日本語教師として海外就職したい!求人状況と就職までの道のり

日常で使っている日本語を特殊スキルとして使える日本語教師は、海外での求人も見つけられる仕事です。「既に日本語は身についているから、現地で即戦力として働ける」とお考えになるのではないでしょうか。当記事では、日本語教師になるのに求められる採用条件や、海外の求人需要から見る日本語教師の現実をご紹介します。

海外での日本語教師の採用条件

日本語教師になるために必須な資格はありません。しかし、多くの求人情報で同様の条件が求められているため、日本語教師に応募するのに必要な条件はあります。

日本語を教える勉強をしたという証明

海外で日本語教師になる場合も、日本国内で働く場合と同様に次の3つの証明のうちどれかを満たしていることを求められます。

【日本語教師に求められる証明】

採用条件	日本語教師養成講座 420時間修了	日本語教育能力検定試験合格	日本語主専攻あるいは副専攻
学べる機関	420時間コース対応学校一覧|日本語教師の集い	検定対策コース 対応学校一覧	大学
教育実習

時間数

将来的に義務づけられる可能性がある。

学術的カリキュラムが中心で、最新の教育現場情報が反映されていない。

参考

日本語教員の資質・能力に関するこれまでの議論概要(2017.5.11)|文化庁

日本語教師の資格はどれが有利か?|JEGSジェグス・インターナショナル

日本語教師は日本語を教えるだけではなく、日本で社会人として働いた実体験を話す能力も求められます。そのため就業経験がある方が採用に有利なので、大学で学んだばかりの新卒者は日本語教師として働き口を探すのは難しいと言われています。

現地の就労ビザの取得

海外で日本語教師として働くためには、現地の就労ビザを取得する必要があります。国や時代によって取得条件は変化します。

下記参考で、中国、香港、シンガポール、タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシア、台湾、韓国、インド、カナダ、アメリカの就労ビザの取得条件が詳しく説明されていますのでご覧ください。

参考

主要な国の就労ビザ・ワークパーミット取得条件一覧を徹底調査!(2019.4.3)|海外就職のABC

英語力・現地語力~「欧米圏」は必須・「アジア圏」は任意

英語力や現地語学の力は欧米圏では必須条件ですが、アジア圏は任意条件とされているのが一般的です。ただし、就労ビザの取得条件によっては現地語が必要な場合もありますので、アジア圏だから必ず任意であるとは限りません。必ず採用条件と就労ビザ取得条件は併せて確認しましょう。

英語力や現地語力を日本語教師に求めるか否かは、日本語教育の手法の違いで変わります。

【アジア圏と欧米圏の日本語教育手法の違い】

場所	教え方	説明
アジア圏	直接法	日本語を使って日本語を教える方法ただし、質疑応答できるレベルの英語は必要
欧米圏	間接法	学習者の母語を使って日本語を教える方法(日本語学習初級者に教える際に効果的)英語力と現地の母語を使える必要がある

参考

日本語教師は英語力は必要か|JEGSジェグス・インターナショナル

アジア圏で日本語教師になるには(海外編)|JEGS ジェグス・インターナショナル

欧米圏で日本語教師になるには(海外編)|JEGS ジェグス・インターナショナル

アジア圏で現地語の能力が「任意」なのは何故?

アジア圏で採用条件に現地語を任意にしている理由は3つあります。

1. アジア圏では母語が異なる生徒が一斉に授業を受けることが多いため、共通言語を1つに絞ることができないことがある。そのため、日本語を直接法で教える他に日本語教育ができない。
2. そもそもアジア圏の現地語が話せる日本人がほとんどいないため、現地語を話せることを採用条件に課しても意味がない。
3. アジア圏は日本語教育の需要が高いので、採用条件を厳しくすると求人応募者がいなくなってしまう。

欧米圏では日本語を間接法で教えるため、英語と現地語が話せることを採用条件として課しています。もともと求人数が少ないので、厳しい採用条件を課しても構わないことも関係しています。

日本語学習の需要を比較~アジア圏と欧米圏、どちらで働くか

日本語教師としてアジア圏と欧米圏のどちらで働く方が採用されやすいのか、日本語学習の需要に注目して考えてみましょう。

日本語学習の需要は経済情勢に比例する

日本語学習の需要は、日本との経済的なつながりの強さに比例します。

日系企業が海外に進出すると、現地に雇用が生まれます。日系企業の工場で働く現地の方にとって、日本語を学ぶことが生計に直結するようになるので、日本語学習の需要が発生し、日本語教師の求人が増加するという連鎖が起こるのです。

