イノマーさんありがとうございました!【癌発覚から息を引き取るまでの濃密な時間を共に過ごしたレーベル担当が綴るガン奮闘記】

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イノマーさんありがとうございました!

TEXT:丸山恵理(LOFT PROJECT)

PHOTO:たたみ/ シガテルミ/ 白澤由依/ 丸山恵理(LOFT PROJECT)

性春パンクバンド、「オナニーマシーン」ボーカル・イノマー。2019年12月19日2:50永眠。享年53歳。

「恋のABC」をはじめ全7タイトルのCDをLOFT RECORDSよりリリース、癌発覚後はRooftopにて『イノマーの「自慰伝」』の連載…と最後まで親交がありました。

これは、癌発覚から息を引き取るまでの濃密な時間を共に過ごしたレーベル担当が綴るイノマーさんのガン奮闘記です。

口腔底ガン発覚〜オナマシとロフト〜

「舌の癌だった。9月に手術になるから、それまでに今、予定してるスケジュールを組み直させて欲しい。これからのこと、いろいろ相談しないといけないと思って家族よりも先にロフトに連絡したんだ」

イノマーさんが癌宣告され、一番に連絡をもらったのが奇しくも私でした。

オナニーマシーン20周年記念アルバムリリースの話が進んでいたのは2018年春頃から。オナマシとロフト、実は付き合いは古く、LOFT RECORDS内レーベルTIGER HOLEからリリースしたアーティストで一番売れていたのはオナマシなのです。オナマシの代表作『恋のABC』もLOFT RECORDSから発売されており、結成20年の節目の作品ということで、この話が進んでいた矢先の連絡でした。

8、9月でレコーディングとMV撮影、遅くても10月中旬頃までには完成させたいね、なんて話をしていたところを全部8月中に終わらせる。普通に超ハードスケジュールになるのは目に見えていて、しかもそれをこなすのが癌患者。

それでもイノマーさんに”やらない”という選択肢は全く無く、変則的な進行になっても、どう進めていくのが最善かを考えていました。

「死ぬ気でやろうとしてる人には、こっちも死ぬ気でサポートしよう」

上司に言われたこの一言から、私のオナマシ担当が始まった気がします。

手術までの1ヶ月〜レコーディング、通院、マジックミラー号〜

それからは怒涛の日々が過ぎていきました。

とりあえずイノマーさんのパートを録りきらないといけない。従来の進行であればドラム→ベース→ギター→ボーカルの順番でいくところを、ベース、ボーカルを先に録るという超変則的な進行になりました。しかもその間にMV撮影の為に温泉に行ったり、マジックミラー号に乗ったり、女装したり…。

それに加えて通院もあり、健康な人でも本当にハードスケジュール。

それでも手術前のラストライブでは疲れなんて全く見せず、本当に、「かっこいいイノマー」を全力で見せてくれました。

オナニーって叫んでる人がこんなにかっこいいと思う日が来るなんて、ましてや裸のおじさんたちがぐちゃぐちゃになってる姿がこんなにかっこいいって。今でもよくわかりませんが、この日のオナマシは本当にかっこよかったんです。かっこいいってこういうことだと思いました。

10時間もの大手術〜食べる、歌うのリハビリ〜

そんな激動の1ヶ月を経て、入院当日。

ガン宣告された時、「これを笑いに変えないとイノマーじゃない」 そう言ったイノマーさんにはとことん付き合おうと、入院も一緒に行きました。

そして手術当日。いつも遅刻してくるオノチンさんが私より先に来ていました。

家族、メンバーに見送られて手術へ。10時間もの大手術も無事成功しました。

手術後、初めて会った時の印象は、「何を言ってるかわかる!」 口に食べ物が入っててもごもご喋ってるような感じで、思っていたよりも全然会話ができる、そんな印象でした。

そこからのリハビリも凄まじく、手術後にあったご飯を食べるテスト(舌がなくなると飲み込むのが困難になるそうです)も一発合格。

病院で誰も来ないところを探して歌う練習をしたり。

「誰も来ないし、大声出しても聞こえない良い場所見つけたんだ」って言ってたけど、後から聞いた話、看護婦さんたちにはバレバレだったそうです。

他パートのレコーディングは入院中だったので外出届を出してスタジオへ行った時は、21:00消灯の病院なのに、戻りの時間を24:00と書いて怒られたと笑っていました。

