山田裕貴「全然舞い上がってないです」 エキストラ時代の悔しさから「過去一」のシーンを作り上げた「ホームルーム」インタビュー【前編】

山田裕貴「全然舞い上がってないです」 エキストラ時代の悔しさから「過去一」のシーンを作り上げた「ホームルーム」インタビュー【前編】

「怪人百面相になりたいんですよ。“山田裕貴は消えている”って思われるくらい」

インタビューでこんな言葉を口にするのは、2019年、映画「HiGH&LOW THE WORST」では圧倒的にけんかは強いがどこか抜けている鬼邪高校の番長・村山良樹役を、連続テレビ小説「なつぞら」(NHK)では主人公の幼なじみ・小畑雪次郎役を演じた俳優・山田裕貴さん。昨年は映画、ドラマ、主演を務めた舞台など多数の作品に出演。さらに今年は主演ドラマ2本に、声優として登場する作品も含めると既に4本の映画の公開が決定している。

放送中のドラマ「SEDAI WARS」(MBS/TBSほか)、「ホームルーム」(MBSほか)では異例の同時期2作主演。話題作への出演が相次ぎ注目も集まる中、「ホームルーム」の主人公を演じることについて「今活躍されている同世代の俳優の方々は、絶対この役をやらないだろうなって(笑)。逆にそれが自分の強みかなって思います」と、自身の立ち位置を客観的に捉え、はっきりと言葉にする。

人気ウェブコミックを実写ドラマ化した「ホームルーム」は、生徒からも人気の高校教師で「ラブリン」の愛称で親しまれる愛田凛太郎が、いじめを受ける生徒・桜井幸子(秋田汐梨)に優しく寄り添い、何かが起きるたびに助けに向かうというストーリー。しかし、実は幸子をいじめているのは愛田本人。

自分でいじめて自分で救う、自作自演を繰り返す愛田と、純粋な愛を持つ幸子、そんな2人を取り囲む個性的な生徒と先生たち。予測不能な展開に目が離せないドラマで、山田さんも「最終話まで見たらみんな泣いちゃうと思います。最後まで見てもらったら、“愛”に対する考え方が変わってるんじゃないかなってくらい」と熱弁する作品だ。

1月26日に放送された「情熱大陸」(TBS系)では、俳優を志して上京した頃の思いをこう振り返った。「俳優になるしかない、それ以外は“死”だ」。今、考えていること。あの頃、考えていたこと。山田さんに、熱い思いを聞いた。

■変態教師役のオファーに「“いい子”のイメージから思い切り脱却できるなって」

「面白い役をやりたいという気持ちに、制限をかけないというか。どんなところでも飛び込んでいこうとするのが自分の強みだと思っていて。ちょうど朝ドラが終わり、舞台が終わり、なんかこう…。“いい子”のイメージから思い切り脱却できるなって」と本作のオファーがあった時の心情を振り返り、「ただ一つ心配だったのは、汐梨ちゃんにいろんなことをしてしまうので、嫌われないか心配でした(笑)」と、冒頭から取材の場を和ませる。

既に放送を終えた第1話から、早速変態っぷりを露わにした愛田。幸子の家に忍び込み、ベッドで眠っている幸子に「黄金比の法則」の授業を“開講”。熟睡しているのをいいことに、足の指先を愛(め)でたり、髪をなでたり。それだけでなく、そんな狂愛を見せる愛田の姿はなんと常に“全裸”。

「不思議なことに、演じていくたびにラブリン(愛田)の気持ちがどんどん分かるんですよね。“変態”っていう言葉を使われているけど、ラブリンにとっては純粋な愛だし。役に入り込んでいるうちは本当に苦しくて、『幸子、幸子、幸子!!』ってなるんです。だから、幸子の写真が壁一面に貼られている部屋にいるとすっごく落ち着くんですよ。気持ち悪いってなるじゃないですか、普通。でもね、不思議なもんで(笑)」。

役に入り込み、自分の言葉と表現方法で役を動かしていく山田さん。愛田なりの“愛し方”をアドリブで演じることも少なくなかったそうで、幸子役の秋田さんによると「段取りの時から山田さんは自由に演じていました(笑)」とのこと。

「ギリギリのライン、さらに汐梨ちゃん本人も悪い気がしないラインを狙って、攻めていこうと。ふっふっふ(笑)。本当はもうちょっとね、いろいろしたかったんですけど。あ、ラブリン的には、ですよ!(笑)」と笑顔を見せる。

■俳優という仕事の面白さ「自分の人生より心が動いてるんですよ」

映画「HiGH&LOW THE WORST」では己の拳のみで勝負する不良、連続テレビ小説「なつぞら」では愛情いっぱいに育てられた一人息子、舞台「終わりのない」ではごくごく普通の10代の少年。それらとはまたガラッと異なる印象の役に「ラブリンには何度も共感しました。終盤の方は、ラブリンと同じように本当に苦しくなってきて…。今まで演じてきた役の中で、飛び抜けて苦しかったかもしれないです」と撮影当時を振り返り、次第に表情を曇らせていく。

「話が進んでいくごとに、幸子との距離が開いていくんですよ。撮影のたびに『今日のこのシーン、また振り向いてもらえない…』『どうしよう、どうしよう』っていう気持ちを引きずってしまって。汐梨ちゃんも愛田先生がほかの人とキスするシーンを見た後は、幸子としてだと思うんですけど、すっごく悲しそうな顔をしているように見えたんです。勘違いかもしれないんですけど。それを見てまた苦しくなる、みたいな」。