国際交流基金が海外における日本語教育機関の状況を把握するために実施した調査では、2018年度の日本語学習者数上位10か国は次のような結果が出ました。

【海外の日本語学習者数上位10か国の学習者とその増加率】

順位	国・地域名	学習者数	2015年度と比較した場合の増加率
1	中国	1,004,625人	+5.4%
2	インドネシア	706,603人	△5.2%
3	韓国	531,511人	△4.4%
4	オーストラリア	405,175人	+13.4%
5	タイ	184,962人	+6.4%
6	ベトナム	174,461人	+169.0%
7	台湾	170,159人	△22.7%
8	米国	166,565人	△2.6%
9	フィリピン	51,892人	+3.7%
10	マレーシア	39,247人	+18.1%

(2018 年度「海外日本語教育機関調査」結果(速報)(2019.10.8)|JAPANFOUNDATION

より一部抜粋)

上位10ヶ国の中で注目したいのは、2018年に経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)を締結したインドネシア・オーストラリア・タイ・ベトナム・フィリピン・マレーシアです。現在、多くの日系企業が進出している影響で日本語学習への授業が急激に高まっており、中国を超える勢いで日本語教師の求人数が増加している国もあります。

アジア圏~日本語教師を求めている!就職しやすい

アジア圏は日本との経済的なつながりが強い地域です。そのため、日本国内よりも日本語教師の求人情報数は多く、より好みをしなければ比較的容易に就職先を見つけることができます。また、政府も各国・地域の状況に応じた日本語普及事業をさらに積極的に行うことにしているため、就職先を探す苦労は少ないと言えるでしょう。

参考

平成27年行政事業レビュー説明資料 国際交流基金運営費交付金(日本語普及)|外務省

欧米圏~日本語を学ぶ需要はほとんどない

欧米圏は日本との経済的なつながりが弱い地域であるため、お金を払って日本語を学習したいという需要があまりありません。そのため、欧米圏で日本語教育を行うケースはほとんど次の3つに限られているのが現状です。

1. すでに就労可能なビザを持つ在住者や永住権所有者が、民間の語学学校でパートタイマーやプライベートレッスンとして教える。
2. 現地の規定に従って現地の教職課程を取り、小中高校の先生になり、外国語の選択科目の一つとして教える。
3. ボランティアプログラム(日本語教師アシスタント等)に参加する。

そのため欧米圏で日本語教師として働くのは、すでに自分が身を置いている国で、周囲から求められて自然発生的に始めるのが一般的なようです。

海外で働く日本語教師の現実~想像以上に厳しい

海外で日本語教師として働き、現地で生活をするのは思っているよりも厳しい現実が待っています。日本語教師の置かれている現実をご紹介しましょう。

社会人経験者優遇の中途採用市場~新卒者には厳しい

日本語教師は、新卒の未経験者よりも、現地で即戦力となる経験者が優遇されます。なぜなら、日本語を学びたいという人は、日本での社会人としての実体験や日本の社会情報を聞きたいと考えているからです。そのため、日本語教師として日本語の知識やそれを教える技術も大切ですが、人前で説得力のあるエピソードを披露できるパフォーマンス力の高い人材が重宝されます。

また勤務する国によっては就労ビザの取得条件に、社会経験を求める場合があります。そのため、国によって新卒の方は事実上海外で日本語教師として働けない国がある、ということを知っておきましょう。

日本語教師の収入のみでは貯蓄できない

勤務する国や場所によって異なりますが、アジア圏では現地で生活するには困らない程度の給料を提示されている求人サイトが多いようです。しかし現地通貨で給料が支払われるという点に注意が必要です。国によって為替格差があるため、決して余裕のある生活を送れるほどの金額をもらえるわけではないのです。そのため、日本語教師を辞めて帰国したくなっても帰国するための渡航費が工面できない、などのトラブルに見舞われる場合もあります。

特に欧米圏では日本語教師のみで生活費を得るのはかなり難しいと言われます。そのため勤務先がアジア圏か欧米圏か関わらず、あらかじめ貯金を蓄えておく必要があります。

言葉の壁!現地の学校と雇用契約トラブルになる可能性がある

欧米圏では間接法で授業を行うため英語力と現地語力が求められていますが、アジア圏では授業が直接法で行われるため現地語力を求められていません。しかし、現地語が通じない場合、採用時に交わした雇用・給与条件と現地でサインする契約内容が食い違っているトラブルに見舞われることがあります。

