払われますから、源泉徴収も日額表という別の表に基づいて行われます。

いずれの場合も、源泉徴収される税額は支払額に基づいて大幅に変わります。詳しくは下記の参考リンクより、国税庁が発表している税額表を参照してください。一例を挙げると、社会保険料の自己負担額を差し引いたあとの給与額が170,000円の人だと、甲欄の場合は3,700円、乙欄の場合は11,700円が源泉徴収されます。

参考

給与所得の源泉徴収税額表(平成31年(2019年)分)|国税庁, p.2

平成31年(2019年)分 源泉徴収税額表|国税庁

住民税

「昔は住民税を自分で払っていたのに、会社から源泉徴収されるようになってしまった」と不満を持っている人もいるかもしれません。実は、昔から住民税も源泉徴収しなければならなかったのですが、国税と異なり制度が徹底されていませんでした。

近年、関東の都道府県などが中心となって重点的に源泉徴収を勧めています。住民税の源泉徴収のことを「特別徴収」と呼ぶこともあります。

住民税額は、住んでいる自治体によって異なります。夕張市など、危機的財政状況にある自治体は高額になることがあります。そのほかの自治体では、おおよそ給与の10%ほどというところが多いようです。

参考

個人住民税の特別徴収推進ステーション| 東京都主税局

個人住民税の特別徴収(給与天引き)について | 茨城県

個人住民税均等割税額の加算について(平成29年4月1日改正) | 夕張市

12・1月の給与はちょっと違う!年末調整

先ほど所得税の源泉徴収について解説する際に、「年末調整」について触れました。年末調整とは、1年間に源泉徴収した税額を再計算し、取りすぎていた分を従業員に還付したり、逆に少なかった分を徴収したりする作業です。これは、企業が行います。

所得税の税額は、収入と扶養人数だけで決まるわけではありません。さまざまな支出が控除対象となり、その支出分税額が減ります。

会社が把握できている支出で控除対象となるものには、社会保険料が挙げられます。個人で加入する生命保険・個人年金、地震保険などの保険も控除の対象になります。また、基準を満たす住宅ローンを支払っている人も控除されます。そのほかにも、認定NPOや政党などへの寄付金が控除対象です。

これらは書類がないと会社が把握できませんので、甲欄の人は、各領収書などを集めて11月から12月の間に会社に提出します。これらの情報に基づいて、会社は年末調整を行います。

保険に加入していたり、住宅ローンがあったりする人は税金が還付されるケースが大半です。多くの企業では、還付金を給与と一緒に支払います。還付時期は、12月か1月になることが殆どでしょう。そのため、年末年始の手取り金額は普段よりも多くなることがあります。

参考

いつもらえるの?年末調整で還付金がもらえる人とは | マイナビニュース

年末調整がよくわかるページ|国税庁

まとめ

「いろいろ引いたり足されたりしていそうなんだけど、いまいちよく分からない!」。そんな給与の手取り計算について、どのようなものが足されたり引かれたりされるのかを解説しました。具体的な金額は収入や家庭の状況によって変わりますし、年によって変更されるものもあります。詳しくは、国や保険組合のページを参照してください。

参考

手取りの意味と月給・年収の額面から手取りを計算する方法 |doda

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