退院当日にマスタリング。車で迎えに行き、直接スタジオに向かいました。

そんな癌患者らしからぬ生活の甲斐もあって、20周年記念アルバム『オナニー・グラフィティ』は無事完成。12月5日に発売することができました。

オナマシ第二形態スタート〜舌のないボーカル〜

手術後の初ライブは2019年2月「オナニーグラフィティ♪レコ発ツアー2019~BAKA IS NOT DEAD!!」でした。

大阪、東京公演と正直周りのスタッフ、メンバーはもちろん、何よりイノマーさん本人が不安いっぱいで迎えたライブ当日。

でも、そこにそんな不安を感じていたのもアホらしくなるぐらい、いつものオナマシがステージにいました。何を言ってるかわからないところもあるけど、でもオナニーだけははっきり発音してる、少し細くなっちゃったけどそれ以外はなにも変わらず全力でバカやってるイノマーさん。やっぱりグチャグチャだけど最高にかっこいい。そんなライブを見せつけてくれました。

その後も4月には新宿ロフトの20周年記念イベント、5月には念願の童貞たちのクリスマス・イヴを無事開催。

そろそろベスト盤の制作も具体的に進めていかなくちゃね、10月のティッシュタイムフェスで発売しよう。打ち合わせの日程も決めなきゃね、と話していました。

再発&転移発覚 おさるのパンクはほぼ未完成...

癌の再発&転移が見つかったとの連絡が入りました。

「完治を目指すのではなく延命になる」 主治医からはそう言われたそうです。

この時、具体的に決まっていたのは、ライブは7月、9月のティッシュタイム 公演、10月豊洲PITで行なわれるティッシュタイム フェス。

ベスト盤の制作に関して、完成してるのはCD音源のみ。

でも誰もイノマーさんがやらないと言わない限り中止とは思いませんでした。

短い付き合いの私でさえ、「ここからどうするのがベストか」。そう考える他に選択肢がありませんでした。

しかし、ベスト盤のタイトルも決まってなければ、それに入れるBOOKの内容も白紙。イノマー編集長はできる限り治療に専念してもらわないといけない。

それでもイノマーさんのやりたいことは最優先させたい。

本当に矛盾ばかりですが、“イノマーさんの為になんとかしたい”という人が周りには驚くほどいっぱいいるおかげで、心強いライター、デザイナーと共に怒涛の制作が始まりました。

病院に通っての原稿チェック。

ちょっとでも時間を有効に使えるように入退院時も同行して、しんどくない時間を見計らって進める。この頃はレーベルの仕事っていうより、もはやヘルパーに近かったのではないかと思います。

あと、ここからはただの愚痴。

シンプルでいいって言ってたデザインは段々派手になっていくし、タイトルの文字にもこだわりだすし、チェックも期日までに返事がこないし...。

その上、イノマーさんの原稿のページ数を体調考慮して少なめに設定し、それを伝えたら、「そんなに少なくていいの」って言うから増やしたら、「まぁまだ何も書いてないんだけどね」とか言い出すし...。

でも何より大変だったのはBOOK入稿当日、データチェックをしてもらい無事全工程終了! かと思いきや、業者から連絡が。

「データには問題ないのですが...内容にちょっと問題がありまして。こちらの内容ですと、うちではアダルトに分類される為、製作することができません」と。

本当にこの時がオナマシに携わってきて一番“大変だったこと”だと思います。

その後、皆さんのご協力でなんとか業者も見つかり、無事「おさるのパンク」を完成することができました。

そしてついに迎えた10月22日。

この時は顔がパンパンに腫れて、前よりもっと痩せちゃって、立っているのもやっとなイノマーさんがベースを持って歌っていました。

何を言ってるかよくわからないところもあるけど、それでもはっきり聞こえる、「オナニー」の声。3,000人のオナニーコールが鳴り響く会場でイノマーさんは本当に嬉しそうに笑っていました。イノマーさんに携わってこられて本当に良かったと思う瞬間でした。

