「過度激動」という言葉は「ギフテッド」と呼ばれるもので、子供を育てている人にはなじみのある言葉ではないでしょうか。しかし一方で、この言葉に初めて触れて意味を調べている人も少なくないはずです。「Overexcitabilities」の日本語訳である過度激動とはどのようなことを指すのでしょうか。現在日本語でアクセスできる情報を基に紹介します。
過度激動(Overexcitabilities: OE)とは
改めて過度激動とはどういう状態を指すのか確認しましょう。訳語の関係で違う名称を使っている研究者もいます。
刺激に対して平均よりも強い反応をすること
人間は日々、さまざまな刺激にさらされて生きています。日差しがまぶしい、風が強い、寒い、暑い、セミがうるさいなど、普段はさほど意識しない刺激も少なくありません。
このような刺激に対して、平均的な人よりも強い反応を示すことを過度激動といいます。英語では「Overexcitabilities」といい、略して「OE」と書かれることもあります。研究者によって訳語は異なり、「過興奮性」「強烈性」と呼ぶ人もいます。
ギフテッドや発達障害、HSPの人に見られる
IQが高いのは,知的な情報処理能力が高いというだけでなく,様々な感覚的情報も大量に取り込み,そして,そこに強く反応するということにもつながるのです。インプットもアウトプットも激しいのです。これが,ドンブロフスキの過興奮性(Overexcitability:OE)です(Dąbrowski, 1964)。合わない環境にさらされた正常な人間は,否定的な反応を示します。これは,ギフティッド児でも同じです。ただ,IQの高さに伴う過興奮性をもちあわせるため,合わない教育環境での様々な刺激を,繊細に,そして激しく感じ,そして,それらに対して激しく反応するのです。
(引用元:ギフティッド児の誤診を防ぐ:その理解と,適した環境の必要性 (2) | CRN 子どもは未来である)
過度激動のある人は、他の人よりも日常的に刺激を敏感に受け取っています。その感受性の強さは、「ギフテッド」と呼ばれる高IQの人にしばしば観察されるようです。
また、「ハイリー・センシティブ・パーソン」、略して「HSP」と呼ばれる人たちにも、一部に過度激動がみられるそうです。HSPは疾患などではありませんが、その感受性の強さから生活上、つらさを感じる人も少なくありません。
参考
HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)とは?その特徴や症状|心療内科・精神科 うつ病治療の新宿ストレスクリニック
過度激動の概要
続いては過度激動のある人がどのような反応を見せるのかを解説します。これまでの研究で、大まかに5つのタイプに分けられることが判明しています。
感情性OE
喜怒哀楽の全ての感情が、平均的な人よりも強い状態です。感情性OEがある人は、周囲から見るとヒステリックに映ることもあるかもしれません。
ポジティブな感情だけでなく、ネガティブな感情も激しいのが特徴です。そのため進学・進級・就職などの大きな環境の変化に激しい恐怖を抱く人もいます。
想像性OE
想像力がとても豊かな状態で、人によってはそれを創作などに生かすこともできます。一方、自分の想像に浸り「心ここにあらず」の状態になったり、現実と想像の区別が分からないまま人に話して聞かせるために、周囲を混乱させてしまったりすることもあるようです。
知性OE
知性OEは他と比べるとポジティブに感じる人もいるかもしれません。知的好奇心があふれて止まらない状態です。
鉄道や恐竜など、子供たちが何かに関心を抱くと大人が驚くほどのスピードで知識を吸収していくことがあります。知性OEはその度合いがさらに激しい状態を想像してみると分かりやすいでしょう。知的好奇心があることはいいことですが、「どうして?」「なんで?」を繰り返されたり、「本を買ってくれ」「図書館に連れて行ってくれ」などという要求を繰り返されると周りの大人も疲れてしまいます。
精神運動性OE
心の状態の激しさが動作にも表れます。興奮すると体が動いてしまうのはどんな人にもあることですが、OEの場合はその動きがとても激しく、日常的に出現するようです。
平均的な人から見れば「そんなに慌てることないのに」「そんなにイライラしなくても」と思うような状況で精神運動性OEが出るため、周囲は目ざわりに感じたり戸惑ったりすることもあるようです。
知覚性OE
照明器具の明かりが苦手、チャイムの音が嫌い、化学繊維の洋服やタグの部分がチクチクして着られないなど、五感が研ぎ澄まされているために不快感を感じやすいのが知覚性OEです。一方で食事がおいしい、風景がきれいといった快感も強く感じます。
過度激動によって被る可能性のある不利益
ここまで過度激動の特徴について解説してきました。過度激動があるゆえに日常生活で不利益を被ることもあります。どのようなことでしょうか。
他の精神障害への誤診
これまでに解説してきた過度激動のような特徴は、他の精神疾患や発達障害のある人にもみられることがあります。そのため、簡単な診察・問診だけで疾患・障害と誤診されてしまうことがあるようです。
上越教育大学の角谷詩織准教授は、特にADHDとアスペルガー症候群と誤診されることが多いと指摘しています。海外では誤診を避けるためのチェックリストなどが作られているそうです。2019年より日本でも科研費での研究が始まっているため、これから過度激動に対する理解が深まっていくことを期待したいところです。
参考
ギフティッド児の誤診を防ぐ:その理解と,適した環境の必要性 (3) | CRN 子どもは未来である
高い知能をもつ人が示す過度激動特性(刺激への感受性の強さ)に関する尺度開発 (KAKENHI-PROJECT-19K02935) | KAKEN — 研究課題をさがす
いじめなど周囲からの不理解
過度激動を持つ人は、言動や感性に周りの人と違う面があります。この違いからいじめを受けたり、「もっと落ち着きなさい」「それは自分でどうにかできる問題だ」などと理解されないことがあります。
いじめは心身に危害を与えますし、周りの理解がないと本人は孤立してしまいます。社会生活を営む上で、周囲が過度激動に対して適切な理解をすることが求められています。
本人の特性が生かせない環境に置かれる
落ち着きがないから成績が悪いのだ、静かに作業できないからこの仕事に向いていない、と周囲に判断され、せっかく本人が特性を持つのに、それを生かせないことがあります。
特にギフテッドの人は非常に高いIQと能力を持ちますので、それが生かせない生活を送ることは苦痛です。また社会的な損失も大きいと言えるでしょう。
まとめ
日本ではまだまだ資料も少なく、認知度も低い過度激動について紹介しました。少しずつ研究が進んできてはいますが、特に過度激動のある子供を育てている人にはまだまだ情報も周囲の理解も足りていないのが現状です。「そういう特性を持っている人もいるんだな」という知識だけでも周囲が持てば、生きづらさが少しなくなる人もいるかもしれません。
参考
Overexcitabilitiesとの共存。Mai C.|note
アメリカのギフテッド教育事情 | 論文・レポート
ギフテッドの概念と日本における教育の可能性 | 滋賀大学学術情報リポジトリ
日本のギフテッド当事者に対する特別な教育的ニーズに関する聞き取り調査 第三報 | 高知大学学術情報リポジトリ
ギフテッドの情緒社会面・行動面・感覚面における特別なニーズと対応 | 高知大学学術情報リポジトリ
認知機能にアンバランスを抱えるこどもの「生きづらさ」と教育 : WISC-Ⅳで高い一般知的能力指標を示す知的ギフティッド群 | HUSCAP
過度激動(OE)について | ユア子育ちスタジオ