​​タイの様式美を学び、それを作品に生かす。キングモンクット工科大学から学べるタイ・デザインの世界

バンコクから少し離れたところにあるキングモンクット工科大学は、「建築」「インテリア建築」「工業デザイン」「コミュニケーションデザイン」の4コースがあり、1〜5年生の学年に応じて学べます。では実際にどんな大学なのか、筆者が見学してきました。

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バンコク市内から車で1時間

キングモンクット工科大学(School of Archtecture and Design KMUTT、以下「SoA+D」)は、タイ国内に4つの校舎をもつ大学で、そのうち今回訪れたトンブリ校は市内から車で1時間ほどのところに位置します。

電車(BTSやMRT)は近接しておらず、都市の喧騒から少し離れており、近隣は田園や沼地や林を有する長閑なエリア。学生寮も併設されており、ここに集う学生を広く受け入れています。「建築」の学び舎だけあって、外観内観ともに美しさを讃えています。

それでは、出迎えてくださったエチューダーの先生とともに、さっそく中に入ってみましょう。

1年生からアウトプットのイロハを学び、課題に集中

まずは1年生のクラスにお邪魔してみましょう。SoA+Dに通う学生は、語学とプレゼンテーションの試験のほか、入学時にポートフォリオの提出があるため、すべての学生が大学に入る前からアートを学んできています。素地がある状態からスタートして、将来学年が進んで建築やデザインを本格的に学び、論じ合うためにさまざまなカリキュラムが組まれています。

課題のすべてに主体性が要求され、アウトプットフォーカスの姿勢をもとめられます。作成する課題にも、入学当初の1年生から取り組みます。現在こちらの学校には、日本国籍の学生は1名(留学生を除く)在籍ということで、該当の学生さんがつくったものを見せてもらいました。

タイの様式美を学び、作品に生かす

タイの建築には、建物の様式と装飾にユニークなパターンが見られます。南国らしい風通しのよい木造建築、寺院などに見られる装飾のモチーフなどがあり、1つ1つの様式美の成立を座学で学ぶとともに、実際にそのモチーフを素材として選択し、作品に踏襲します。

たとえ素材やモチーフがそれぞれありふれたものであったとしても、組み合わせや様式の解釈によっては表出するものに違いが生まれるということを、伝統文化を知ることによって体得していく授業が、1年生のときにもたれています。

世界で活躍する日本人作家の講師から直接学べる

SoA+Dの教授陣には、日本人の先生もいます。西堀隆史(Takashi Nishibori)さんはタイ在住で、ここで教壇に立ちながら住宅や店舗、イベントなどのデザインを手掛け、アジアを中心に幅広い分野で活躍されている作家でもあります。

西堀さんの作品には竹が多く使われていますが、タイでも日本同様に日常品として竹製品が使われており、学生にとっても親和性の高い素材でもあるのでしょう(写真は学生の作品)。

自由な創作活動が行われるアトリエ

入学時に語学の試験のほかにポートフォリオの提出があるのは前述のとおりですが、筆者は学年が進むにしたがって学生の作品やテーマ、モチーフはそれぞれの個性を発揮した自由さにあふれていく印象をもちました。中にはタイの政治家に対するリベラルな視点を作品に反映しているものもありました。

読者の皆さんの目にはどのように映るでしょうか。デザイン科の4年生の作品を見てみましょう。

人とのコミュニケーションを大切に。共同制作やインタビューをもとにした作品制作が頻繁に行われている

こと建築に関しては、実際に建物を建てる際に対人でのコミュニケーションは非常に大切な要素です。SoA+Dではさまざまなカリキュラムでこれらを具現化し、作品に踏襲する取り組みがなされています。

一例としては身近な人にインタビューをして、その人がかつて暮らした家や現在住んでいる家、そしてそれまでの指向性や生来の生育環境などさまざまな要素を分析。そして当事者とディスカッションをし、その人にとっての理想の家を設計するという授業があり、その成果物の展示がありました。

価値観やコンセプトについて徹底的に評論しあう文化

卒年次の建築科学生のアトリエは、さまざまな学生生活の戦果が見て取れます。プレゼンテーションしたものに対して、教授から徹底的にディスカッションがあったのでしょう。ポストイットがたくさん貼ってあるボードの前で、筆者は思わず立ち尽くしました。内容はほとんどが辛口の評論で埋め尽くされていたからです。

日本人の私自身にとっては、企業ではこのようなディベートが行われていることは見知っていたものの、教育の現場としてはカルチャーショックでした。しかグローバルな視点で考えたら、一般的なことなのかもしれません。ここでの学びを通じて、社会にはばたくたくましい人材の姿を想像できました。

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