「家計見直せ夫」に地道に立ち向かう、家庭内金銭バトル

結婚すれば夫婦ふたりで家計をやりくりしていくのは当然のこと。日本では妻が家計を握っているケースも多いのですが、夫が生活費として一定の額を毎月、妻に渡す方法をとっている家もあるようです。


結婚前に言っていた収入と違う

5年前に、つきあって半年で結婚したカナコさん(34歳)。相手はネットで知り合った3歳年上の会社員の男性です。

「遠距離恋愛だったこともあって、正直、相手のことをどこまで把握していたのかと今となっては思うのですが、当時は30歳までに結婚したいという思いが強くて……。彼のほうも結婚願望が強かったみたいで、とにかく結婚しようと盛り上がってしまったんです」

結婚と同時に、彼女は仕事を辞めて関東でひとり暮らしをしていた部屋から彼のいる関西へ引っ越し,同居が始まりました。生活が落ち着いたら彼女も仕事を探すつもりでしたが、同居して4ヶ月後には妊娠が発覚。今は4歳の娘がいます。

「結局、新婚生活もほとんどなく、夫は私がつわりで苦しんでいるところとお腹が大きくなってばくばく食べているところしか知らない状態。夫は結婚前、月に手取り30万以上あると言っていたんですよ。家賃は会社負担だし、それなら私が働かなくてもなんとかやっていけるねと話していた。実際には働くつもりだったけど子どもができて働けなくなって。今でも覚えています。一緒に暮らし始めて最初の給料が出た日のこと」

実際のお金は…

カナコさんは夫に明細を見せてほしいと頼んだ。これからは家計が一緒になるのだから、ふたりで使い道を考えたい,話し合いたい、と。すると夫は明細を出したものの、そこには手取り25万円の文字が。

「先月から手取りが減ったと言うんですよね。理由を聞いたらわからないって。言い訳ですよね、もともと手取りは25万なんだと思う。ウソをつかれていたことにちょっとイラッときました。でもしかたがない。そこから光熱費や食費を決めていこうとすると、夫が『オレの小遣い、7万で』って。じゃあ、その小遣いから趣味のバイクにかかる費用や携帯代金も出してねというと、それは家計から出せという。それじゃ貯金もできないと言うと、食費を削れって。食費なんて月に2万でなんとかなるだろって」

週に5000円、1日700円で朝食と夫の弁当と夕食を作れというのはかなり無理があります。しかたなく安い鶏挽肉や野菜ばかり使うと、夫は「牛肉くらい食わせろ」と怒りました。

腹が立ったカナコさんは、夫に月4万円の食費+雑費を要求。夫は渋々納得し、給料日にはテーブルの上に4万円置かれるようになりました。カナコさんの携帯費用や彼女のお小遣いはいっさいありません。

「最初は自分の貯金を取り崩していました。妊娠5ヶ月くらいから体調も安定してきたので、少しずつアルバイトを始めたんです。携帯費用や子どもを迎え入れる準備でほぼ消える程度しか稼げませんでしたが」

子どもが生まれれば彼の気持ちも変わるのではないか。カナコさんはそう思って我慢していました。

出産後もこじれていく関係

子どもが生まれてみると、夫は驚くほど興味を示しませんでした。ときおり寝顔を見たりはするものの、どう扱っていいかわからない様子だったそうです。

「親になる自覚もないまま親にさせられてしまった男の子、みたいな夫の様子が、なんとなく気の毒になるほどでした(笑)。歩いたりしゃべったりするようになればまた変わるかなと、私は長い目で見ていこうと思ったんです。ところが夫は、相変わらず今までと同じ4万円しかくれない。ミルク代もおむつ代もかかるんですよね。そう言うと、夫は1万円追加しながら、『おまえも子どもも金食い虫みたいだな』って。家族でしょ、あなたが結婚したいと言ったんでしょと言ったら、ぷいと外に出てひと晩帰ってきませんでした」

もうやっていけないかなと思いつつ、子どもがもう少し大きくなるまではがんばろうとカナコさんは覚悟を決めます。こういうとき、いつも女性はたくましいものです。

「私は両親が離婚し、母が再婚した男性にけっこう疎まれながら育ったんですよ。だから仕事を始めるとすぐひとり暮らしを始めた。結婚も事後報告でした。母とも疎遠になっていたので、つらいからと実家にも帰れない。だから夫が少しずつでもいいから変わってくれるように仕向けていくしかないと思ったんです」

家でできる内職を始め、娘が1歳になったころ保育園に預けて働きに出るようになりました。そのころまた夫に生活費アップを要求します。

「すると夫がいいかげんにしろ、家計を見直せと叫んだんですよ。私は細かく家計簿をつけていたので、渡りに船とばかりこれを見ろとつきつけました。毎月の赤字、私の貯金を取り崩していることなどがはっきり書かれています。それでも夫は見直せばもっと減らせるの一点張り。どこをどう減らせばいいのか言ってほしいと逆に宿題を投げました」

この攻防、実は今も続いているそうです。こうなったら別れたほうがいいのではないかと通常は思いがちですが、彼女は粘っています。夫に父親としての自覚をもってもらいたいのだそうです。そもそも、夫も自分と同じような境遇に育って温かい家庭を知らないからこうなっていると彼女は感じています。

夫は変わるのか?

「娘が3歳になったとき、夫がどこからか七五三の着物を調達してきたんですよ。借り物らしかったけど、ぶっきらぼうに『着せろよ』って。3人で神社に行きました。娘は無邪気に,パパ、パパと言いますよね。さすがの夫もその声を無視はできない。そのころから,夫が少しずつ変わってきているという実感はあります」

家計を見直せと叫ぶ夫に、恐怖感を覚えていたカナコさんですが、今はむしろそのときが夫に家計を見直させるチャンスだと感じるようになったといいます。

「ダメかな、もう無理かなと思いながら結婚生活を続けている感じですね。こんなスリリングな生活でいいのかなと思うこともありますが、夫は子どもや私に手を上げたことはない。怒鳴るといっても、言い方がぶっきらぼうで声が大きいだけのような気もします。別れるのはいつでもできるから、今のところは続けてみるか、と」

夫の本音が見えてきませんが、それは一緒に暮らしているカナコさんにもわからないのだそう。ただ、結婚を決めたのは夫とカナコさん自身。自分の決断を信じたいそうです。

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