中学生の頃から大麻を吸ってきた男(27)が手を出した理由が深刻だった 簡単に入手できるこの国で彼は絶つことが出来るのか?

写真はイメージです

成瀬一徳(仮名、裁判当時27歳)にとって被告人として法廷に立つのは3度目のことでした。過去の2回はいずれも大麻取締法違反、そして今回もまた同じ罪名での裁判です。

2回目の裁判では懲役8か月の実刑判決がくだり服役を経験しました。しかし、出所してすぐに彼はまた大麻に手を出してしまったのです。

「もうやめようとは思っていたんですけど、またやってしまいました。(刑務所に)入る前と同じような考え方をしてしまって…。痛みが耐えられなくなってしまいました」

逮捕後に受診した病院で「重度大麻使用障害」と診断された彼が何度も大麻を使用してしまう理由、それは「痛みの緩和のため」でした。

彼は未成年のころから痛みに悩まされてきました。

スポーツでヒザと腰を故障してしまっていたのです。さらに原因のわからない頭痛もありました。ヒザと腰は我慢できても、この頭痛は耐え難いものでした。

頭痛に関しては何度も病院に行って相談してきました。薬も処方されました。しかし薬を飲んでも頭痛は治まりません。薬を変えても増やしてもダメでした。症状は一向に良くなりません。

そんな時に出会ったのが大麻でした。それはまだ彼が中学生だった時のことです。どんな薬を飲んでも治まらなかった痛みが、大麻を吸うと引いていったのです。それからというもの、どうやって安くはない大麻の購入代金を捻出していたかはわかりませんが、彼は大麻を使い続けてきました。

被告人質問では検察官の質問に誠実に答えていたように思えます。ただ、彼の言葉を「間違えている」と思う方もいるかもしれません。

――普通の人は痛みがあったらどうすると思いますか?

「病院に行くと思います」

――そういうことですよね。痛いからって大麻を使うのはダメなのはわかってますよね?

「わかってます。捕まったらまた刑務所に行くことになるのもわかってました」

――なんで大麻がダメなのかはわかりますか?

「こうやって捕まって、周りを悲しませるのが一番ダメだと思います。何で大麻がダメなのかは…正直わかりません」

――反社会的組織の資金源になったりとか、大麻を使用することでいろいろルーズになったりとかあるでしょ? 大麻代のために犯罪起こすような人がいるのもわかりますよね? 社会に拡がらない方がいいってわかるよね?

「…はい」

――じゃあ、もしあなたの母親が大麻を吸ってたらどうしますか?

「やめさせると思います。自分はともかく、大事な人には使ってほしくないです」

違法薬物に関する事件は後を絶ちません。有名な人が違法薬物に手を染めて大きなニュースになることも頻繁にあります。最近では日大ラグビー部の部員が大麻を所持していたとして逮捕されたことが大きく報じられていました。

一方で、医療目的であれば大麻の使用は解禁した方がいいという意見もあります。また、嗜好目的も含めての解禁を求める声もあります。

解禁はせずとも、大麻使用者に対しては刑罰を科すのではなく治療をするべきだという人もいます。

どのような考え方があるにせよ、少なくとも出所後1年も経たないうちに捕まった彼に実刑判決がくだることは間違いのない現実です。求刑は懲役1年6ヶ月でした。

「大麻依存を治すのが難しいのはわかっています。でも今回はしっかり止めたいと思いました。保釈してもらって外に出てすぐ、自分の大切な人たちからたくさんの言葉を貰いました。愛を貰いました。この人たちと同じ時間を過ごせなくなってしまうことが、自分の身体の痛みよりずっと痛いです」

刑務所内では当然大麻は使えません。前回の服役の際は処方してもらった痛み止めでなんとかしのいだそうです。

彼の痛みと大麻、そして大麻取締法に縛られ続けてずっと生きてきました。

「やめようとしたことは何度かありましたが、売人を探そうと思えばすぐに探せてしまうので…」

という環境にあるこの国で、彼が解放される日が来るかどうかはわかりません。(取材・文◎鈴木孔明)

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