危篤騒動〜たくさんの奇跡〜

豊洲PITでの公演から1ヶ月。

抗がん剤治療で定期入院からの翌日退院、ということで誕生日も近いしお祝いも兼ねてお迎えに行こう。じゃあ明日、9:00頃行きますね。なんて連絡をしていました。

そんな夜、危篤の連絡が。

23:00頃、イノマーさん危篤。

病院に駆けつける。意識はなかったけど声をかけると手を少し握り返してくれた。

オナマシ関係者がみんな徐々に集まり声を掛ける。血圧は安定していたけど段々反応は薄くなっていった。

それから何時間か経ち、峯田さんが到着。

声をかけると意識は昏睡していたようだが、声のほうに反応して峯田さんに抱きつく。ベッドから落ちそうになる。それから数時間、ずっと手を握って側についててくれた。

地方にいたオノチンさんが危篤連絡から5時間後に到着。

10人以上の人が集まり、イノマーさんをただただ見守る。

変化を知らせる心電図の音がとても不安を煽る。

朝になりバンドマン、元同僚、友達、スタッフ、たくさんの人たちが入れ替わりやって来る。

主治医の先生から「今週末が山です」との話がある。容態は安定しているものの、意識は戻らず。

でも綺麗な女の人が呼びかけると血圧が上がった。

23:00頃、STANCE PUNKSのTSURUさんが駆けつける。

声をかけるとなんと20時間ぶりに意識を取り戻す。問いかけに目線で反応している。まさに鶴の一声だった。

それから徐々に意思表示ができるようになる。オムツが嫌だとか、靴下が嫌だとか、おしっこがしたいとか。(あれだけオムツ履いてたのにリアルオムツは嫌なんだなぁ)

看護師さんの問いかけにしっかり反応、名前と生年月日も答えられるように。三途の川が見えたらしい。

朝になり、ホワイトボードに文字を書く。

「お茶が飲みたい」

危篤から約42時間後には自分で歩いてトイレに行った。

看護師さんに、「今日は付き添いの方、誰が泊まりますか?」と聞かれて、「はーい」と真っ先にイノマーさんが手をあげる。「猪股さんは泊まってもらわないと困りますねー」と看護師さん。

徐々に回復していき、アイスも食べられるようになった。

ほんとはシャーベットが食べたいって言ってたけど、近くに売ってなくてアイスの実を潰して手作りシャーベットに。これがなんでか気に入って、最後まで毎日食べていたとか。

そしてまさかのRooftop原稿もやり遂げた。

きっと本誌で危篤後に原稿書き上げたのはイノマーさんだけじゃないかと思う。

危篤騒動後、お見舞いに来たのは50人以上。

ベテラン看護師さんも、「こんなにお見舞いの人が来た人は初めてですよ! 前代未聞!」と言っていた。

27日、約3週間ぶりに退院。イノマーさん53歳の誕生日だった。

楽しい葬式〜笑いあり、涙あり、オナニーコールあり〜

12月19日2:50 、イノマーさんが息を引き取りました。

江頭2:50…本当にどこまで笑いに変えるのか...。

葬儀当日、会場にはイノマーさんの家にあるものがそのままやって来ていました。

楽器、CD、原稿、雑誌、写真、洋服、イラスト、TENGA。

病院と同じ。短期間の入院でも大きなカバンいっぱい持ってすぐにその場を自分の空間にしていたイノマーさんだから、最期に過ごす場所も落ち着いた空間になりましたね。

遺影にはTENGA VOICE取材時に撮影した写真が使われました。

満面の笑顔のイノマーさんの写真がそこにはあって、不思議なもので再発がわかってからは浮腫みで顔がパンパンだったり、食べれなくて痩せこけちゃったりでいろんな顔になってたのに思い出すイノマーさんの顔はすっかりその顔になっていました。

葬儀にはちゃんと遅刻してきて「すいません、遅れましたー!」と大声のオノチンさん。

祭壇を見るなり「これ前にやったMV撮影のセットにそっくりですね!」と話すオノチンさん。

「性春昌幸信士」の戒名をつけたお坊さんは涙まじりに戒名の意味を伝えてくれました。

そしてお別れの時。

お花とティッシュでパンパンになった棺。

棺に蓋がされ、出棺。その時、流れたのがオナマシのSEであるプリンセス プリンセスの「19 GROWING UP」でした。

それまでみんなのすすり泣く声が聞こえてきたのに、一気に笑い声に変わる。オノチンさんが「オナニー」と叫び、他の人も「オナニー」の声が飛び交う。オナニーマシーンのライブが始まる前みたいに。

