「新型肺炎」で非常事態宣言、イタリア現地で見た観光国の反応

2019年12月に中国の湖北省武漢市で発見された新型コロナウイルスによる肺炎。その勢いは未だに衰える気配はなく、世界中の人々がその行方を見守っています。最近では日本国内で人から人への感染があったことも確認され、いよいよ対岸の火事とは言えなくなってきました。

日本では連日報道されているこの新型コロナウイルス。海外ではどのような反応なのでしょうか。ヨーロッパの例として、イタリアの状況をお伝えします。(本記事は原稿執筆時である1月31日19:00時点の情報をもとにしています。)


イタリアで「新型肺炎」感染者確認

イタリアでは1月30日夜に、国内で初めて2人の新型コロナウイルス感染者が確認されました。2人は中国からツアー旅行で訪れていた観光客で、67歳と66歳の夫婦。1月23日にミラノのマルペンサ空港から入国し、29日にローマで体調不良を訴えて検査を受けたところ、感染が確認されたということです。

現在、2人が滞在していたホテルの部屋は閉鎖され、同じバスに乗っていた他の観光客に対しても検査が行われています。2人は現時点で重篤な症状はなく「健康」のステータスにあるということですが、ローマ市内の感染症研究所に隔離され治療を受けている状況です。

欧州内で感染が確認されたのは、フランス、ドイツ、フィンランドに次いで4ヵ国目のこと。これを受けてイタリア政府は31日、非常事態を宣言しました。これにより地方自治体に特別な権限が与えられ、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な事務手続きが簡略化されることになります。

これまでにもイタリアでは、国内の主要な空港でサーマルカメラでの体温検出や肺炎の症状がないかの確認、電話番号と滞在先の確認、症状が出た場合の医療機関の周知などの対策を行っていました。現在はさらにそれに加え、中国とイタリアを結ぶ航空便の離発着を一時的に停止しています。

マスクを使う習慣がないイタリア

イタリアはヨーロッパでも屈指の観光国であり、季節を問わず多くの観光客が訪れます。そのため感染が確認されるのは時間の問題と言われていました。実際に感染者が確認されたことで、イタリア国内の報道は一気に過熱しています。

感染者が確認された30日夜以降は、これまで話題の中心であった地方選挙のニュースに変わって、各局とも新型コロナウイルスの話題をトップで報道。2人の旅行者が宿泊していたホテルや入院している病院、またローマ市内の様子などが事細かに報道されました。

宿泊していたホテルには報道陣が詰めかける騒ぎに

中にはマスクを着用して市内を観光するアジア人旅行者の姿が報道されることもあります。イタリアを含むヨーロッパでは、よほど重篤な病気でない限りマスクをすることはなく、予防目的でマスクを使う習慣もありません。マスクをかけて外出すると、重篤な病気ではないかと警戒されることも。そのため、マスク姿で観光する姿を報道して、あくまで予防のためであることを説明する場面もありました。

ミラノの中華街の人通りに変化は?

過熱する報道とはうって変わり、市内の様子は比較的落ち着いている印象です。例えばミラノ市内の中華街として知られるパオロ・サルピ通りでも人通りはいつもと変わらず、中華食材店やレストランなどにも客の姿が見られました。

歩いている限りは普段と変わらないミラノの中華街

ただ、ローマやミラノで例年行われている春節イベントは早い段階で延期が発表されるなど、新型ウイルスを警戒する意識は非常に高いものを感じます。中華街には日本食材を取り扱う店も多く、普段であれば現地在住の日本人の姿もちらほら見かけます。ただ、現在は状況が収まるまで、中華街に行かないようにしているという人も少なくありません。

中国国内の様子を報じるイタリアの新聞

「目に見えない恐怖」の影響

また、すでに日本国内でも一部で報道されていますが、新型コロナウイルスの拡大に合わせてアジア人への差別感情が強くなっているとの声も上がっています。日本からの留学生も多いローマのサンタ・チェチーリア国立音楽院は、医師の診察を受けるまで東洋人へのレッスンを中止して病欠扱いにすること発表し、大きな波紋を呼びました。

ヴェネチアを旅行中の中国人観光客がつばを吐きかけられたり、トリノに住む家族がウイルスの感染者として責められるといった事件も起こっています。

もちろん、こうした事件は一部の特殊なケースであり、現地で普段暮らしている中では差別的な言動を受けることはまずありません。ただ、イタリアを含めヨーロッパへの旅行を計画している方は、こうした例もあること、またそれはあくまで新型コロナウイルスという目に見えない恐怖から来ていることを、頭の片隅においておくといいかもしれません。

飛行機の離発着が制限されたり大きなイベントの中止が決定されたりと、すでに私たちの生活に大きな影響を与えている新型コロナウイルス。ただ、そのワクチンの開発や感染力、危険度などに関する研究はまだ始まったばかりであり、収束までにはまだ少し時間がかかるでしょう。見えない恐怖に対する不安はあるのは確かですが、不正確な情報に踊らされることなく、冷静に対処することが求められています。

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