幸子との関係に思い悩む愛田さながら、うつむくように話していた山田さんが、パッと顔を上げる。「このお仕事って面白いなって思うのが、自分の人生より、役を生きてる方が心が動いてるんですよ。だから『自分の人生、つまんな』と思うんです。役に入り込んでいるうちはそうやって本当に苦しくなるんですけど、だから僕、この仕事好きなんだなって」。

「なつぞら」公式サイトで公開されているインタビューでも、雪次郎を演じた撮影期間を思い返し、「とにかく毎日楽しくて、自分で生きている人生より雪次郎の人生は楽しいです」と明かしていた。目の奥には揺らがないものを宿らせながら、キラキラした表情でそんな言葉をさらっと、それでいてどっしりと口にする山田さんを目の前にすると、俳優という仕事が山田さんにとって本当に「天職」なのだろうなと感じずにはいられなくなる。

■エキストラ時代の悔しさが、「過去一」のシーンに結びついた

本作では初の教師役。そして同時期2作主演となる「ホームルーム」「SEDAI WARS」で、連続ドラマ初主演を飾った。

「先生役が初めてなので、共演するみんなが僕にとって初めての生徒なんですよ。みんな毎日現場に来て、エキストラさんにお願いするような役割も全部、生徒役のみんながやってくれたんです。教室のシーンだけじゃなくて、後ろに見える廊下にいる子とか、そういうのも朝から晩までずっと。中には1日中いて、一言もセリフがない子ももちろんいて」。

18歳で地元・愛知県から上京。芸能養成所で芝居を学びながらドラマや映画のエキストラに参加し、チケットのもぎりやチラシの折り込み、舞台のセットの組み立てや搬入も行いながら、必死に「俳優」という仕事に食らいついていた。

「もともとエキストラからやってるから、セリフがない子たちの気持ちが分かるというか。授業のシーンでは、ラブリンは絶対幸子を当てるんですよ。でも、幸子の前にほかの生徒を当てたりして『この先生、愛されてるんだな』っていう空気をみんなで作らないと、ラブリンは完成しないなって思って。『授業中しゃべってもいいし、思ったこと言っちゃっていいから』って伝えて、みんなで話しながら撮影することができたんですよ。小林勇貴監督も『自分の作品の中でも過去一だ、勝った!』って大絶賛してくれました。あと、主演だろうとそうでない役だろうとどの現場でも考えてることなんですけど、生徒役の子たちも、ヤンキーチームも、みんなが『このドラマに出てよかったな』って思える楽しい現場になればいいなって。『山田くんがいたから、なんか楽しかったな』って思ってくれればいいなって、そういうことは意識していました」。

■異例の同時期2作主演に「全然舞い上がってないです」

放送中の「SEDAI WARS」では、何事に対しても受け身な性格のゆとり・さとり世代の27歳・柏木悟を演じている。周囲に流されて大統領決定戦「SEDAI WARS」に参加する、冴えない若者の役だ。

「僕、だいたい悪い役か明るい役が多かったので、そういう“普通”の役をずーっとやりたかったんですよ。あと、変人もやりたかったんです。僕のやりたい役を両方とも用意してくれて、MBSさんには感謝ですね(笑)」。

挑戦してみたかった役が二つも舞い込むが、そこに浮かれてはいない。「同時期2作主演で『すごいことだなぁ』とは思いますけど、やれてすごいな、で終われないじゃないですか。見てもらわないといけないんで。すごく感謝していますし、こんなにありがたいことはないなって。だからこそ見てもらわないとなって思ってるので、全然舞い上がってないです。作品の完成度というか、役に入り込めた感覚的には満足してるんですけど、でも見てもらわないとなっていうのが一番ですね。冷静です、すごく」と落ち着いた声で語る。

小林勇貴監督とのエピソードや、お芝居以外で「心が動いた」ことについてお話を聞いたインタビュー【後編】はこちら。後編ではプレゼント情報も。

【プロフィール】


山田裕貴(やまだ ゆうき)
1990年9月18日生まれ。愛知県出身。おとめ座。11年、「海賊戦隊ゴーカイジャー」(テレビ朝日系)でデビュー。近年の主な出演作は、映画「あゝ、荒野」「万引き家族」「あの頃、君を追いかけた」「HiGH&LOW」シリーズ、ドラマ「ホリデイラブ」「特捜9」シリーズ(ともにテレビ朝日系)、「健康で文化的な最低限の生活」(フジテレビ系)、連続テレビ小説「なつぞら」(NHK)、舞台「終わりのない」など。映画「嘘八百 京町ロワイヤル」が公開中。さらに映画「燃えよ剣」「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」が公開予定。4月24日公開の映画「クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」ではアニメ作品の声優に初挑戦する。

【番組情報】


ドラマ特区「ホームルーム」
MBS 木曜 深夜0:59~1:29
tvk 木曜 午後11:00~11:30
チバテレ 金曜 深夜0:00~0:30
テレ玉 水曜 深夜0:00~0:30

取材・文・撮影/宮下毬菜(TBS・MBS担当)
撮影/尾崎篤志

<参考文献>山田裕貴オフィシャルブログ「Trust yourself.」<https://ameblo.jp/yuki-yamada-we/entry-12012317306.html>(2020年1月29日閲覧)

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