現地語が堪能である必要はありませんが、現地語を理解していることを相手に示すだけの語学力を身につけている方が安心です。海外勤務先との雇用契約は1人で管理し、身の安全も1人で確保する必要があります。就職が決まった場合は、渡航までに現地語力を磨くことをおすすめします。

授業の準備に時間がかかる~日本語教材が現地にないことも

教師という職業は、授業よりも授業外の苦労が多いと言われており、日本語教師も例外ではありません。しかし日本の一般的な教師に比べて大変なのが、日本語教材集めです。

英語や現地語が堪能ではなく説明がうまく伝えられない場合、言葉の壁を埋めるために絵や動画などの教材がたくさん必要になります。しかし、日本語教材は現地で調達することはまずできません。オンラインで購入した日本語教材が授業までに到着しない可能性もあるため、自作の教材を準備して対応しなければなりません。

「欧米圏」で就労ビザを取得するのはほぼ無理

欧米圏では日本語を学びたいという需要が低いため、アルバイトやパートタイマーなどの短期雇用か、ボランティアでのプログラム参加で日本語教師として働くことになります。ボランティアはもちろん、短期雇用では就労ビザを取得することは難しいでしょう。

海外で日本語教師として働くまでの道のり

実際に海外で日本語教師として働くまでルートをご紹介しましょう。

求人情報を見て応募する

日本語教師求人情報は、国内外にかかわらず下記サイトから得ることができます。

【海外の日本語教師求人情報サイト】

  • 日本語教師の集い
  • 求人ボックス
  • 国際日本語研修会
  • ジェグス・インターナショナル
  • カモメアジア転職
  • にほんごしょてん そうがくしゃ
  • 日本村
  • 全米日本語教育学会 等

自分の希望勤務状況に合った求人情報が「いつ」「どこで」出るか分からないので、複数サイトを同時検索・同時登録をし、常にアンテナを張っておくようにしましょう。

このとき就職成就するコツは、求職者が殺到する時期を避けることです。

【日本語教師の求職者が殺到する時期】

日本語教育能力検定試験日(毎年10月下旬)後の11月~翌2月頃

参考

未経験で日本語教師になるには?(求人やコツ・給料など)|JEGS ジェグス・インターナショナル

つまり、3~10月の就職倍率が低い時期を狙って就職活動を行うのがおすすめです。

第1関門:採用試験を受ける【書類選考】

自分の希望勤務状況に合った求人情報がみつかったら、できるだけ早く応募をしましょう。

応募をすると、応募勤務先から採用試験のための書類を提出するよう求められます。

【採用選考書類】

1. 履歴書
2. 職務経歴書
3. エッセイ(勤務先による)

第2関門:採用試験を受ける【面接と模擬授業】

書類選考を通過すると、続いては面接と模擬授業の採用試験を受けることになります。海外勤務を希望している場合、採用試験の方法は2つあります。

【面接と模擬授業の行う方法】

1. 現地に赴く。
2. 面接はSkypeで行い、模擬授業(20~30分程度)は録画データを送る。

模擬授業の内容や採用試験方法は勤務先に必ず確認をして齟齬のないようにしましょう。

まとめ

もし新卒で日本語教師として働こうと考えている場合は、一度日本国内の日本語教育機関に就職し、説得力のある日本社会での豊富な人生経験を積むのがいいでしょう。

海外で日本語教師として働くのは決して楽な道ではありません。しかし、日本文化や日本語の知識を活かして働くことができ、日本好きな海外の人と交流することもできます。世界を広げる職業としてはとても魅力的であることは確かです。

参考

日本語教師か就職かの進路に迷ったら|JEGS ジェグス・インターナショナル

日本語教師の給料・収入・年収は?給料アップを目指す方法も紹介!(2019.4.25)|Brash UP 学び

卒業後の進路について|日本語教師の集い

未経験で日本語教師になるには?(求人やコツ・給料など)|JEGS ジェグス・インターナショナル

日本語教師は手頃な海外就職方法か?日本語教師歴17年の私が解説します(2019.12.25)|Guanxi Times

2018 年度「海外日本語教育機関調査」結果(速報)(2019.10.8)|JAPANFOUNDATION

今後、日本語教師の需要と将来性がある国|JEGS ジェグス・インターナショナル

経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)|外務省

トビタテ!留学JAPAN 日本語教育|文部科学省

日本語教師になるには|日本語教師の集い

日本語教師にはどうやったらなれるの?現在勉強中のNAOさんにインタビュー(2019.12.25)|Guanxi Times

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