イノマーさんがこれから向こうで盛大なライブができるように。

丸山 恵理(LOFT RECORDS)

イノマーさん

私はイノマーさんから本当にたくさんのことを教えて貰いました。

やり抜くことの格好良さ。死ぬ気でやればなんとかなる。

最後まで全力で駆け抜けた、イノマーさんの起こした奇跡の数々一生忘れません。

今まで本当にありがとうございました。

心より御冥福をお祈りいたします。

丸山 恵理(LOFT RECORDS)

若宮寺副住職 登坂尚高

「性春昌幸信士という戒名について」

"性"は命、生きることを表し、"春"は男女の愛を表しております。

"昌"は故猪股昌也さんの昌という字を使いました。栄える、という意味があります。

"幸"は読んで字の如くです。

オナニーマシーンというバンドで20年間異性への愛と生きることを歌い続け、命をギリギリまで燃やしステージに立ち続けた姿を、僕は絶対に忘れません。

更に僕や誰かをも肯定し続けてくれたオナマシの数々の音源。笑っちゃうけどなんだか泣けてくるLIVE。またイノマーさんが編集長を務めた「STREET ROCK FILE」では数々のバンドを知ることができました。

音楽という幸せをたくさん広めてくださったこと。

イノマーさんは性春そのものであったし、きっと誰かにとっても性春であったと思います。

『パンクイズノットデッド』

イノマーさんは心の中で生きています。

そういった意味合いを込めて"性春昌幸信士"という戒名を付けさせていただきました。

若宮寺副住職

登坂尚高

イノマー癌闘病年表

2018年

7月

21日 イノマー、口腔底ガン公表

8月

11、12日 ベスト盤スタジオレコーディング

14日〜16日 スタジオ曲作り

17日 MV撮影

19日 MV撮影

20日、21日 オナニー・グラフィティ、レコーディング

23日 TENGA取材、MV撮影

25日 緊急無料!ティッシュタイム~〝イノマー現形態〟ラストライブ『GOD SAVE THE INOMAR』@渋谷Lamama

26日 MV撮影

27日〜29日 オナニー・グラフィティ、レコーディング

30日 MV撮影

9月

3日 入院

5日 手術で舌を切除

10月

1日 退院

2日〜4日 オナニー・グラフィティ、レコーディング

15日、16日 ミックス

17日 入院

23日 退院&マスタリング

11月

5日 雑誌対談

20日 TENGA Voice公開

22日 Rooftop表紙撮影

12月

5日 20周年記念アルバム『オナニー・グラフィティ』リリース

18日 月刊SOD発売 江頭2:50対談掲載

22日 『~イノマー&ミネタの~「クリスマスショー」』@渋谷La.mama

28日 雑誌撮影

2019年

1月

23日 TOKYO GRAFFITI発売

2月

5日 雑誌撮影

10日 『オナニーグラフィティ♪レコ発ツアー2019~BAKA IS NOT DEAD!!』@十三FANDANGO w / ガガガSP O.A THE NUGGETS

15日 『オナニーグラフィティ♪レコ発ツアー2019~BAKA IS NOT DEAD!!』新宿LOFT w / 三人ピーズ、峯田和伸

23日 クイックジャパン発売 山口隆(サンボマスター)対談

4月

24日 『SHINJUKU LOFT KABUKI-CHO 20TH ANNIVERSARY loft day』@新宿LOFT

5月

25日 『イノマー&ミネタpresents 〜童貞たちのクリスマスイブ2019年春〜』

〜集まれ!令和のチェリー・ボーイズ!〜@渋谷La.mama w / 銀杏BOYZ

7月

6日 口腔底ガン再発、転移を公表

19日 『ティッシュタイム 』@渋谷La.mama w/四星球

9月

28日 『ティッシュタイム66』@渋谷La.mama w / Hump Back

10月

22日 〈オナマシ 周年記念特別企画〉ティッシュタイム・フェスティバル』@豊洲PIT

氣志團/銀杏/サンボマスター/ガガガSP

11月

22日 危篤騒動

27日 退院&53歳誕生日

12月

19日 2:50 永眠